SCMと物流は何が違うのか|同じトラックを見ているのに、決める人も直す場所も違う理由

荷台がすかすかのトラックを見かけて、「あの空きを埋めればコストが下がるのに」と思ったことはないでしょうか。物流とSCMの違いは範囲の違いで、物流は運ぶ・保管する・荷役するといったモノの動きを良くする仕事、SCMは、何をどれだけ作り、どこに置き、いつ発注するかまで含めて、企業の枠を超えて需要と供給をつなぐ仕事です。
空きを埋める方法も、この範囲の違いで分かれます。便を束ねて積み方を工夫するのは物流の仕事で、そもそも小口で何度も届けなければならない発注の出し方を変えるのは、SCMの仕事です。ロジスティクスは、その間に入ります。
物流・ロジスティクス・SCMの違い:まず1分だけ
日本産業規格のJIS Z 0111(物流用語・2006年改正版)では、物流を「物資を供給者から需要者へ、時間的及び空間的に移動する過程の活動」と定義しています。一般には包装、輸送、保管、荷役、流通加工と、それらに関連する情報の機能を総合的に管理する活動、とされています。ロジスティクスは同じ規格で、物流の諸機能を高度化し、顧客満足や社会的課題への対応も目指す戦略的な経営管理と定義されています。
SCM(サプライチェーンマネジメント)は、米国の物流・SCMの専門家団体であるCSCMPが、調達、製造、すべての物流管理の活動の計画と管理を含み、取引先との調整や協働も含むものと説明しています。同団体は、供給と需要の管理を企業の内外で統合するものだとも述べています。ロジスティクス管理は、SCMの一部だと位置づけられています。
3つを並べる
比べる点 | 物流 | ロジスティクス | SCM |
|---|---|---|---|
範囲 | モノの移動と保管の機能 | 物流の機能を、調達から回収までつなげて高度化 | 調達・製造・物流に、取引先との調整まで加えた全体 |
主な問い | どう運び、どう保管するか | 顧客の要求にどう応えるか | 需要と供給をどう合わせるか |
主に決める人 | 物流部門・倉庫・運送会社 | 物流部門と、調達・販売の担当 | 経営と、調達・生産・販売・物流の合意 |
直す場所の例 | 積み方、便の統合、倉庫の動線 | 拠点の配置、輸送手段、在庫の置き場所 | 発注の出し方、生産計画、取引先との情報共有 |
見る指標の例 | 積載率、荷役時間 | 納期遵守率、物流コスト | 在庫の日数、欠品率、需要予測の精度 |
表の下の行ほど、物流部門の外に答えがあります。物流の改善は、決める人も直す場所も物流の現場の内側で完結します。SCMの改善は、他部門や取引先を巻き込まないと実現しません。
架空の例:同じ荷物量で、トラックの空きが消える
数字で考えます。次の例は架空です。1台に12枚のパレットを積める車両で、ある取引先に週に10枚分の荷物を届けているとします。
発注の出し方 | 週の便数 | 1便あたりの積載 | 積載率 |
|---|---|---|---|
毎日、2枚ずつ(週5回) | 5便 | 2枚 | 約17% |
週2回、5枚ずつ | 2便 | 5枚 | 約42% |
週1回、10枚まとめて | 1便 | 10枚 | 約83% |
荷物の量は週10枚のまま変わらないのに、便数は5便から1便に減ります。物流の現場がどれだけ積み方を工夫しても、この取引先だけの専用便で毎日2枚ずつ運ぶ限り、積載率は2÷12で約17%が上限です。空きを埋める方法は、他の荷物と混載するか(物流の打ち手)、注文の出し方を変えるか(SCMの打ち手)の2つになります。
ただし、まとめて届ける代わりに、受け取る側は在庫を多く持つことになります。毎日届くなら少ない在庫で回せたものが、週1回なら1週間分近い在庫が必要になります。この取引を成り立たせるには、物流のコストだけでなく、在庫の費用と欠品のリスクも一緒に天秤にかける必要があります。これが、物流とSCMの分かれ目です。
物流だけを直しても、効かないとき
物流の担当者に「コストを下げてください」と言うと、荷役の効率化や便の見直しは進みますが、その先で行き詰まります。出荷の量と時間を決めているのは、発注と生産の計画だからです。月末に注文が集中する、小口の注文が毎日来る、納品の時間が指定されているといった条件は、物流の中では変えられません。
逆に、SCMを名乗りながら、物流の改善だけをしている会社もあります。需要予測や発注の見直しに手を付けないままだと、効果は物流費の範囲に限られます。物流を良くする仕事も、SCMの仕事の一部なので、無駄ではありません。ただ、全体の最適には届きません。
一段深く:「誰が決めるか」で見分ける
物流とSCMを見分けるいちばん簡単な方法は、その問題を直す決定を、誰が持っているかを見ることです。物流部門が自分で決められるなら物流の問題で、営業の納期の約束、購買の発注、生産計画の変更が必要なら、SCMの問題です。
だから、SCMに取り組む会社は、技術を入れる前に、部門の間の合意の仕組みを作ります。発注のまとめ方、納期の約束、生産計画の確定する時点を、部門を超えて決める場です。中小企業でのSCMの進め方はSCMは“大企業だけのもの”じゃないで、運送側から見た変化は物流2024年問題は“運送会社だけの話”じゃないで扱っています。積載率の決まり方は積載率はどこまで上げるべきかが詳しいです。
よくある質問
Q. ロジスティクスと物流は、同じ意味で使ってよいのですか。
A. 日常会話では同じ意味で使われることも多いですが、JISの定義では別の言葉です。ロジスティクスは物流の機能を高度化して経営管理の水準に上げたものとされています。海外では物流の意味でlogisticsを使うこともあるため、英語の資料と日本語の資料で意味がずれやすい点に注意が必要です。
Q. 中小企業に、SCMは必要ですか。
A. 専用の仕組みを入れなくても、発注、生産、出荷の日程を部門の間で合わせる、という考え方はどの規模でも使えます。まず1つの取引先、1つの品目から、注文の出し方と届け方を一緒に見直すところから始められます。
Q. 物流を外注していれば、SCMは関係ないのでは。
A. 運ぶ作業を外注しても、いつ、どれだけ、どこへ運ぶかを決めるのは自社です。その決め方が、外注先のコストと自社の在庫に跳ね返ります。
まとめ
物流は、モノを運び、保管する機能を良くする仕事です。ロジスティクスはそれを調達から回収までつなぎ、SCMは取引先との調整まで含めて需要と供給を合わせます。トラックの空きのように、同じ現象でも、直す場所が物流の内側にあるのか、発注や生産計画の側にあるのかで、打ち手は変わります。次に物流のコストを見直すときは、その決定を誰が持っているかを、まず確かめてみてください。
物流の改善と、需要・生産・在庫をつなぐ設計を整理したい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
あわせて読みたい
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。