LF&L株式会社
コラム製造現場のリデザイン

受注生産と見込生産は何が違うのか|同じ工場で在庫の場所と待たせる時間が入れ替わる理由

受注生産と見込生産は何が違うのか|同じ工場で在庫の場所と待たせる時間が入れ替わる理由

建売住宅はできあがった家を見てから買えますが、注文住宅は図面を引くところから始まり、住めるまでに何か月もかかります。工場の見込生産と受注生産も同じで、見込生産は注文の前に作って在庫を持ち、受注生産は注文を受けてから作ってお客様に待ってもらう、つまり在庫を持つ場所と待たせる時間を交換しているのです。

同じ製品を売る工場でも、先に作るか、注文を受けてから作るかで、待たされる時間がまるで違います。どちらが正しいということはなく、どこで切り替えるかを決める問題です。

受注生産と見込生産の違い:まず1分だけ

見込生産は、需要の予測にもとづいて、注文が来る前に作って在庫から出荷する方式です。英語の頭文字でMTS(Make to Stock)と呼ばれます。受注生産は、設計が済んだ製品を、注文を受けてから加工して作る方式で、MTO(Make to Order)と呼ばれます。材料は、よく使うものを先に持つ場合と、注文後に手配する場合があります。

ただし、この2つの間にも段階があります。部品や半製品までを見込みで作っておき、注文を受けてから組み立てる受注組立生産(ATO)、注文を受けてから設計を始める受注設計生産(ETO)です。呼び方は文献によって揺れていて、MTOを「個別受注」の意味で使う資料もあります。自社で使う言葉は、最初に社内で揃えておく必要があります。

4つの方式を並べる

方式

注文の前に作っておくもの

持つ在庫

注文から納品までの時間

生活の例

見込生産(MTS)

完成品まで

完成品

最も短い

建売住宅、既製服

受注組立生産(ATO)

部品・半製品まで

部品・半製品

中くらい

仕様を選んで組み立てる家具やパソコン

受注生産(MTO)

設計まで

主に原材料(よく使うものは先に持ち、なければ注文後に手配)

長め

注文を受けてから作る仕立て服

受注設計生産(ETO)

何も作らない(設計から始める)

基本的に持たない

最も長い

注文住宅(設計から)、特注の大型設備

表は上から下へ、在庫が減って待ち時間が延びる順に並んでいます。見込みと受注の流れが切り替わる位置は、デカップリングポイントと呼ばれます。この位置を完成品に近づけるほど、お客様の待ち時間は短くなり、在庫は増えます。

架空の例:同じ製品を、3通りの作り方で作る

数字で確かめます。次の製品は架空の例です。本体にはS・M・Lの3サイズ、仕上げには5色があり、売り出す品種は3×5=15品種です。本体の加工に5日、仕上げと検査に2日、出荷に1日かかるとします。

作り方

在庫の置き場

在庫の種類数

注文から出荷まで

見込生産

完成品(15品種)

15

1日

受注組立(本体までを見込みで作る)

本体(サイズ別)

3

3日

受注生産(材料は在庫から使えるとする)

原材料

材料のみ

8日

見込生産は1日で出荷できますが、15品種すべてに、予測が外れたときの余裕を持たなければなりません。受注組立なら、色は注文後の仕上げで決まるので、持つ在庫は本体の3種類です。待ち時間は3日に延びますが、色ごとの売れ残りは出ません。

受注生産は在庫が材料だけで済みますが、お客様は8日待つことになります。材料を注文後に手配するなら、調達の日数がさらに加わります。どれが正しいということはありません。お客様が何日まで待ってくれるかと、在庫にいくらまで資金を寝かせられるかで、境目の位置が決まります。

同じ工場でも、品目によって方式は混ざる

現場では、1つの工場の中に複数の方式が同居するのが普通です。よく動く定番品は見込みで作り置きし、仕様が変わる特注品は受注で作る、という使い分けです。大事なのは、品目ごとに、どこまでを見込みで作り、どこからを注文で作るかを決めることです。

境目の決め方には、基本の筋道があります。お客様が許す納期が、注文後に作り始めて出荷するまでの時間より長ければ、受注で作れます。短ければ、その差の分だけ手前の工程までを見込みで作っておく必要があります。上の例で、お客様が3日しか待てないなら、本体までを見込みで作る受注組立が、現実的な境目になります。

境目を決めないまま混ぜると、何が起きるか

方式が混ざっているのに境目を決めないと、見込みの作り置きと受注品が、同じ設備と同じ納期の枠を取り合います。見込みのために先に押さえた枠が、確定した注文の納期を圧迫する形です。現場では、特急の対応と作り置きの補充が毎日ぶつかることになります。

この混乱を避ける第一歩は、確定した受注と見込みを分けて計画に載せることです。分け方は生産計画はどう立てるのかのステップ1で扱っています。品目が多く、段取りが重い工場の判断は多品種少量生産はどう回すのかが参考になります。

一段深く:境目の位置は、安全在庫の置き場所でもある

見込みで作る範囲を決めることは、需要の予測を外したときの余裕を、どこに持つかを決めることでもあります。品種が15あれば、15品種それぞれが外れるので、それぞれに余裕が必要です。本体までを見込みにすれば、予測は3種類だけで済みます。共通の部分を手前に寄せるほど、予測の外れを吸収しやすくなります。

だから、受注生産か見込生産かを議論する前に、製品の中で複数の品種に共通する部分がどこまでかを洗い出すと、選択肢が増えます。共通化が進んでいないなら、仕様の整理が先です。余裕の量の決め方は安全在庫とは?計算式と決め方にまとめてあります。

よくある質問

Q. 受注生産なら、在庫はゼロになりますか。

A. 完成品の在庫はなくなりますが、材料や部品の在庫は残ります。注文を受けてから材料を発注するのでは、調達にかかる日数がそのまま納期に加わるため、よく使う材料は先に持つのが普通です。

Q. 見込生産は、需要の予測が当たらないと成り立ちませんか。

A. 予測は必ず外れるので、外れ幅を見込んだ在庫の余裕とセットで運用します。外れ幅が大きい品目は、手前の工程までを見込みにして、完成は注文後にする方法があります。

Q. 自社はどの方式だと決めればよいですか。

A. 会社ではなく、製品ごと、あるいは品目ごとに決めます。同じ会社でも、定番品はMTS、特注品はMTOやETOのように、方式が違うことは珍しくありません。

まとめ

見込生産は在庫を持って待ち時間を縮め、受注生産は在庫を絞って待ち時間を受け入れます。その間に、部品や半製品までを見込みで作る受注組立が入ります。違いの本質は、在庫を持つ位置をどこに置くかです。次に自社の品目を見るときは、お客様が待てる日数と、工程の所要日数を並べて、境目の位置を確かめてみてください。

品目ごとの境目の決め方や、生産計画への落とし込みを整理したい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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