安全在庫の決め方|勘に頼らず数字で置く4ステップ

在庫は多く持てば持つほど安心——そう思っていませんか。欠品を恐れるあまり、勘と経験で「念のため」を積み増していきます。月末の棚卸しで、何年も前に受注が止まった商品が段ボールごと眠っています。そんな光景を、何度も見てきました。それでも欠品はなくならず、現場は「もっと積もう」と考えます。物流・生産管理の現場では、驚くほどよく見る光景です。
私は物流企業とサプライチェーン構築の現場を経て、今は中小企業のSCM構築を支援しています。その立場から言うと、安全在庫を「多め」で語っている限り、在庫はずっと減りません。最初に決めるべきは量ではなく、「どれだけ欠品を許容するか」という一点です。
安全在庫とは:まず1分だけ
安全在庫とは、需要や調達には必ず生じる「ばらつき」を吸収するために積む、平均的な必要量を超えた在庫のことです。需要は毎日同じ量売れるわけではなく、仕入れ先からの入荷も予定どおりに来るとは限りません。このばらつきの幅を無視して平均値だけで在庫を組むと、悪い方向に振れた瞬間に欠品します。安全在庫は、その振れ幅への保険です。在庫最適化の本当の意味で触れたとおり、在庫最適化は「減らすこと」ではなく「目的に対して過不足のない量に置くこと」。安全在庫の設計は、その中核を担う作業です。
安全在庫は4段階で決める
安全在庫の計算式自体は、統計の教科書に必ず載っています。けれど式に数字を入れる前に、決めるべき順番があります。私が支援先で必ずこの順で進めるのは、順番を間違えると計算した数字を誰も信じてくれないからです。
ステップ1:欠品をどこまで許容するか(サービス率)を先に決める
安全在庫の量は、目指す欠品許容度、いわゆるサービス率によって変わります。サービス率を高く設定するほど必要な在庫は増え、しかもその増え方は緩やかではありません。目標を100%に近づけようとするほど、在庫は級数的に膨らんでいき、理論上は在庫を無限に積んでも欠品をゼロにはできません。ここを決めずに「とりあえず計算」に進むと、出てきた数字の妥当性を誰も判断できません。決めるのは在庫担当者ひとりではなく、欠品が起きたときに困る営業・生産と、在庫コストを負う経営層です。
ステップ2:需要のばらつきを数字で見る
次に、過去の出荷実績から需要のばらつき(標準偏差)を確認します。平均だけを見ていた組織にとって、ここが最初の発見になることが多いところです。たとえば平均は同じでも、ある品目は月によって数量が大きく動き、別の品目はほとんど一定です。同じ平均でも、必要な安全在庫はまったく違います。需要予測は何から始めるのかで書いたとおり、需要のばらつきを見る作業は需要予測の入口そのものです。ここは需給管理・生産管理の担当者が数字を出し、在庫責任者が確認します。
ステップ3:調達リードタイムのばらつきを見る
需要だけでなく、仕入れにもばらつきがあります。発注から入荷までの日数は、契約上の納期どおりに来ることの方が実は少ない、という組織も珍しくありません。ここを見落として需要側のばらつきだけで安全在庫を組むと、リードタイムが延びた月にまとめて欠品が出ます。見るデータは発注日と実際の入荷日の実績、決めるのは購買・調達の担当者です。取引先が複数拠点をまたぐ調達構造では、ここの精度がそのまま安全在庫の精度になります。中小企業のサプライチェーン構築で述べた「つながりの設計」が甘いと、この数字自体が信用できなくなります。
ステップ4:数字を当てはめて、運用ルールに落とす
ここまでの3つがそろって初めて、安全在庫の計算に進みます。サービス率に対応する係数と、需要・調達それぞれのばらつきを掛け合わせて算出するのが一般的な考え方です。ただし出した数字を一度決めて終わりにしないでください。時間が経つうちに、需要もリードタイムも姿を変えていきます。見直しの周期をあらかじめ決めておくことが、計算そのものより効きます。決めるのは在庫責任者ですが、周期と対象品目の合意は関係部門を交えて行います。
ステップ | 見るデータ | 決めるのは誰か |
|---|---|---|
1. サービス率を決める | 過去の欠品時の影響(金額・失注・信用) | 営業・生産+経営層 |
2. 需要のばらつきを見る | 出荷・受注実績の標準偏差 | 需給・生産管理担当 |
3. 調達のばらつきを見る | 発注日と入荷実績日の差 | 購買・調達担当 |
4. 計算し運用に落とす | 1〜3の数字+見直し周期 | 在庫責任者(関係部門合意) |
四段階を踏んでも、出てくる答えは品目ごとに変わります。出荷頻度が高く欠品の影響が大きい品目にはサービス率を高めに、動きが緩やかな品目には低めに。同じ式を全品目へ一律に当てはめるのではなく、品目群で狙う数字を分けたほうが、在庫全体としては効きます。
一段深く:数字より先に、痛かった欠品を洗う
ここまでは、いわば正攻法です。ただ実務の現場から見ると、正攻法どおりに始めてもうまく進まないことがあります。理由は単純で、在庫を積む判断は数字ではなく記憶でされているからです。
現場は、過去に痛い目を見た欠品を覚えています。「あの月、あの取引先を止めてしまった」という記憶が、その後何年も「念のため多めに」という判断を作り続けます。目的から設計しなおすなら、いきなり標準偏差を計算するより先に、「どの欠品が痛かったか」を関係者から洗い出すほうが早い——これが、物流・生産管理の現場を見てきた立場からの見立てです。痛かった欠品には、たいてい共通点があります。特定の得意先向けだった、特定の時期に集中していた、あるいは調達側の一社依存だった、というふうに傾向が見えてきます。共通点が見えれば、安全在庫を一律に積むのではなく、そこだけ厚く・他は薄く、という設計に組み替えられます。数字で全体を均すのではなく、記憶が指す一点を先に狙うことが、いちばん効く直し方です。
よくある質問
Q. 安全在庫は多ければ多いほど安心?
A. いいえ。安全在庫は保管コストと廃棄・陳腐化のリスクを増やします。サービス率を上げるほど必要在庫は級数的に増えるため、「どこまで欠品を許容するか」を先に決めないまま積み増すと、コストに見合わない在庫が残ります。
Q. 需要もリードタイムも安定している品目にも安全在庫は必要?
A. ばらつきがごく小さい品目では、安全在庫はわずかで足ります。ステップ2・3で実際に標準偏差を確認し、ばらつきが小さいと分かった品目まで一律に多めを積む必要はありません。
まとめ
安全在庫は、「多めに持つ」話ではありません。どれだけ欠品を許容するかを先に決め、需要と調達それぞれのばらつきを数字で確認し、最後に運用ルールへ落とします。この順番を守るだけで、在庫は驚くほど整理されます。数字を置く前に、まず現場が覚えている「痛かった欠品」を洗い出すところから始めてみてください。
安全在庫の設計や在庫・調達の見直しについては、お問い合わせからご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。