LF&L株式会社
コラム物流・SCMのリデザイン

需要予測は何から始めるのか|過去実績だけでどこまでできるか

需要予測は何から始めるのか|過去実績だけでどこまでできるか

需要予測というと、まずAIやビッグデータを思い浮かべませんか。ダッシュボードに数字を放り込めば、あとは機械がぴたりと言い当ててくれる——そんなイメージ、根強いですよね。現場でよく見かけるのは、「まずAIツールを入れましょう」という提案が先に立ち、肝心の実績データは部門ごとにExcelがバラバラ、という光景です。物流とSCMの現場で予測とにらめっこしてきた立場から言うと、順番が逆です。AIの前に、やることがまだ山ほど残っています。

需要予測は、まず“過去実績を並べる”ところから始まる

需要予測とは、過去の販売・出荷の実績をもとに、これから先どれだけ動くかを見積もる作業です。難しく聞こえますが、最初の一歩は単純です。過去の数字を、時系列で並べて眺めること。ここがすべての土台になります。

過去実績だけで、どこまで“当てられる”のか

私が現場で見てきた需要予測は、いきなり統計モデルから入ることはほとんどありません。段階を踏みます。段階を飛ばすと、精度が上がらないどころか、なぜ外れたのかすら分からなくなるからです。

第1段階:移動平均で全体の水準をつかむ

直近数か月の実績を単純に平均する移動平均法から始めます。1品目ずつの日々の増減に振り回されず、大まかな水準をつかむのが目的です。ここで必要なのは、SKU(商品単位)ごとの出荷・販売実績、それも最低1〜2年分。注意したいのは、大口の単発受注や欠品による0件月をそのまま平均に混ぜないことです。1回きりの出来事を「傾向」として拾ってしまうと、次の月からずれた水準で走り出すことになります。動きの少ない商品なら、この段階で止まっていいものも中小企業には案外多くあります。

第2段階:季節性で波を折り込む

移動平均だけでは、夏に売れる商品も冬に売れる商品も同じように扱ってしまいます。次にやるのは、月ごとの実績を複数年分並べて、季節指数(その月が年間平均の何倍動くか)を出すこと。3年分の実績があれば、かなり安定した指数が作れます。ここまでで、多くの中小企業が抱える予測の悩みの半分は解決します。

第3段階:要因を記録に落とし込む

季節性だけでは説明できない山や谷が残ります。値引き、展示会、天候、取引先の在庫方針の変更——実績の裏には、必ず理由があります。この段階に必要なのは、実績データそのものではなく、実績の横に並べる“出来事の記録”です。たとえば「展示会の翌週から3週間、通常の1.5倍出荷が続いた」という事実は、実績の数字だけを眺めていても再現できません。いつ何のキャンペーンをしたか、価格をいつ変えたか、主要取引先の棚卸し時期はいつか。これを記録していない会社が驚くほど多く、要因分析はここで止まります。

第4段階:統計・AIモデルに進む

回帰分析や機械学習は、この段階まで整ったデータがあって初めて効いてきます。逆に言えば、移動平均も季節性も要因記録もない状態でAIに投げても、答えは出ますが根拠は説明できません。統計・AIが人手の計算と違うのは、季節性・価格・天候といった複数の要因を同時に、しかも直近の実績ほど重く扱いながら計算できる点です。統計・AIが要るかどうかは、SKU数と変動要因の複雑さで決まります。数百品目を人手で見きれない規模になって、初めて出番が来る道具です。

段階

手法

必要なデータ

向いている状況

1

移動平均

SKU別の実績(1〜2年分)

まず水準をつかみたい

2

季節性の把握

月別実績(3年分が理想)

波のある商品を扱う

3

要因の記録

販促・価格改定・天候等の履歴

実績だけでは説明できない山谷がある

4

統計・AIモデル

1〜3が整理済みのデータ

SKU数が多く要因が複雑

どの段階で止めていいかは、品目ごとに違います。動きが安定していて金額インパクトも小さい商品は、第1段階の移動平均で十分です。逆に、季節や販促の影響が大きく、欠品や過剰在庫が経営に効いてくる主力商品ほど、第3段階までは必ず進める価値があります。全品目を同じ手間で扱おうとしないことが、中小企業がこの取り組みを続けられるかどうかの分かれ目です。

ここで見落とされがちなのが、予測が外れたときのコストです。欠品による機会損失も、過剰在庫の保管・廃棄コストも、多くの会社では感覚でしか把握されていません。原価の見える化ができていないと、“どちらの外れ方が痛いか”の判断基準そのものが持てないのです。

一段深く:当てにいくより、外れ方を設計する

私はSCMを構築する実務の中で、需要予測の議論がいつも同じところで詰まるのを見てきました。“精度を何%まで上げるか”という問いに時間を使いすぎて、“外れたときにどう動くか”の設計が後回しになる、という詰まり方です。SCM構築の現場では、予測はチェーン全体の入口にすぎません。入口の数字がどれだけ精緻でも、外れた分を吸収する仕組みがなければ、精度向上の努力は現場のどこかにしわ寄せとして返ってきます。

デザイン思考の見方をすると、需要予測は“当てる技術”ではなく“不確実性を扱う設計”だと捉え直せます。目的は数字を一致させることではなく、外れても事業が壊れない状態を作ることです。ここで効いてくるのが、安全在庫という考え方です。在庫最適化の基本は、予測の外れ幅(ばらつき)とリードタイムの長さに応じて、緩衝材としての在庫を持つことにあります。予測の精度を1%上げる努力より、外れ幅を正しく見積もって安全在庫に反映する方が、投資対効果が高いことは珍しくありません。

私が中小企業の現場で見立てているのは、“予測の精度”と“対応力の設計”は別々の投資として考えたほうがよい、という構造です。外れ方には2種類しかありません。予測より多く売れて足りなくなる外れと、予測より売れずに余る外れです。前者には代替の調達ルートや優先出荷の順位づけを、後者には値引きや他チャネルへの転用ラインを、あらかじめ決めておきます。どちらの外れが起きても慌てないための“手順”を用意しておくことが、予測モデルを何%磨くかより先に効いてきます。精度の追求だけに投資して、この手順の設計を放置すると、どれだけモデルを磨いても、現場は特急便と欠品謝罪に追われ続けます。

よくある質問

Q. 需要予測にAIは最初から必要ですか?

A. 多くの場合、必要ありません。移動平均と季節性の把握だけで、実務に使える精度が出ることが少なくないからです。統計・AIモデルは、要因の記録まで含めたデータが整ってから検討しても遅くありません。

Q. 予測はどれくらいの精度を目指せばいいですか?

A. 完全に一致させることは目指さない方が現実的です。むしろ外れ幅がどの程度になりやすいかを把握し、その幅を安全在庫や生産の余力で吸収できるように設計することが、精度そのものを追うより効きます。

まとめ

需要予測は、AIから始めるものではありません。まず過去実績を並べて移動平均を取り、季節性を折り込み、要因を記録する——この3段階だけで、多くの中小企業は実務に足る精度に届きます。統計・AIは、その先に必要になったときの選択肢の一つです。まずは手元にある実績を、1年分でいいので時系列で並べてみてください。そこから、次にどのデータが要るかが見えてきます。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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