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コラム製造現場のリデザイン

原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃない|製造業の第一歩

原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃない|製造業の第一歩

「原価管理を始めましょう」と言うと、まず返ってくるのは「うちは細かい数字なんて出せません」という反応です。材料費、加工時間、電気代、工具の摩耗まで一つひとつ拾い上げて分厚い原価計算表を作る——そんな大掛かりな作業を思い浮かべる方が多いと思います。

物流と生産管理の現場を歩いてきた立場から言うと、原価の見える化の入り口は、実はそこではありません。細かさを競う前に、まず「どの受注が赤字を生みやすいか」が分かるだけで、経営判断は大きく変わります。

原価管理とは? ― まず1分だけ

原価管理とは、材料費・労務費(人件費)・経費を集計し、製品やサービス1単位あたりのコストを把握して、価格設定や受注判断に使う取り組みです。目的は「正確な決算書を作ること」ではなく、「この仕事を受けるべきか、いくらで受けるべきか」を判断する材料にすること。ここを取り違えると、精度は上がっても意思決定には使えない原価管理になります。

“細かく計算する”という思い込み

原価管理と聞いて多くの経営者が身構えるのは、全部原価計算——製品にかかったすべての費用を、工程ごと・製品ごとに緻密に配り切る方式です。たしかに会計上は必要な考え方ですが、意思決定の道具としては、実はここに落とし穴があります。

たとえば、こんな受注を考えてみます。売上100万円、材料費60万円の仕事があったとします。一見すると粗利40万円の優良案件に見えます。ですが、段取り替えに丸一日かかる小ロットの特注品で、その間ほかの受注を止めていたとしたらどうでしょうか。固定費を「売上高に比例して」配分する従来の配賦のやり方では、この段取りの重さが数字にほとんど現れません。結果、現場の実感では「割に合わない」仕事が、帳簿の上では優良案件のまま残り続けます。

私が現場でよく見てきたのは、この“ねじれ”でした。営業は数字上の粗利を信じて受注を取り、製造現場は段取りに追われて疲弊します。どちらも間違ったことはしていないのに、全体では利益を削っています。

同じ受注を、2つの見方で並べるとこうなります。

見方

この受注の見え方

全部原価計算(固定費を売上比例で配分)

粗利40万円の優良案件

限界利益ベース+段取り時間を加味

段取りに1日を奪われた分、他の受注機会を犠牲にしている案件

数字そのものは何も間違っていません。配分の物差しを変えただけで、同じ受注の意味がまったく違って見えてきます。

見るべきは「赤字になりやすい受注」の見分け方

ここで効くのが、直接原価計算という考え方です。売上から、受注量に応じて変動する費用(材料費・外注加工費など)だけを引き、残りを限界利益として見ます。工場全体の固定費(設備・段取り・間接人員など)は、いったん切り離して考えます。すると、「この受注は変動費を上回る限界利益を稼いでいるか」だけで、まず一次判定ができるようになります。

そのうえで、段取り回数・稼働時間といった「工程を占有する時間」を製品ごとに拾えると、精度はさらに上がります。これは活動基準原価計算(ABC分析)と呼ばれる考え方に近く、費用を売上高でなく「実際に何にどれだけ時間を使ったか」で配分し直す発想です。進め方は難しくありません。

  • 1. 変動費だけで受注を並べ替える:材料費・外注費を売上から引いた限界利益で、既存の受注を高い順に並べてみます。ここまではExcelで十分です。
  • 2. 段取り・稼働時間が重い受注に印をつける:小ロット・多品種・特急対応など、現場が体感で「重い」と感じる受注を洗い出します。現場の感覚は、数字の裏取りとして侮れません。
  • 3. 両方を突き合わせる:限界利益は高いのに現場感覚では重い受注——そこが、価格見直しか、受注そのものの取捨選択が要る一点です。

全製品・全工程を一度に緻密にやろうとしないこと。まず「赤字を生みやすいパターン」を絞り込むところから始めれば、原価管理は十分に機能し始めます。

逆に、私がつまずきの原因としてよく見かけるのは、固定費の配賦基準を「売上高比例」のまま何年も変えていないケースです。基準を変えるだけで作業が発生するため、一度決めた物差しは放置されがちです。ですが、その物差し自体が「重い受注ほど軽く見える」歪みを生んでいるとしたら、精度をどれだけ上げても答えは近づきません。

一段深く ― 何のための原価管理か

ここまでの話は、結局「目的から設計をしなおす」という一点に尽きます。原価管理を経理の記帳作業として設計すると、必要な粒度は際限なく増えていきます。決算のための数字は、細かいほど正確だからです。ですが目的を「今日この受注を受けるかどうかを判断すること」に置き直すと、必要な粒度はまったく変わります。細かさより、判断に効く一点を先に押さえる方が、投資対効果は高くなります。

私はこれを、現場の1歩の動きから経営の意思決定までをひとつながりで見る、という発想で捉えています。段取りに追われる現場の1時間と、経営会議で見る粗利の数字は、本来同じ現実の裏表です。原価管理は、その2つをつなぎ直すための道具であって、精緻な会計制度を作ることが目的ではありません。

よくある質問

Q. 原価管理と原価計算はどう違いますか?

A. 原価計算は「費用を集計して原価を算出する」計算の技術そのものを指します。原価管理は、その数字を価格設定・受注判断・改善活動に「使う」経営の取り組み全体を指します。計算だけして終わっていれば、それはまだ管理にはなっていません。

Q. システムを入れなくても、Excelだけで始められますか?

A. 始められます。まずは既存の受注データから、売上・材料費・外注費だけを拾って限界利益を並べる表を作るところからで十分です。段取り時間や稼働実績まで日常的に追いたくなった段階で、生産管理システムの導入を検討すればよく、順番を逆にする必要はありません。

まとめ

原価の見える化は、材料費や作業時間を一つ残らず緻密に計算することではありません。まず「変動費を差し引いた限界利益」で受注を並べ、現場が重いと感じる受注に印をつけます。その2つを突き合わせるだけで、赤字を生みやすい受注のパターンは見えてきます。全部を細かくしなくていい。まずは、いま抱えている受注を並べ替えてみてください。

原価の見える化や生産管理の仕組みづくりについては、システム・DX支援経営コンサルティングお問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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