多品種少量生産はどう回すのか|段取りと在庫のどちらを取るか

「今週はA部品を10個、B部品は3個、C部品は50個」。注文がばらばらに並ぶ生産計画表を前に、ため息をつきます。段取り替えで機械を止めている時間のほうが、実際に削っている時間より長い気がする——多品種少量生産の現場では、こう感じている方が少なくありません。
物流・生産管理の実務を経てきた立場から見ると、その感覚は錯覚ではありません。そしてここでいちばん厄介なのは、これは頑張れば解決する類の問題ではなく、ロットの大きさと段取りの回数のあいだにある構造的なトレードオフだという点です。
多品種少量生産とは:1分だけ地図を
多品種少量生産とは、その名のとおり多くの品種を、それぞれ少ない数量ずつ作る生産方式です。同じものを流し続ける少品種大量生産と違い、注文のたびに設備や治具を入れ替えながら、違うものを次々に作ります。中小の製造業では、取引先の要求が細分化するほど、狙ったわけでもないのにこの形へ近づいていきます。背景にあるのは、顧客ごとの仕様や小口の要求が強まってきた市場側の変化です。少品種大量生産を前提に組まれた工場の仕組みを、そのまま多品種少量へ当てはめようとすると、計画にも現場にも無理が生じます。
まとめるか、割るか:ロットサイズの分かれ道
多品種少量生産の計画を組むとき、必ず突き当たる分かれ道があります。似た注文をまとめてロットを大きくするか、注文ごとにロットを小さく割るか。この二択には、それぞれ捨てるものがあります。
観点 | 大ロット | 小ロット |
|---|---|---|
段取り回数 | 減る | 増える |
在庫 | 増えやすい(作りだめ) | 減らしやすい |
納期の柔軟性 | 低い(まとまるまで待つ) | 高い(必要な分だけ先に出せる) |
不良の影響範囲 | 広い(まとめて不良化するリスク) | 狭い |
資金の動き | 材料費・工数が先に寝る | 作った分から早く現金化しやすい |
表を見ると分かるとおり、ロットを大きくすれば段取りは減りますが、在庫という形で別のコストを抱え込みます。ロットを小さくすれば在庫は軽くなりますが、そのぶん段取りが増え、機械を止めている時間が伸びます。在庫は“減らせばいい”わけじゃないという話にも通じますが、在庫を減らす判断は単独で正しいとは言えず、その裏で何が増えているかとセットで見る必要があります。
見落とされがちなもう一つの軸が、技能の維持です。ロットを大きくして同じ段取りをする頻度が下がると、担当者がその段取りの勘所を忘れ、次に同じ品種が回ってきたときにかえって時間がかかることがあります。逆にロットを小さくして頻繁に段取りを繰り返す現場では、同じ作業を何度も踏むぶん、勘所が身体に残りやすいという面もあります。コストの表には出てこない、もう一つの分かれ道です。
厄介なのは、この二つを両立させる魔法の計画が存在しないことです。生産計画を精緻に組んでも、まとめる・割るのトレードオフそのものは消えません。中小製造業の生産管理|Excelの限界はどこで来るのかでも触れていますが、計画の精度を上げる努力は、このトレードオフの存在を前提にして初めて効いてきます。
段取り時間を短くすると、何が変わるか
ここで発想を変えます。ロットの大小をどちらに寄せるかという二択で悩む前に、段取りそのものにかかる時間を削れないかを先に問うのです。段取り時間が短くなれば、同じ在庫水準を保ったまま段取りの回数を増やせます。つまり、これまで大ロットでないと成立しなかった品種構成のまま、ロットだけを小さくできるということです。
段取りを大きく二つに分けて考えると、着手しやすくなります。機械を止めなければできない作業(内段取り)と、機械を動かしたまま準備できる作業(外段取り)です。多くの現場では、本来は機械を止める前に済ませておける準備が、機械を止めてから慌てて行う内段取りに紛れ込んだままになっています。
次工程で使う型や図面を、機械が止まってから探し始めていないか。ここを洗い出すだけで、機械の停止時間は目に見えて縮みます。この考え方は、製造業で広く使われるシングル段取り(SMED)という手法の基本にもなっています。
これは計画の工夫では届かない領域です。生産計画は、与えられた段取り時間を前提にロットと順序を最適化する仕事であって、段取り時間そのものを縮める仕事ではありません。だから多品種少量生産の改善は、計画をいじる前に、段取り改善が先に来る——これが私の見立てです。順序を逆にすると、計画担当者が割付表をどれだけ精緻に作っても、現場は変わらず段取りに追われたままという状況になりがちです。
一段深く:段取りは「探している時間」でできている
製造現場の支援で見ていて感じるのは、段取り時間の多くが、機械を動かす作業そのものではなく探す時間で占められているということです。この治具はどこにあるか。この型の図面は最新版がどれか。前回この段取りをした人は誰で、そのときのコツはどこにメモされているか。こうした「探す」に費やす時間は、作業者の腕前とはあまり関係がありません。
想像してみてください。段取り替えの指示が出て、作業者が工具箱を開けます。目当ての治具が見当たらず、棚を一段ずつ探します。ようやく見つけても、前回の設定値をメモした紙は別の場所にあります。
機械はその間、ずっと止まったままです。この数分・数十分は、どれだけ精緻な生産計画システムを入れても、計画表の上には現れてきません。
設備を速く動かす改善は、投資も判断も要ります。一方で、治具・工具・図面の置き場所と状態を整えるだけの改善は、設備に一切手を触れずに始められます。私はこれを、段取りという一つの作業を「探す」と「合わせる」に分けて見る見方だと捉えています。今ある手順を疑わずに眺めていると全部が一体の作業に見えますが、何にどれだけ時間がかかっているかを分解し直すと、削れる場所は機械の外側に多く見つかります。技能伝承は“ベテランに任せる”ことじゃないとも重なりますが、段取りの速さがベテラン個人の腕に依存している現場ほど、探す先の情報がその人の頭の中にしか置かれていない、という状態になっています。
よくある質問
Q. 段取り時間を短くする改善は、何から始めればいいですか。
A. まず段取りのうち、探している時間がどれだけ含まれているかを数えてみてください。治具・工具・図面の置き場所を決めて、使ったら必ず同じ場所に戻します。それだけの整理でも、機械を止めている時間は目に見えて縮みます。設備に手を入れる前に、まずここから着手するのが現実的です。
Q. ロットを大きくすれば、結局は効率がいいのではないですか。
A. 段取り回数だけを見れば効率的に見えますが、在庫という形でコストを先送りしているにすぎません。作った分がすぐ売れる・使われるのでない限り、大ロットは在庫という別の負担に置き換わっているだけだと捉えたほうが実態に近いはずです。
まとめ
多品種少量生産では、ロットを大きくして段取りを減らすか、小さくして在庫を減らすかという二択から、完全に逃げることはできません。ただし、段取り時間そのものを短くできれば、この二択の条件が変わります。全部を一度に変える必要はありません。まずは段取りのうち、探している時間がどれくらいあるかを数えるところから始めてみてください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。