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コラム製造現場のリデザイン

中小製造業の生産管理|Excelの限界はどこで来るのか

中小製造業の生産管理|Excelの限界はどこで来るのか

「うちはまだExcelで生産管理をやっているんです」と話すとき、少し恥ずかしそうな顔をされることがあります。まるでExcelを使い続けていること自体が、会社の遅れの証拠であるかのように。私は物流・生産管理の現場を経て、いまは中小製造業のDXを支援する立場ですが、この相談を受けるたびに一度立ち止まってもらいます。

Excelが悪いのではありません。限界が来る条件があるだけです。条件を知らないまま「そろそろ卒業しないと」と道具の入れ替えから考えると、たいてい遠回りします。まず、どこまでがExcelの守備範囲で、どこからが限界なのかを見極めてください。

生産管理とExcel表:まず1分だけ

生産管理とは、受注から出荷までのモノと情報の流れを、納期・数量・品質の面から管理することです。工程表で「いつ・何を・どれだけ作るか」を決め、在庫表で「いま何がどれだけあるか」を把握し、出荷予定表で「いつ届けるか」を約束します。中小製造業の多くは、この三つを1枚か数枚のExcel表で回しています。数式・並べ替え・グラフ化まで自在にこなす表計算ソフトは、完成度の高い道具です。だからこそ、多くの現場でいまも現役なのです。

まず認めます。Excelで足りる領域は広い

工場の壁に貼られた工程表を、朝礼で全員が確認して一日が始まる——そんな運用なら、Excelで何の不都合もありません。次のような条件がそろっているなら、無理に手放す理由はないと私は考えます。

  • その表を実質的に更新する人が、1〜2人に絞られている
  • 扱う工程・品目の数が少なく、変更の頻度も落ち着いている
  • 在庫や仕入れとの整合を、都度の目視確認でカバーできる規模
  • 担当者が当面変わる予定がなく、表の作法が本人の頭の中にある状態でも回る

この条件が保たれている限り、Excelは軽くて速く、現場の裁量が効く、むしろ優秀な道具です。システムを入れる方が、かえって手間と費用だけがかさむこともあります。限界を疑う前に、まずこの4条件が本当に崩れているかを確かめてください。

限界が来る4つの条件

問題は、事業が育つにつれて、この前提のどこかが崩れることです。私が現場で見てきた限り、限界は次の4つの条件のいずれかが起きたときに来ます。

条件

Excelで起きること

実務への影響

同時編集が増える

ファイルロック、上書き競合、「どれが最新版か分からない」状態

二重発注・二重出庫、現場での手戻り

変更履歴が要る

誰が・いつ・何を直したかが表に残らない

誤りの原因を追えず、同じミスを繰り返す

在庫と連動する

他の表・他部門の在庫数と手で突き合わせる必要が出る

ズレに気づくのが遅れ、欠品や過剰在庫になる

担当者に依存する

関数やマクロの意図が本人にしか説明できない

異動・退職の瞬間に表そのものが機能を失う

特に危ういのは、在庫連動属人化が同時に起きるときです。在庫のズレは金額の話でもあるので、次に見えなくなるのはたいてい原価です。工程が増えて手作業の突き合わせが追いつかなくなった会社ほど、原価がどんぶり勘定に戻っていきます。この構造は原価の見える化とも根が同じで、生産管理の限界は在庫の限界であり、原価の限界でもあります。

兆しは、たいてい月末の棚卸しに現れます。表の数字と現物が合わない理由を、誰も即答できません。数式を直せる人が席にいないと、その場しのぎの手入力で乗り切ってしまいます。この2つが重なった時点で、表はもう「管理の道具」ではなく「事故を隠す紙」になりかけています。

限界を超えたときの選択肢

4条件のどれかに当てはまったら、いきなり大きなシステムを検討する必要はありません。私がいつも勧める順番は次の通りです。

  1. まず、表を共有クラウド化する:同時編集の衝突と最新版問題だけなら、共有スプレッドシートへの移行で解消することが多いです。
  2. 次に、生産管理専用の小さなツールを検討する:履歴管理と在庫連動が必要なら、工程表単体の専用ツールで足りる場合があります。
  3. 最後に、基幹システムとの統合を検討する:在庫・受発注・原価まで一気通貫でつなぎたいなら、ここで初めてERPの検討に入ります。

順番を飛ばして最初からERPに向かうと、要件が大きくなりすぎて選定も導入も重くなります。実際にERPを検討する段になったら、ERP選定のチェックポイントを先に押さえておくと、無駄な機能の入れすぎを避けられます。会社全体の仕組みを組み替える判断が必要なときは、基幹システム刷新の考え方も合わせて見ておくと、生産管理だけを切り離して考えるリスクに気づけます。

一段深く|壊れるのは「表」ではなく「設計」

物流・生産管理の現場に身を置いていた頃、実感していたことがあります。生産管理表が崩れる瞬間は、会社の規模の大きさで決まるのではなく、同時にその表を触る人の数が、作った当初の想定を超えた瞬間だということです。表そのものは何も変わっていないのに、触る手が増えた日から、突然“壊れやすい道具”に変わります。

自動車産業の生産管理は、一般に、この“同時に触る人数”をあらかじめ設計に織り込むとされています。誰が、どの工程で、何を更新する権限を持つか。更新した情報が、他の工程にどう伝わるか。仕組みを先に決めてから、道具を選ぶ順番です。デザイン思考でいう「目的から設計しなおす」とは、まさにこの順番を守ることに尽きます。

現場の1歩の動きから、それを管理する経営システムまでを一つながりで見ます。私がいつも大事にしている全体最適の考え方は、生産管理でも同じです。Excelを卒業するかどうかより先に、誰が何を、どの権限で触っているかを一度、紙に書き出してみてください。それだけで、4条件のどれに近いかが見えてきます。設計を先に直せば、道具は後からいくらでも合わせられます。

よくある質問

Q. Excelを卒業する目安は、従業員何人からですか?

A. 人数そのものに明確な閾値があるわけではありません。目安になるのは人数ではなく、本記事の4条件(同時編集・履歴・在庫連動・属人化)のうち、いくつに当てはまっているかです。1人が使っている限り、大企業でもExcelで十分な業務は残りますし、逆に少人数でも複数拠点で同じ表を触っていれば、早い段階で限界が来ます。

Q. 生産管理システムに変えれば、属人化は自動的に解消しますか?

A. しません。システムを入れても、権限や更新ルールを設計し直さなければ、Excelのときの属人化がそのままシステムの中に持ち込まれるだけです。「誰が」「どの工程の」「どの情報を」更新できるかを先に決め、その設計をシステムに反映させる、という順番を守る必要があります。

まとめ|まず自分たちの「限界の条件」を見極めることから

Excelが古いから卒業する、という話ではありません。同時編集・履歴・在庫連動・属人化のうち、どの条件に自社が当てはまっているかを見極めます。それが、道具を選ぶよりも先にやるべきことです。全部を一度に手放す必要はありません。まず一つ、いちばん困っている条件から向き合ってみてください。

自社がどの段階にあるか一緒に整理したい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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