標準時間はどう決めるのか|観測・レイティング・余裕率で積み上げる4ステップ

「この作業は何分でできるか」と聞かれて、いちばん速い人の時間や、ベテランの感覚で答えていませんか。その時間で見積や人員計画を組むと、実際にはなかなか届かず、現場が責められる流れが生まれます。
この問いに根拠を与えるのが標準時間です。標準時間は、作業を要素に分け、観測し、レイティングで正味時間にし、余裕率を足すという4ステップで積み上げます。誰が測っても同じ数字に近づける手順として、工場の現場で長く使われてきました。
標準時間とは:まず1分だけ
標準時間とは、決められた方法で作業を行うとき、習熟した作業者が標準的なペースで行う場合に必要な時間のことです。ここには、作業そのものの時間(正味時間)に加えて、休憩や小さな中断など、避けられない余裕の時間も含まれます。
式にすると次のようになります。「標準時間=正味時間+余裕時間」です。正味時間は観測の平均にレイティング係数をかけて出します。余裕時間は、正味時間に余裕率をかけて出す形(外掛け法)がよく使われます。
標準時間を決める4ステップ
ステップ | やること | 出てくる数字 |
|---|---|---|
1. 作業を要素に分ける | 1つの作業を、区切りのはっきりした動作のまとまりに分ける | 要素作業の一覧 |
2. 観測する | ストップウォッチなどで、要素ごとの時間を複数回測る | 観測時間の平均 |
3. レイティングで正味時間にする | 観測した作業者のペースを標準のペースと比べて補正する | 正味時間=観測時間×レイティング係数 |
4. 余裕率を足す | 休憩・疲労・用事など避けられない時間を上乗せする | 標準時間=正味時間×(1+余裕率) |
ステップ1:作業を要素に分ける
いきなり1サイクルをまとめて測ると、どこで時間がかかっているのかがわかりません。部品を取る、取り付ける、締める、検査する、といった区切りのはっきりした動作に分けます。区切りは、始点と終点が目で確認でき、誰が見ても同じ位置で区切れるところを選びます。
要素に分けておく利点は、あとで改善するときにも使えることです。時間の長い要素だけを取り出して、動作や配置を見直せます。また、製品が変わっても共通する要素は、測り直さずに再利用できます。
ステップ2:観測する
ストップウォッチで、要素ごとの時間を複数回測ります。1回だけの観測は、たまたま速かったり遅かったりした影響を受けるので、必ず複数回測って平均を取ります。回数は作業の長さやばらつきによって変わるため、一律の決まりはありません。ばらつきが大きいほど、多く測る必要があります。
観測する作業者は、標準的な習熟度の人を選びます。新人や、突出して速い人を選ぶと、基準がずれます。また、観測中は普段どおりに作業してもらい、測られていることで急いだり、ゆっくりしたりしないように、事前に目的を説明しておきます。
測定は、設備の故障や材料の待ちといった、作業そのものではない時間を混ぜないことが重要です。そうした時間は、あとで余裕や別の管理項目として扱います。
ステップ3:レイティングで、正味時間にする
観測した作業者のペースが、標準よりも速いのか遅いのかを評価して補正するのがレイティングです。標準のペースを100%として、観測した人の速さを百分率で評価します。たとえば標準より1割速いと見たら110%です。
正味時間は「観測時間の平均×レイティング係数」で出します。速い人を観測したなら、その人の時間を長めに補正して、標準のペースに戻します。遅い人なら逆です。レイティングの評価には経験が要りますが、複数の人で判定を揃える訓練をすると、評価のぶれが小さくなります。
ステップ4:余裕率を足して、標準時間にする
人間は、機械のように連続して作業はできません。水を飲む、汗を拭く、道具を持ち直す、疲れて少し遅くなります。こうした避けられない時間を余裕として足します。余裕は、個人的な用事に当たる用達余裕、疲労に当たる疲労余裕、職場の事情に当たる職場余裕などに分けて考えるのが一般的です。
余裕率は、現場の状況に合わせて決めるもので、他社の数字を借りるものではありません。重い物を扱う作業、暑い環境、立ち作業では、余裕率は大きくなります。決めた余裕率は、根拠と一緒に記録しておくと、あとで見直せます。
注意したいのは、段取りの時間を余裕に混ぜないことです。段取りは作業の準備にあたるもので、ロットごとに発生するため、別に管理するほうが正確です。段取りの縮め方は段取り替えの時間はどう縮めるのかで扱っています。
架空の数字で、標準時間を出す
次の数字は、計算の流れを見るための架空の例です。ある作業を観測して、平均が40秒、観測した作業者のレイティングは110%、余裕率は15%とします。
項目 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
観測時間の平均 | (観測値の平均) | 40秒 |
正味時間 | 40秒×110% | 44秒 |
余裕時間 | 44秒×15% | 6.6秒 |
標準時間 | 44秒+6.6秒 | 50.6秒 |
この作業は、1個あたり50.6秒で作れる、と見て計画を組みます。1時間は3,600秒なので、余裕を含めた標準時間で計画すると、1時間に作れる個数は約71個です。観測した40秒をそのまま使うと、1時間に90個作れるという計画になり、現実との乖離が大きくなります。
余裕率の掛け方には、正味時間に余裕率をかける外掛け法のほかに、標準時間に占める余裕の割合として扱う内掛け法(標準時間=正味時間÷(1-余裕率))があります。同じ15%でも、内掛け法なら44秒÷0.85で約51.8秒になり、外掛け法より長くなります。どちらを使うかを社内で決め、余裕率と一緒に記録してください。
一段深く:標準時間は、人を評価する物差しではありません
標準時間を現場に導入するときに、いちばん起こりやすい失敗は、個人の評価に使われることです。標準より遅い人を叱る道具にすると、現場は観測を警戒し、測られるときだけ急ぎ、正しい数字が取れなくなります。標準時間は、人員計画、見積、改善の効果測定に使う物差しで、人の評価とは切り離して運用します。
もう1つ、標準時間は一度決めて終わりではありません。作業方法、設備、治具を変えれば、時間も変わります。改善したら測り直し、標準を更新する習慣があって、初めて、見積と実際のずれが小さくなります。ずれを見積と実際原価の差として分析する考え方は、見積と実際原価がずれるのはなぜかが参考になります。
標準時間が決まると、人時生産性の議論も具体になります。1人が1時間にどれだけ付加価値を出すのかを見るには、まず作業の標準的な長さが分かっていないと、数字の意味が決まりません。粗利を使った測り方は人時生産性はどう測るのかにまとめてあります。
よくある質問
Q. ストップウォッチ法のほかに、決め方はありますか。
A. 動作を細かい基本動作に分解して、あらかじめ決められた時間値を積み上げる方法(PTS法)や、過去の実績から統計的に見積もる方法もあります。ただし、PTS法には専門の知識と訓練が必要で、実績法は過去の作業条件が変わっていないことが前提です。まずはストップウォッチ法で、現場の実態を押さえるのが取り組みやすい入口です。
Q. 作業者によって、時間が大きく違います。どうすればよいですか。
A. 違いの原因を調べてください。熟練度の差だけでなく、作業方法や治具の使い方が人によって違っているなら、まず方法を統一してから測るのが正しい順序です。方法が揃わないまま平均を取ると、標準時間が誰の実態も映さなくなります。
Q. 余裕率は、どのくらいに設定すればよいですか。
A. 現場の条件によって変わるため、一律の数字はありません。作業の重さ、環境、休憩の取り方を観察して、自社の根拠を作ってください。決めた数字と理由を記録して、現場の実態とずれていないか、定期的に確認します。
まとめ
標準時間は、作業を要素に分け、複数回観測し、レイティングで正味時間にし、余裕率を足して決めます。式は「標準時間=正味時間+余裕時間」で、正味時間は観測の平均にレイティング係数をかけて出します。決めた数字は人の評価ではなく、見積と計画の根拠として使い、改善のたびに測り直してください。
自社の標準時間の決め方や、見積・人員計画への結びつけ方でお困りの方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
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この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。