見積と実際原価がずれるのはなぜか|差が生まれる4つの発生源

案件が終わって原価集計表が出てくるたびに、見積のときの数字と並べて驚く——そんな瞬間を何度も見てきました。担当者に聞けば材料費や手間の話が返ってきますが、理由はそのつど違って聞こえ、次の見積にも同じようには活かせません。でも実のところ、ずれが生まれる場所はだいたい決まっています。
物流・生産管理の現場でこの手の差異と向き合ってきた立場から言うと、“見積が甘い”のひとことで片づけてしまうと、次の見積も同じだけずれます。まずはずれの出どころを4つに割って、どこで起きたかを見分けるところから始めましょう。
見積原価と実際原価の違い(1分で)
見積原価は、受注前に“これくらいでできるはず”と積み上げた予定の数字です。実際原価は、案件が終わったあとに材料費・工数・外注費・間接費を集計し直した結果の数字です。両者の差を原価差異と呼びます。差異そのものは悪いものではなく、どこで生まれたかが分かれば次の見積の精度を上げる材料になります。差異を放置したまま同じ見積の組み方を繰り返す会社ほど、案件が増えるたびに同じ幅で利益を削られていきます。
差が生まれる4つの発生源
見積と実際原価の差は、次の4つのどこかで生まれています。どれも単独ではなく、案件によって複数が重なって出ることも珍しくありません。
①数量・歩留まりの前提
見積では、良品として使える歩留まり(不良や損失を差し引いた実際に使える数量の割合)を過去実績から仮置きします。素材のロットが変わると歩留まりも変わり、見積で95%を見ていた工程が92%で止まると、材料費と再加工の分だけ実際原価が押し上がります。案件ごとに違う材料・工程を同じ歩留まりの数字で丸めた瞬間から、ずれは始まっています。
②工数の見積根拠
見積の工数は、熟練工の標準時間(基準となる作業時間)を土台に組むことが多く、実際に手を動かすのが新人だったり段取り替えが増えたりすると、想定より時間が延びます。私が現場で見てきたのは、見積を作った人と実際に作業する人が違う案件ほど、この工数のずれが大きくなる傾向でした。
③外注単価の変動
見積時点で押さえた外注先の単価は、発注する頃には材料相場やエネルギーコストの変動で動いていることがあります。とくに外注比率の高い工程ほど、単価が数パーセント動いただけで案件全体の原価が揺れます。
④間接費の配賦
工場の光熱費や管理部門の人件費といった間接費は、案件ごとに配賦基準(工数や機械稼働時間などの割合で配分するルール)で割り振ります。見積時点の配賦基準と、実際の稼働実績にもとづく配賦が食い違うと、直接費は何も変わっていないのに総原価だけがずれて見えます。とくに繁閑差の大きい会社では、稼働率が落ちた月ほど配賦後の原価が跳ね上がりやすく、案件そのものは何も悪くないのに数字だけが悪化して見えることがあります。
やっかいなのは、この4つが一度に重なりうることです。仮に、歩留まり・標準時間・外注単価・稼働率のすべてを見積時の前提どおりに置いた案件を考えてみます。実際には歩留まりが少し落ち、担当者の習熟度で工数が伸び、外注単価も動き、稼働率の低下で配賦後の原価が上がります。ひとつずつなら小さなずれでも、重なれば粗利を確実に削ります。切り分けずに見れば、運が悪かった案件として片づいてしまいます。
発生源 | ずれの出方 | 気づく兆候 | 先に手を打つなら |
|---|---|---|---|
①数量・歩留まりの前提 | 材料費・再加工費が想定より膨らむ | 同じ工程でも歩留まりの実績値が案件ごとにばらつく | 直近数件の実績歩留まりで見積前提を洗い替える |
②工数の見積根拠 | 労務費・稼働時間が想定を超える | 作業日報の実績時間が標準時間から恒常的にずれる | 標準時間を担当者の熟練度別に分けて持つ |
③外注単価の変動 | 外注費が発注時点で上振れ・下振れする | 同じ外注先への発注単価が案件ごとに変わる | 相場連動の外注先は見積に単価の有効期限を明記する |
④間接費の配賦 | 直接費は合っているのに総原価だけずれる | 稼働率が落ちた月に配賦後の原価が跳ね上がる | 配賦基準を定期的に実際の稼働実績で見直す |
この4つのどこでずれたかを切り分けられれば、“見積が甘い”で終わらせずに済みます。差異の発生源が分かれば、直すべきなのは見積の精度なのか、現場のオペレーションなのかも見えてきます。ただし、原価の内訳を日常的に追えていなければ、この切り分け自体ができません。原価の見える化に取り組んでいる会社ほど、差異の発生源にすぐ手が届きます。
一段深く|なぜ決算のタイミングでは遅いのか
物流・生産管理の現場を見てきた立場から言うと、原価差異は決算のときにまとめて気づくのでは遅すぎます。決算は数か月分、ときには1年分の差異が積み上がった結果を見ることになり、どの案件のどの発生源が効いていたのかが埋もれてしまいます。しかも決算の時点で分かるのは合計額だけで、歩留まりが原因なのか外注単価が原因なのかまでは、そこから逆算しないと分かりません。
私が現場で効くと感じてきたのは、案件が終わった直後に見積と実際原価を1件ずつ突き合わせる仕組みです。件数が多い会社でも、金額の大きい案件や粗利率が想定を下回った案件だけを対象にすれば、負担は限られます。突き合わせを案件終了直後に置くのは、担当者の記憶が新しいうちに、どの工程で何が起きたかまで一緒に拾えるからです。決算のタイミングまで待つと記憶も証憑も薄れ、結局は“見積が甘かった”という曖昧な結論に落ち着いてしまいます。
原価管理の目的は、正確な決算書をつくることではなく、次の見積の精度を上げることだと私は考えています。だとすれば、差異を確認するタイミングは決算ではなく、案件が終わった瞬間であるべきです。中小製造業の生産管理の現場でも、日々の実績を積み上げる仕組みがあるかどうかで、この突き合わせにかかる手間は大きく変わります。
よくある質問
Q. 見積と実際原価の差は、どれくらいなら正常な範囲ですか?
A. 許容できる差の大きさは業種や工程によって変わるため、一律の基準は言えません。大切なのは差の大きさそのものより、差がどの発生源から来ているかを毎回同じ形式で記録し、傾向として管理できているかどうかです。
Q. 差異分析は誰が担当すべきですか?
A. 見積を作った人と、現場で実際の工数・歩留まりを把握している人の両方が関わるのが望ましいです。どちらか一方だけで完結させると、原因が見積側にあるのか現場側にあるのか、切り分けられないまま終わってしまいます。件数が多い会社では、まず金額の大きい案件や粗利率が想定を下回った案件に絞って始めれば、無理なく続けられます。
まとめ
見積と実際原価のずれは、①数量・歩留まりの前提 ②工数の見積根拠 ③外注単価の変動 ④間接費の配賦、この4つのどこかで生まれています。全部を一度に直そうとしなくて大丈夫です。まずは直近の案件を1件、この4つに沿って突き合わせてみてください。どこで、どれだけずれたかが見えるだけで、次の見積の立て方も、現場に何を確認すればよいかも変わってきます。
原価差異が利益にどう響いているかもあわせて確認したい場合は、限界利益と粗利は何が違うのかもご覧ください。原価管理の仕組みづくりについては、お問い合わせからご相談いただけます。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。