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限界利益と粗利は何が違うのか|値決めの土台になる数字

限界利益と粗利は何が違うのか|値決めの土台になる数字

「この案件、粗利が薄いので受けるのはやめておきましょう」——見積書を前に、そう言いたくなる場面はありませんか。粗利率という一つの数字が出た瞬間、それだけで受注の可否を決めてしまいます。物流・製造の現場を見てきた立場から言うと、この判断は半分正しく、半分は危ういと感じます。

危ういのは、粗利という物差しが「この注文を受けるべきか」という問いに、実はあまり向いていないからです。同じ数字でも、限界利益という別の物差しに替えると、まったく違う答えが出ることがあります。

1分の地図:限界利益と粗利、そもそも何が違うのか

限界利益とは、売上高から変動費だけを引いた利益です。変動費とは、材料費や外注加工費のように、作れば作るほど、売れば売るほど比例して増える費用のこと。一方、粗利(売上総利益)は、売上高から売上原価を引いた利益です。売上原価には変動費だけでなく、工場の家賃や正社員の人件費のように、受注があってもなくてもかかる固定費の一部が、案件ごとに割り振られて含まれています。

同じ「利益」という言葉を使っていても、引き算の中身が違います。粗利は会計のルールに沿って費用を分け、限界利益は「比例して増えるか、増えないか」という費用の振る舞いで分けます。この分け方の違いが、値決めの現場では小さくない差になります。

本題:同じ注文を、粗利と限界利益で見比べる

言葉だけでは実感が湧きにくいので、同じ受注を二つの見方で計算してみます。ある製造業の会社が、100万円の注文を受けたとします。材料費が40万円、外注加工費が10万円。この工場では、家賃や正社員の人件費など、月々かかる固定費を各案件に30万円ずつ割り振る社内ルールがあります。

項目

粗利で見た場合

限界利益で見た場合

差し引く費用の中身

変動費40万円+外注費10万円+固定費の割り振り30万円=売上原価80万円

変動費40万円+外注費10万円=50万円

出てくる利益

粗利20万円

限界利益50万円

利益率

20%

50%

この数字が答える問い

会社全体として、決算上どれだけ儲かったか

この一件を受けると、会社にいくら残るか

粗利率だけを見ると「20%は薄い」と感じ、値上げ交渉か辞退を考えたくなります。でも、この工場の設備や人員がもともと稼働していて、他の仕事を断ってまでこの注文を受けるわけではないなら、固定費の30万円は受けても断ってもどのみち発生します。だとすれば、この注文が実際に会社にもたらす追加の効果は、限界利益の50万円のほうです。固定費を割り振った「あと」の数字である粗利は、個別の受注可否を判断する物差しとしては目が粗すぎます。

ただし、限界利益がプラスなら何でも受けていいわけではありません。稼働に余力がある案件を単発で判断する場面では有効ですが、同じように利益率の低い注文ばかりを積み重ねると、限界利益の合計が固定費の総額に届かず、会社全体は赤字のままです。値決めの物差しを限界利益に切り替えるのは、あくまで「この一件をどうするか」を判断する場面に限る、という線引きが要ります。

固定費の割り振りが、判断を狂わせる

売上原価に固定費を含める会計処理そのものは間違いではありません。決算書として会社全体の儲けを示すには必要な手続きです。問題は、この「割り振ったあと」の数字を、受けるか断るかという個別の意思決定にそのまま使ってしまうことです。割り振りの比率は案件数や生産量によって変わるので、同じ内容の注文でも、忙しい月と暇な月とで粗利率が変わります。数字が動く原因が案件の中身ではなく割り振りの計算方法にあると、現場の判断はぶれていきます。

この割り振りの仕組み自体が見えていない会社は少なくありません。どの費用が量に比例して増える変動費で、どの費用が量に関係なくかかる固定費なのか。原価の見える化にまず取り組むと、粗利と限界利益、どちらの物差しも自社の数字で使えるようになります。

一段深く:目的から物差しを選びなおす

デザイン思考の基本は、今ある手順を疑い、目的から設計しなおすことです。値決めにおける目的は「この注文を受けるべきか」という一点であって、「決算書の見栄えをどう整えるか」ではありません。だとすれば、使う数字も目的に合わせて選び直す必要があります。粗利は会社全体の着地を映す数字、限界利益はこの一件の是非を映す数字。目的が違えば、正しい物差しも違います。

中小企業の製造・物流の現場を見てきた中で、この取り違えは決して珍しくありません。粗利率という一つの物差しだけを毎月の会議で追いかけ、基準を下回る注文は「薄利」と判断して値上げや辞退を検討する、そういう運用を続けている会社に、何社も出会ってきました。よく数字を分解すると、粗利率の低さの正体は、受注量が落ちて一件あたりの固定費の割り振りが膨らんだだけ、というケースが少なくありません。変動費だけで見れば限界利益は十分に出ていて、設備を遊ばせるより受けたほうが会社全体の利益は増える注文を、粗利という物差し一つで断り続けていた——これが、私がこの種の相談でたどり着く見立てです。もし当たっているなら、必要なのは営業のがんばりを増やすことではなく、値決めに使う物差しを変えることでした。

稼働をどこまで埋めるかという判断は、在庫や生産計画の設計にもそのままつながります。在庫最適化の現場でも、固定費と変動費を分けて考えることで、どこまで作り置きし、どこから受注生産に切り替えるかの線引きが変わってきます。

よくある質問

Q. 限界利益率が高ければ、粗利率が低くても受注していいのですか。

A. 稼働に余力があり、この注文を受けても他の仕事を圧迫しない場合は、限界利益がプラスである限り受ける価値があります。ただし、限界利益の積み上げが固定費の総額を超えなければ、会社全体では赤字です。個別の受注可否は限界利益で、会社全体の着地は粗利や営業利益で見ます。この二つを使い分けることが大切です。

Q. 限界利益は誰が管理する数字ですか。経理だけの話ですか。

A. 見積り段階で受注可否を判断する営業と、固定費の割り振りルールを持つ経理・生産管理、双方が使う数字です。この二つの利益概念の違いを部門をまたいで共有しておくと、値決めの会議で話がかみ合うようになります。

まとめ

粗利と限界利益は、どちらも「儲け」を表す数字ですが、答えられる問いが違います。粗利は会社全体の着地を映し、限界利益はこの注文を受けるかどうかを映します。全部を一度に変える必要はありません。まずは、直近の見積りを一件、変動費だけで引き算し直してみてください。粗利率では見えなかった景色が、そこに出てくるはずです。

値決めの土台を整える取り組みは、業務改善の進め方お問い合わせからご相談いただけます。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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