LF&L株式会社
コラム製造現場のリデザイン

稼働率は“高ければいい”数字じゃない|見かけの稼働率に騙されない

稼働率は“高ければいい”数字じゃない|見かけの稼働率に騙されない

「稼働率が下がっています」と言われて、慌てて設備を止めないようにしたことはありませんか。ラインを空けたくなくて、次の受注がまだ固まっていない品目まで前倒しで作ってしまいます。結果、倉庫の一角に、いつ出るか分からない仕掛品と半製品が静かに積み上がっていきます。稼働率の数字だけは上がっているのに、現場はちっとも片づきません。

物流・生産管理の現場を見てきた立場から言うと、この現象の原因は現場の怠慢ではありません。稼働率という指標そのものが、“動かし続けること”を正当化してしまう構造を持っているのです。稼働率が本当は何を測っているのか、まず短く押さえておきます。

稼働率とは:まず1分だけ

稼働率(可動率)とは、設備や人が稼働できる時間のうち、実際に動いていた時間の割合を指します。動いていたかどうかだけを見る指標で、動いている間に何を作っていたか、その中に不良がどれだけ含まれていたか、作ったものが実際に出荷されたかは、稼働率という数字には一切含まれていません。ここが、この指標のいちばんの癖です。

稼働率を上げようとすると、なぜ在庫が増えるのか

現場のKPIに稼働率が入ると、多くの場合こうなります。次の注文がまだ固まっていない品目でも、ラインを止めるよりはと前倒しで作ってしまいます。段取り替えの回数を減らすために、必要数より多くまとめて作ってしまいます。どちらも稼働率の数字は上がりますが、作ったものの行き先はまだ決まっていません。

行き先が決まっていないものは、在庫と呼ぶよりほかありません。在庫は“減らせばいい”わけじゃないでお伝えしたとおり、在庫そのものが悪いわけではありませんが、需要の裏付けがないまま積み上がる在庫は、置き場所と資金を静かに食いつぶします。稼働率を上げる努力が、そのまま在庫を増やす努力になってしまいます。稼働率という指標のいちばん危ういところが、ここにあります。

多くの工場では、この稼働率を日報やExcelで手集計しています。中小製造業の生産管理|Excelの限界はどこで来るのかでも触れましたが、Excelは稼働率の推移を追うことはできても、良品率や出荷実績と突き合わせて「その稼働は出荷につながったのか」まで一画面で見せてはくれません。稼働率だけが独立した数字として一人歩きしやすいのは、この管理の仕方にも一因があります。

稼働率だけでは見えないもの

稼働率は「動いていたかどうか」しか測っていません。動いていた時間のうち、良品として通ったのはどれだけか。作ったもののうち、実際に出荷や後工程で使われたのはどれだけか。この2つを重ねて初めて、稼働率という数字は意味を持ちます。次の表は、稼働率とそれを補う指標を並べたものです。

指標

何を測っているか

これだけ見ると何が起きるか

稼働率(可動率)

稼働できる時間のうち、実際に動いていた時間の割合

止めないこと自体が目的化し、需要のないものまで作って在庫に変える

良品率(直行率)

動いていた時間のうち、手直しや廃棄なしで工程を通った割合

稼働率は稼げていても、実は不良や手直しに多くの時間を取られている状態を見落とす

出荷転換率

作ったもののうち、実際に出荷または後工程で使われた量の割合

動いていて良品でも、需要に対して過剰に作っていれば、ただの在庫に変わる

設備総合効率(OEE)

稼働率・性能率・良品率を掛け合わせ、設備が正味どれだけ価値を生んだかを見る指標

算出の手間は増えるが、“動いていた割合”と“価値を生んでいた割合”のずれが見える

原価計算の場面でも、同じ落とし穴があります。設備を止めずに動かし続けると、単位あたりの固定費が薄まり、見かけ上の原価は下がって見えることがあります。原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃないでもお伝えしたとおり、原価計算は細かく計算すること自体が目的ではなく、判断につながって初めて意味を持ちます。稼働率を上げて原価が下がって見えても、その分が在庫という形で資金に眠っているなら、会社全体としては良くなっていません。

制約工程だけは、稼働率を上げていい

ここまで読むと、「稼働率を追うこと自体が良くないのか」と思われるかもしれません。そうではありません。工程には、会社全体の出荷量を決めている一点があります。多くの場合、いちばん能力が低い、あるいはいちばん時間のかかる工程です。これを制約工程(ボトルネック)と呼びます。

会社全体の出荷量は、この制約工程が1時間に何個通せるかで決まります。制約工程の前後にある工程が、どれだけ稼働率を上げてたくさん作っても、制約工程を通らなければ出荷にはなりません。逆に、制約工程だけは、止めれば止めた分だけ会社全体の出荷量が減ります。稼働率を上げる価値があるのは、この制約工程だけです。

制約工程がどこかを決めないまま「全工程の稼働率を上げよう」と号令をかけると、制約工程の手前に仕掛品が積み上がり、制約工程の後ろは手持ち無沙汰になります。稼働率という数字は会社全体で見れば上がっているように見えても、出荷は1つも増えていません。これが、稼働率を上げる努力が空回りする典型の形です。

一段深く:生産管理とSCMが同じ場所を指している

私は生産管理の現場と、サプライチェーン構築の現場の両方に関わってきました。見る角度は違っても、行き着く先はいつも同じでした。全工程の稼働率を一律に上げようとすると、制約工程の手前に仕掛品が積み上がるだけで、出荷は増えません。上げてよいのは制約工程だけ、という構造です。

生産管理の側から見ると、これは工程間の能力差の話です。SCMの側から見ると、これは在庫と情報がどこで滞留しているかの話です。呼び方は違っても、指している場所は同じ一点、つまり制約工程です。稼働率という指標を工場全体に一律にかけてしまうと、この一点が見えなくなります。

今あるKPIを前提にせず、何のために稼働率を測っているのか、目的から見直します。私はこれを、デザイン思考の実務での使い方だと考えています。稼働率を「下げてはいけない数字」として全工程に配るのではなく、「どこで測る価値があるか」を先に決めます。この順番を変えるだけで、同じ現場が驚くほど身軽になります。

よくある質問

Q. 稼働率を上げること自体が、悪いことなのですか?

A. いいえ、悪いことではありません。ただし、稼働率を上げる価値があるのは制約工程だけです。制約工程以外で稼働率を上げても出荷量は増えず、仕掛品と在庫が増えるだけになりがちです。まずは自社の制約工程がどこかを見極めることが先です。

Q. 設備稼働率はどうやって計算すればいいですか?

A. 一般には、稼働できる時間(負荷時間)に対して、実際に動いていた時間(稼働時間)の割合で計算します。落とし穴は、この計算式自体には良品率も出荷実績も入っていないことです。稼働率の数字を見るときは、良品率と出荷転換率もあわせて確認する習慣をつけてください。

まとめ

稼働率は、“高ければいい”数字ではありません。動いていた時間のうち、どれだけが良品で、どれだけが実際に必要とされていたか——ここまで見て初めて、稼働率という数字は判断の材料になります。全工程を一律に上げようとせず、まずは自社の制約工程がどこかを見つけることから始めてみてください。

稼働率や生産性の指標をどう設計し直すか、自社の制約工程がどこにあるかについては、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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