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コラム製造現場のリデザイン

多能工化はどこから手を付けるのか|スキルマップの作り方5ステップ

多能工化はどこから手を付けるのか|スキルマップの作り方5ステップ

「多能工化を進めたいので、まずは全員が全工程をこなせるように」——そんな号令から始まった取り組みを、私は何度か見てきました。研修計画を組み、ローテーションを回し、半年後に振り返ります。それでも、ある人が休んだ日にラインが止まる状況は変わっていません。

これは努力が足りないのではなく、目的の置き方が原因です。多能工化のゴールは全員を万能にすることではなく、その人が休むと止まる工程を無くすことです。目的がそう定まると、最初に手を付ける工程は「みんながやりたい作業」ではなく、「代われる人がいない作業」に変わります。

スキルマップとは:まず1分だけ

スキルマップは、縦に人、横に作業を並べ、交差するマス目に習熟度を書き込んだ一覧表です。星取表、力量管理表と呼ぶ会社もあります。作るものは単純ですが、この表の本当の役割は、誰が何をできるかを記録することではありません。

役割は「代われる人が何人いるか」を列で読むことです。行を横に見れば個人の成長が見えます。しかし列を縦に見ると、その作業に何人が対応できるかが一目でわかります。1しか立っていない列が、休まれると止まる工程、つまり単一障害点です。

スキルマップの作り方:5ステップ

  1. 工程を作業単位に割る:「組立」のような大きなくくりではなく、実際に引き継ぐときの単位まで割ります。粒度の目安は「その作業だけを他の人に頼めるか」です。細かすぎると表が使われず、粗すぎると代替可能性が読めません。
  2. 人×作業の表を作り、現状を4段階で埋める:一般的には「知らない/教われば出来る/一人で出来る/教えられる」の4段階で整理します。最初は完璧さより網羅を優先し、判断に迷うマスは低いほうに寄せておきます。
  3. 1人しかできない作業を洗い出す:「一人で出来る」以上が1人だけの列に印を付けます。ここが単一障害点です。件数を数えて、経営側の議題に乗せられる形にしておきます。
  4. 誰を何番目に育てるか優先順位を決める:止まったときの影響と、担い手の年齢や勤務形態から、着手順を決めます。全部を同時には進みません。上位3件程度に絞り、いつまでに何段階上げるかを書きます。
  5. 育成の実績を表に戻して更新し続ける:教えた、やってみた、一人でできた——その都度マスを塗り替え、単一障害点の数の推移を見ます。更新されて初めて、表は計画の道具になります。

5つのうち、抜けやすいのは3番目です。表を作るところまでは多くの現場でできています。しかし「1しか立っていない列」を数えて名前を付ける作業をしないと、表はただの記録で終わります。

着手点は「人気の作業」ではなく「代われる人がいない作業」

優先順位を決める段になると、どうしても取り組みやすいところから手が伸びます。若手が興味を持っている作業、教える側が教えやすい作業、研修資料がすでにある作業。どれも前に進んでいる実感が出ますし、現場の空気も明るくなります。

ただ、そこを埋めても止まるリスクは下がりません。多くの場合、単一障害点はいちばん地味な作業に潜んでいます。特殊な段取り、古い設備の立ち上げ、月末だけ発生する手続き。頻度が低いぶん、教える機会も自然には訪れません。

だから、育成の順番は好みではなく列の数字で決めます。段取り替えの時間短縮と同じ構図で、ボトルネックは目立たない場所にあります。目立つ作業を器用にすることより、代えの効かない1本を2本にすることのほうが、止まらない現場への効き目が大きいのです。

「全員が全部」を目指さなくていい理由

単一障害点を無くすという目的から逆算すると、必要なのは全員の万能化ではありません。ひとつの作業に対して、確実に代われる人が2人か3人いれば、休暇も急病も吸収できます。全員が全工程を覚える計画は、教える側の時間を薄く広く消費し、結局どの作業も中途半端に終わりがちです。

もうひとつ、忘れたくない点があります。すべてを均一にすると、深い技能を持つ人の強みが薄れます。専門性は残しつつ、止まらないための冗長性だけを確保します。技能伝承の仕組み化で扱った話と同じで、残すべき深さと、広げるべき幅は分けて考えたほうが現実的です。

目標の立て方も変わります。「多能工率◯%」のような平均値ではなく、「代われる人が1人以下の作業の件数」を指標に置いてみてください。前者は全体を薄く上げれば達成できますが、後者はリスクのある場所を直さないと減りません。追いかける数字が変われば、現場の動き方も変わります。

一段深く:スキルマップは、作った瞬間から古くなる

ここが、実務でいちばん効く話です。スキルマップは作った時点が最も正確で、翌日から少しずつ実態とずれていきます。人は異動しますし、設備は入れ替わり、作業手順も変わります。半年放置された表は、現場と照合されないまま会議資料に貼られ続けます。

そして、更新されない表には特有の害があります。それは「一覧表がある」という事実そのものが、対策済みという安心を生むことです。実態では代われる人がいなくなっているのに、表の上では2人が対応可能に見えています。この状態は、表が無い場合よりも危険かもしれません。

ですから、設計に含めるべきなのは表の書式ではなく、更新の段取りです。誰が、いつ、何をきっかけに書き換えるのか。私が現場に勧めているのは、月次の生産会議のような既存の場に5分だけ枠を取り、変更があった行だけを直す形です。更新専用の会議を新設すると、たいてい3回目で消えます。

この「続かなさ」は、現場の記録全般に共通する構造です。現場のデータ入力が続かない理由で書いたとおり、書く人にとって書いた見返りが無い記録は続きません。スキルマップも同じで、更新した結果が育成計画や応援要請に反映されて初めて、書く意味が生まれます。表を作る設計と、表を生かす設計は別物です。

よくある質問

Q. 4段階の評価は誰が付けるのですか

A. 現場の監督者が一次評価を付け、本人と擦り合わせる形が実務的です。自己申告だけにすると基準が人によって揺れますし、上長だけで決めると納得感が下がります。大切なのは段階の定義を文章で書いておくことで、たとえば「一人で出来る」を「標準時間内に、応援なしで完了できる」と決めておくと、評価者が替わってもぶれにくくなります。

Q. 少人数の会社でも作る意味はありますか

A. むしろ人数が少ない会社ほど効きます。10人の現場では、1人が休むだけで複数の工程が止まる可能性があり、単一障害点の密度が高くなるためです。全作業を網羅しなくてもかまいませんので、止まると困る工程を10前後だけ選び、その範囲で表を作るところから始められます。

Q. 多能工化を進めると、手当や評価はどうすべきですか

A. 制度は会社ごとに事情が違うので一律の答えはありませんが、「できる作業が増えた人が損をしない」形にしておく必要はあります。応援に回る人ほど負荷が増え、評価は変わらないという状態が続くと、覚えることを避ける動機が生まれます。金額の話に限らず、教えられる段階に上がった人を明示的に認める仕組みを先に決めてください。

まとめ

多能工化は、全員を万能にする取り組みではありません。休まれると止まる工程を見つけ、そこに代われる人を1人足していく取り組みです。スキルマップは、その単一障害点を列で見つけるための道具として使ってください。

手順は5つ。作業単位に割り、4段階で現状を埋め、1人しかできない列を数え、育てる順番を決め、実績を表に戻します。最後の1つが設計に含まれていないと、表は作った日から古くなります。まずは自社の主要工程だけで、列を数えてみてください。

スキルマップの粒度や育成の優先順位を一緒に整理したい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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