内製と外注はどこで線を引くのか|原価だけで決めると失うもの

見積もりを2枚並べて、外注の方が安い数字が出た瞬間に、内製をやめて外注へ切り替える——製造業の支援先で、何度も見てきた場面です。担当者の判断が甘いわけではありません。数字は、たしかに外注の方が安く出ています。
でも、この比較には見落としがあります。私はこう見ています。単価だけで内外製を決めると、たいてい外注の方が安く見えます。それは偶然ではなく、原価計算の仕組みが、そう出るようにできているからです。
内製と外注、まず1分だけ
内製とは、自社の設備と人で工程を完結させること。外注とは、その工程を社外の会社に発注することです。判断は「どちらが安いか」で語られがちですが、本当に見るべきは「その工程のコストのうち、外注しても自社に残り続けるものは何か」です。ここから先は、この視点で進めます。
①まず変動費で比べる
最初にやるべき比較は、変動費どうしを並べることです。材料費、外注加工費、その工程にかかる人の時間×時間単価、消耗する刃物や治具の費用。数量が増えれば増える分だけ増える費用が変動費です。
ここでよくあるつまずきが、社内の原価計算の方式にあります。多くの会社は全部原価計算という方式で単価を出しています。工場の家賃や設備の減価償却費、正社員の固定給といった固定費を、生産数量で割って単価に上乗せする方式です。だから内製の単価には、外注の見積には乗らないはずの固定費が、最初からすでに乗っています。
比べるなら、固定費を外した変動費どうしで比べるのがフェアです。そのためには、自社の原価のうちどこまでが変動費でどこからが固定費かを、日ごろから切り分けておく必要があります。原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃないで書いたとおり、ここで要るのは精密な計算式ではなく、まず線引きが見えている状態です。
よくある場面を思い出してみます。経営会議で、購買担当が外注数社の見積を並べ、その中でいちばん安い数字と、社内の原価計算表にある内製単価を並べて比べます。この瞬間、比べているのは同じ土俵の数字ではありません。外注の見積は変動費だけで作られた数字、内製の単価は固定費を上乗せした数字です。土俵が違う2つの数字を並べて、「外注の方が安い」と結論づけているだけのことが少なくありません。
②消える固定費を見る
変動費で外注が安いとわかっても、判断はまだ終わりません。次に見るのは、その工程を外に出したら、社内の固定費は本当に減るのか、という一点です。
設備は売却できるか、他の工程に転用できるか。人は他の仕事に回せるか、それとも手が空くだけか。空いたスペースは、家賃や光熱費を減らす方向に使えるか。
答えが「特に変わらない」であれば、固定費は1円も減っていません。そこに外注費が上乗せされるだけで、会社全体の支出はむしろ増えます。単価の比較表では外注が勝っていても、損益計算書の上では負けている、という状態が普通に起こります。
よく見るのは、こうした場面です。ある工程を外注に切り替えたあと、それまで担当していた人は解雇されるわけではありません。他の作業に回され、手待ちの時間を埋めるように動きます。
設備も、すぐには処分されず倉庫の片隅に残ります。決算書の固定費の行は、外注前とほとんど変わっていません。それなのに、外注費という新しい支出だけが積み上がっていきます。
この食い違いは、見積の精度そのものにも表れます。見積と実際原価がずれるのはなぜかで書いたとおり、見積段階の数字と実際にかかる原価は、想定していた前提が崩れた分だけずれます。内外製の判断でも同じで、「外注の方が安い」という見積時点の比較は、固定費が本当に消えるという前提が崩れた瞬間に成立しなくなります。
③技術を手放してよいかを決める
変動費で比べ、固定費の増減を見た上で、それでも外注の方が有利だとします。ここで最後に残る問いは、数字では決まりません。その技術を、自社から手放してよいかという問いです。
ここでいう技術とは、加工する手の動きだけを指しません。その工程の何が難しくて、どこで失敗しやすく、仕様がどこまでなら現実的か——工程を判断する力そのものも含みます。手を動かす部分だけを外に出したつもりでも、判断する力は使わなければ数年で錆びます。数字の比較表には、この錆びていく部分は最初から載っていません。
戻せなくなる条件
内外製の判断は、多くの場合やり直しがききません。一度外に出した工程を、後になって内製に戻そうとしても戻せない状態というものがあります。
- 設備をすでに売却・廃棄していて、再導入に大きな投資が要ります。
- その工程を判断できた人がすでに退職し、後任を育てていません。
- その工程を担える外注先が実質1社しかなく、価格や納期の主導権を握られています。
- 図面や仕様の変更履歴が外注先にしか残っておらず、社内で追えません。
これらは、外注を決めた瞬間には見えません。数年たって、次の見積が届いたときに初めて気づきます。だから内外製の判断は、今の見積の良し悪しだけでなく、「戻すという選択肢が、この先も自社に残るか」を合わせて見ておく必要があります。
一段深く|図面を読める人がいなくなる、という構図
私はLF&L株式会社の代表取締役として、製造業のDXを支援しています。支援先を横断して見えてくる構図があります。ある工程を外注に切り出してから数年が経つと、社内に「その工程の図面を読める人」がいなくなっていることがあります。
これは統計ではなく、現場を歩いて繰り返し見えてくる見立てです。コストの比較には一切現れません。しかし効いてくる場面は明確です。外注先から新しい見積が届いたとき、その金額が妥当かどうかを判断する根拠を、社内が持てなくなっているのです。値上げを打診されても、その工程の難しさを体感として知っている人がいないので、突き返す材料がありません。
図面を読める人がいるとは、公差や材質の指定が現実的かどうか、工程数が妥当かどうか、歩留まりの想定が甘くないかどうかを、体感で判断できる状態を指します。この判断力がなければ、外注先が出してきた金額を、正しいものとしてそのまま受け入れる以外に選択肢がなくなります。
この状態は、以前技能伝承は“ベテランに任せる”ことじゃないで書いた、技能が特定の個人に閉じてしまう構造と根が同じです。違うのは、そこで失われるのが「作る力」ではなく「見積を判断する力」だという点です。デザイン思考の側から言えば、内外製の判断は「今のコストがどちらが安いか」を計算する問題である前に、「自社が持ち続けたい判断力は何か」を先に決める設計の問題です。
よくある質問
Q. 外注の方がいつも安く見えるのはなぜですか?
A. 多くの会社が使う原価計算の方式では、内製の単価に固定費があらかじめ上乗せされています。外注の見積にはその固定費が乗っていないので、単純に並べると外注の方が有利に見えます。固定費が実際に消えるかどうかを別に確かめない限り、この比較はフェアではありません。
Q. 一度外注した工程を、内製に戻すことはできますか?
A. できる場合もありますが、条件が要ります。設備が残っているか、判断できる人が社内にいるか、図面や仕様の変更履歴を追えるか。この3つが失われていると、戻すという選択肢自体が、すでに無くなっています。
まとめ
内外製の判断を、単価の比較だけで終わらせないでください。まず変動費どうしで比べ、次にその工程を外に出したときに固定費が本当に減るのかを確かめてください。そのうえで最後に、その技術を自社から手放してよいかを、数字とは別に決めてください。この3段階を踏むだけで、見えてくる景色は変わります。
内外製の切り分けや原価構造の見直しについては、お問い合わせからご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。