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予実管理は“差を報告する”ことじゃない|数字が現場に戻る回し方

予実管理は“差を報告する”ことじゃない|数字が現場に戻る回し方

月末の経営会議で、「予算には届きませんでした、主要顧客の発注が遅れた影響です」と説明して終わります。翌月も似た数字が並び、また似たような理由が読み上げられます。数字は毎月きちんと締まっているのに、現場のやることは先月と変わらない——そんな予実管理に、覚えはありませんか。

生産管理と物流の現場、そしてSCM構築の実務を見てきた立場から言うと、これは会議の進め方の問題ではなく、差異の分け方の問題です。原因を「発注遅れ」の一言でまとめてしまうと、それが値段の問題なのか、量の問題なのか、現場の動き方の問題なのか、誰にも分からないままになります。分からないまま来月を迎えれば、また同じ数字が並びます。

予実管理の基本を1分で

予実管理とは、予算(計画した数字)と実績(実際の数字)を突き合わせ、その差を次の判断に使う仕組みです。差そのものを出すのは簡単で、会計システムがボタン一つで出してくれます。難しいのは、その差を「誰が」「何を」直せば埋まるのかまで分解することです。ここが抜け落ちると、差異報告は数字を読み上げるだけの儀式になります。

差異は「価格・数量・効率」の三段に分けられる

予算と実績のずれには、いつも複数の成分が混ざっています。仕入れや販売の単価が動いた分(価格差)、作った量や使った量が動いた分(数量差)、同じ量をこなすのにかかった時間や手間が動いた分(効率差)。この三つを混ぜたまま「発注遅れの影響」で片づけると、来月も同じ言い訳が出てきます。分けて初めて、次にやることが決まります。

価格差を動かせるのは仕入れと値決めの現場

価格差(原価計算では価格差異と呼びます)は、仕入単価や販売単価が予算と実際でずれた分です。原材料が値上がりした、逆に値引き交渉が効いた——動かせるのは購買・調達の担当者と、値決めをする営業や経営です。価格差の主因が仕入れにあるのに、値決めの権限を持つ人が差異の会議に同席していない、というケースは珍しくありません。差異を報告する相手と、実際に動かせる相手がずれていると、原因は分かっても誰も手を打てないままになります。原価そのものをどこから見直すかについては、原価管理は何から手を付けるかで書いたとおり、まず仕入れの単価から手を付けるのが定石です。

数量差を動かせるのは工程と歩留まりの現場

数量差(数量差異・歩留まり差異)は、使った材料や工数の量が予算と実際でずれた分です。見積の前提にしていた歩留まりと、実際の工程で出た歩留まりに差がある、というような話です。ここを動かせるのは製造の工程担当者であり、値決めをする営業ではありません。同じ「原価が予算より高い」という報告でも、価格差が主因なら購買が動くべきで、数量差が主因なら工程が動くべきです。動かす相手を取り違えると、対策会議を重ねても数字は変わりません。

見積の時点の想定と実際の原価がずれる理由の多くも、この数量差にあります。見積と実際原価がずれるのはなぜかで触れたように、見積の前提と現場の実力のあいだにずれがあると、数量差は毎回同じ方向に出続けます。

効率差を動かせるのは段取りと稼働率の現場

効率差(作業時間差異・能率差異)は、同じ量をこなすのにかかった時間や手間が予算と実際でずれた分です。段取り替えに時間がかかった、稼働率が計画より落ちた、といったことが当てはまります。ここを動かせるのはライン管理者や現場のリーダーで、経営会議で発言する機会がいちばん少ない層でもあります。効率差はおもに変動費に効くため、固定費まで含めた粗利ではなく、変動費だけを引いた利益で見たほうが動きが見えやすくなります。限界利益と粗利は何が違うのかで書いた区別が、ここで効いてきます。

三段に分けたら、会議の出席者も変える

分解して終わりにしないための一歩は、差異ごとに報告する相手を変えることです。価格差が大きい月は購買担当者に、数量差が大きい月は工程の責任者に、効率差が大きい月はライン管理者に、それぞれ会議で説明を求めます。今までのように経営層だけが「なぜ未達か」を説明する構図から、差異を動かせる本人が自分の数字を説明する構図に変えるだけで、対策の解像度が上がります。

ありがちな失敗は、三段に分けた集計表を作っただけで満足してしまうことです。表を作る作業と、その表をもとに誰が何をするかを決める作業は別で、後者を仕組みにしないと、分解は次の月には元の一枚の数字に戻ってしまいます。まずは今月の差異のうち一番大きい科目だけでよいので、担当者を名指しして次回の会議で説明してもらいます。そこから始めれば十分です。

一段深く、数字が締まる日と現場が動ける日

生産管理とSCM構築の実務から見えてくる構図があります。予実の会議が報告会になるのは、数字が締まる日と、現場が実際に手を打てる日がずれているからです。月次で締めた数字が現場に戻るのが翌月半ばだとすると、そこで分かる価格差・数量差・効率差は、もう半月以上前の話になっています。打ち手を考えるころには、対象の月はとうに終わっているのです。

差異を三段に分けても、戻る速さが遅ければ、細かく分類された報告書が増えるだけで終わります。分解の粒度と、数字が戻る速さは、セットで設計しないと意味を持ちません。価格差は月次のままでも間に合うことが多い一方、効率差は現場の稼働状況が数日で変わるため、月次の会議まで待たずに現場のレビューに乗せたほうが効きます。差異の種類によって、戻す速さそのものを変える発想です。

逆に言えば、価格差・数量差・効率差にきれいに分けられないとしたら、それは分析力の不足ではなく、その粒度でデータを取っていないというサインです。原価をどの単位(製品別・工程別・ロット別)で記録しているかを見直すところから、分解は始まります。

よくある質問

Q. 差異が価格差なのか数量差なのか分けられません。

A. 単価と数量が一体になった伝票データしか残っていない場合、そもそも分解の手がかりが何もなく、価格差なのか数量差なのか誰にも判定できません。まずは仕入・出庫のデータを、単価と数量を別の列として記録するところから直します。ExcelでもERPでも構いませんが、「単価×数量」を後から一つの合計額として保存してしまうと、そこから先はどう頑張っても分解できなくなります。

Q. 予実の確認は月次より短くしたほうがいいですか。

A. 現場が手を打てる周期に合わせるのが基本です。仕入単価の交渉結果はおおむね月末にまとまれば十分ですが、効率差は日々の段取りや歩留まりで動くので事情が違います。週次や日次で見られる指標を別に持っている現場のほうが、差異を小さく保てています。全部を週次にする必要はなく、動かせる速さに応じて頻度を変えれば十分です。全ての指標を同じ周期で見ようとすることも、報告会が形骸化する一因になります。

まとめ

予実管理は、差を報告して終わりにする作業ではありません。価格差・数量差・効率差に分け、それぞれ動かせる人に戻して初めて、来月の数字が変わります。分けられないなら、それは能力の問題ではなく、そこまでの粒度でデータを取っていないというサインだと捉えてください。

全部を一度に分ける必要はありません。まずは一番大きい差異の科目だけ、価格差か数量差かを分けてみてください。それだけでも、次の会議で交わされる言葉が変わってきます。

差異の分解や、原価データの取り方から見直したい場合は、お問い合わせからご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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