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原価管理は何から手を付けるか|中小製造業の5ステップ

原価管理は何から手を付けるか|中小製造業の5ステップ

原価計算表を前に、手が止まったことはありませんか。間接費をどう配賦するか、標準原価をどう設定するか、調べるほど専門用語が増えていきます。でも、多くの中小製造業がまずつまずくのは理論の手前、「今、この製品に何がどれだけかかっているか分からない」という一点です。

物流・生産管理の現場を歩いてきた立場から言うと、原価管理で止まる会社の多くは、会計の理論から入ろうとして止まっています。理論は後からでも学べます。先に必要なのは、分からない費目を1つだけ選んで、実際の数字を取りにいく行動のほうです。

原価管理は“比べる”ための仕組みです

原価管理とは、製品やサービスにかかった費用を把握し、狙っていた原価(標準原価)と実際にかかった原価を比べて、差を経営判断に活かす取り組みです。ポイントは計算の精度そのものではありません。比べて、差を追えるようになっているかどうかです。ここが整っていれば、値決めも改善も、勘や経験だけに頼らずに済みます。

原価管理は「今いくらか分からない費目」を1つずつ潰す作業です

原価管理を止めてしまう会社には、共通の入り方があります。最初から全製品・全費目を対象にした精緻な原価計算表を作ろうとするパターンです。材料費も労務費も間接費も、一度に配賦基準を決めようとします。設計としては正しく見えますが、実務としては重すぎます。誰か1人が音を上げた瞬間に、表の更新が止まります。

実務で効くのは、対象を絞ってから積み上げる順番です。以下の5段階で進めます。

5つの段階

  1. ①対象を絞る:全費目ではなく、「今いくらかかっているか分からない」費目、または利益率が読めない製品ラインを1つ選びます。
  2. ②実績を取る:選んだ対象について、実際にかかった金額・時間・数量を、決まった形式で記録し続けます。
  3. ③標準と比べる:見積りや目標として置いていた標準原価と、実績を突き合わせて差額を出します。
  4. ④差を追う:差が生まれた工程・作業・原因を特定します。数量差か価格差か、時間差かを分けて見ます。
  5. ⑤値決めに返す:実績原価を、次の見積り・価格改定・製品選別の判断材料として使います。

①対象を絞る段階で、答えはすでに社内にあることが多いものです。経営者や工場長の頭の中には、「あそこの数字がずっと曖昧だ」という場所が必ずあります。外注加工費が案件ごとにばらつく、間接費の按分が感覚で決まっている、そうした場所です。原価の見える化を全社一斉に進めようとすると、対象が広すぎて誰も手を付けられなくなります。まずは1つに絞ることが、遠回りに見えて一番早い道です。

②実績を取る段階で大事なのは、精度より継続です。完璧な集計フォーマットを最初から作ろうとすると、入力項目が増えすぎて現場が追いつきません。日報や作業指示書にすでにある数字を、そのまま使える形で拾うところから始めます。新しい入力の手間を、できるだけ増やさないことが続く条件です。

③標準と比べる段階では、標準原価は完璧である必要がありません。見積り時の想定額や、過去の実績平均でも構いません。大事なのは「比べる基準がある」ことで、基準がなければ実績を集めても差が見えないままです。

④差を追う段階が、原価管理の核心です。差が出た事実だけでは何も変わりません。その差が、材料の使用量が想定より多かったからなのか、単価が上がったからなのか、それとも作業時間が延びたからなのかを分けて見ます。工程のムダが原因だと分かった場合は、ECRSの原則に沿って、なくせないか、まとめられないか、順序を変えられないか、簡単にできないかの順で見ていくと、対策が具体的になります。

⑤値決めに返す段階まで来て、原価管理は初めて経営に効きます。実績原価が積み上がると、どの製品で稼げていて、どの製品が実は赤字に近いかが見えてきます。値上げや製品の優先順位を判断するときは、限界利益と粗利は何が違うのかを押さえておくと、原価の数字をどちらの指標に載せて判断すべきかが整理できます。

この5段階を、進捗の目安として表にしておきます。次の段階に進むかどうかを迷ったときは、この条件に戻ってください。

段階

やること

終わったと言える条件

①対象を絞る

分からない費目・製品を1つ選ぶ

「今月はこれだけ見る」と1つに決まっている

②実績を取る

実際額・実際時間を記録する

決めた対象の実績が、毎月同じ形式で記録され続けている

③標準と比べる

標準原価と実績を突き合わせる

差額が数字として出ている

④差を追う

差の発生原因を特定する

差の原因を担当者が説明できる

⑤値決めに返す

実績原価を見積り・価格に反映する

次の見積りか価格改定に、実績原価の数字が使われている

よくあるつまずき方

この5段階を知っていても、途中で止まる会社にはいくつか共通の型があります。1つは、①で対象を絞ったつもりが、実は「原価全体」のような広い言葉のまま止まっているケースです。「材料費」ではなく「A製品のうち今月仕入れた特定部材」まで具体化できているかを確認してください。もう1つは、②で実績を取り始めたものの、③の比較を後回しにしてしまうケースです。実績データはたまるほど価値が出ると思われがちですが、標準と比べる仕組みが無ければ、ただの記録で終わります。

逆に言えば、対象を具体的な一点まで絞り、実績を取りはじめたその月のうちに標準との比較を1回でもやってみることが、次の月も続く分かれ目になります。

なぜ一気に全部やろうとすると止まるのか

生産管理の現場では、同じ光景を何度も見てきました。最初から全費目を集めようとすると、入力の手間が現場の作業を圧迫し、三か月もすると誰も入力しなくなります。仕組みそのものは間違っていなくても、運ぶ人が息切れすれば止まります。原価管理が続かない最大の原因は、精度の低さより、現場の負荷です。

対象を1つに絞るのは、やることを減らすための妥協ではありません。今のやり方を全部変えようとするのではなく、最終的な目的(差を追って値決めに返す)から逆算して、いちばん効く一点だけを選ぶ、という設計の順番の問題です。全体を一度に描き直そうとせず、目的から手前に戻って設計しなおします。これはものづくりでも音の設計でも共通する考え方で、私はこれを原価管理にもそのまま当てはめています。

1つの費目で①から⑤まで回してみると、次に何を集めればいいかが見えてきます。2つ目、3つ目の対象は、最初ほど手探りになりません。全費目を「見える化」するのは、最初の目標ではなく、この積み上げの結果として辿り着く場所です。

よくある質問

Q. 原価計算と原価管理は同じもの?

A. 原価計算は、製品やサービスにかかった金額を算出する技術です。原価管理は、その数字を標準と比べ、差を追い、値決めや改善につなげる活動全体を指します。原価計算は原価管理の材料の1つ、と捉えると整理しやすくなります。

Q. 専任の担当者がいなくても始められる?

A. 始められます。対象を1つに絞れば、記録する項目も、月1回の集計で回せる規模に収まります。専任者がいないことは、始めない理由にはなりません。むしろ対象を絞る一番の動機になります。

まとめ

原価管理は、理論を学び終えてから始めるものではありません。分からない費目を1つ選び、実績を取り、標準と比べ、差を追い、値決めに返します。この5段階を1周させることが、最初の一歩です。全部を一気に整えようとしなくても大丈夫です。まずは1つの費目から始めてみてください。

自社の原価管理をどこから始めるべきか整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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