赤字商品はどうやって見つけるのか|製品別採算を出すときの落とし穴

製品別に原価を出してみたら、長年つくり続けてきた定番の一つだけが、実はずっと赤字だった——そんな結果を見て、頭を抱えたことはありませんか。「今すぐ生産をやめるべきか、それとも何か見落としているのか」。数字が出た瞬間、判断を急ぎたくなります。
物流・製造のDX支援の現場から見ていると、ここで焦って結論を出すのはむしろ危険です。製品別に採算を出すこと自体は正しい一歩です。でも、赤字と出た製品を機械的にやめると、会社全体の利益がかえって減ることが実際にあります。まず、なぜそんなことが起きるのかを1分だけ押さえておきます。
赤字が出る理由を1分で
製品別の採算は、売上からその製品にかかった原価を差し引いて出します。原価のうち、材料費や加工の作業時間のように製品ごとにはっきり紐づくものを直接費、工場の家賃や管理部門の人件費のように複数の製品にまたがってかかるものを間接費と呼びます。間接費は、生産数量や作業時間などの基準で各製品に割り振ります。この割り振りを配賦といいます。
ここに見落とされがちな一点があります。配賦は「割り振り方」を決めているだけで、間接費そのものの金額を動かしているわけではありません。ある製品への配賦をやめても、工場の家賃も管理部門の給与も1円も減りません。配賦先を失った分は、残った製品にそのまま乗り移るだけです。赤字商品を見つける作業と、赤字商品をやめる判断は、まったく別の作業だということです。
やめるか続けるかを決める3つの段階
製品別採算で赤字が出たら、私はいつも同じ順番で確認します。段階を飛ばして「赤字だからやめる」に直行すると、あとで利益が減った理由が説明できなくなるからです。
第1段階:限界利益を見る
まず見るのは、粗利ではなく限界利益です。限界利益は、売上からその製品を1つ作るごとに増減する費用(材料費や外注加工費など)だけを引いた金額で、間接費の配賦は関係ありません。限界利益がマイナスなら、その製品は作れば作るほど手元のお金が減っていくということなので、この段階でやめる判断が固まります。
一方、限界利益がプラスなのに製品別採算では赤字に見える場合、赤字の正体は配賦された間接費です。この違いを取り違えると判断を誤ります。限界利益と、決算でよく使う粗利は似ているようで前提が違う指標です。限界利益と粗利は何が違うのかで仕組みを整理していますので、ここで使う数字がどちらなのか、一度手元の資料で確認してみてください。
ここでよくあるつまずきが、変動費の中に固定的な性格の費用が紛れ込んでいることです。たとえば専用の治具や金型の摩耗費を「材料費」に一括で含めて計算していると、限界利益が実態より低く出てしまいます。変動費の中身を一度洗い直すだけで、判断が変わることは珍しくありません。
第2段階:消える費用と消えない費用を分ける
限界利益がプラスだった場合に本当に確認すべきは、「その製品をやめたときに、実際に消える費用はいくらか」という一点です。配賦された間接費の全額ではありません。専用に組んだ設備の減価償却や保守契約、その製品にしか使えない専属の作業員の人件費のように、やめた瞬間に本当に無くなる費用だけを拾い出します。
逆に、複数製品で共有している設備の償却費や、他の製品にも配置転換できる作業員の人件費は、その製品をやめても消えません。名目上の間接費と、実際に消える費用がどれだけずれるかは、そもそも原価をどの粒度で出しているかにも左右されます。受注ごとの原価はどこまで細かく出すべきかもあわせて見ていただくと、この切り分けがしやすくなります。消えない費用のほうが多いと分かった時点で、やめる判断の根拠はかなり弱くなります。
第3段階:空いた能力の使い道を見る
ここまでで、限界利益がプラスで、やめても消える費用はわずかだと分かったとします。それでも最後にもう一つ確認が要ります。その製品をやめて空く人と設備を、次に何に使うかです。
空いた工数を、より限界利益率の高い製品の増産に回せるなら、やめる判断は積極的な意味を持ちます。減った分以上の利益を、別の場所で稼げるからです。反対に、空いた設備も人手も他に使い道がなく遊ばせるだけなら、話は変わります。限界利益がプラスである以上、その製品は少なくとも固定費の一部を負担してくれていたわけで、やめてしまうとその負担分がまるごと消え、会社全体の利益は減ります。「稼ぎが薄い製品」と「置いておくと損な製品」は、じつは別物です。
現場でよく出会うのは、その製品専用に組んだ塗装ラインや検査治具が、他の製品には流用できない設備であるケースです。この場合、やめても空くのはスペースだけで、収益を生む転用先はありません。逆に汎用の工作機械であれば、段取りを替えるだけで他の製品に回せます。設備が専用品か汎用品かを見ておくだけで、第3段階の判断はぐっと具体的になります。
一段深く:数字だけでは決着しない理由
DX支援の現場で何度も見てきたのは、製品別採算の議論が止まる場面です。止まる原因は、たいてい数字が出ていないことではありません。原価計算のシステムを入れれば、赤字製品はすぐに可視化できます。議論が止まるのは、「やめたあとに空く人と設備をどうするか」の答えが誰にも無いまま、赤字か黒字かの一点だけで押し問答になるときです。
私はこれを、採算の話は能力の使い道の話とセットでしか決着しない、と見ています。赤字商品をやめる・やめないは会計の問題に見えて、実際には「今ある設備と人をどこに再配置するか」という現場の設計問題です。配置先が決まっていない状態でやめる判断だけを先に出すと、現場は「では明日から何を作るのか」に答えられず、結局元の生産計画に押し戻されます。
逆に、空いた能力の使い道が先に決まっていれば、赤字製品の整理は驚くほどすんなり進みます。数字を出す担当者と、人と設備を動かす権限を持つ担当者が、同じテーブルで話しているかどうか。私が製品別採算の相談を受けたとき、最初に確認するのはそこです。
よくある質問
Q. 限界利益がマイナスの製品はどうすればいいですか。
A. 基本的には、早い段階でやめる判断が妥当です。作れば作るほど損失が積み上がるため、続ける理由がありません。ただし、その製品が他の主力製品の受注条件とセットになっている場合や、取引先との関係上外せない場合は、単体の採算だけでなく取引全体を見て判断する必要があります。
Q. 見積の時点では黒字に見えたのに、あとから赤字だと分かることがあります。なぜですか。
A. 見積段階の原価は、標準的な作業時間や想定の歩留まりをもとに計算した見込みの数字です。実際に作ってみると、段取り替えの手間や不良の発生率などで想定と差が出ることがあり、これが積み重なると見積時点の黒字が実際原価では赤字に転じます。見積と実際原価がずれるのはなぜかで、ずれが生まれる仕組みを詳しく取り上げています。
まとめ
製品別採算で赤字が出たら、全部やめる必要はありません。まず限界利益を見て、マイナスならその段階でやめます。プラスなら、やめたときに本当に消える費用を洗い出します。そのうえで、空く人と設備の使い道まで決まって、はじめてやめる判断は完成します。数字と現場の配置、両方が揃うまでは判断を急がないでください。
製品別採算の出し方や、赤字製品の判断でお悩みでしたら、お問い合わせから気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。