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受注ごとの原価はどこまで細かく出すべきか|粒度の決め方

受注ごとの原価はどこまで細かく出すべきか|粒度の決め方

「この受注、原価はいくらだったんですか」と聞かれて、すぐに答えられなかったことはありませんか。材料費ならすぐ出せても、外注加工費や段取りの時間まで乗せようとすると、とたんに怪しくなります。かといって全部を実測しようとすると、今度は伝票やタイムカードの入力が追いつかなくなり、しばらくすると誰も正確に記録しなくなります。私はこの板挟みを、生産管理の現場で何度も見てきました。

物流・製造の現場を見てきた立場から言うと、原価の粒度は「正確さ」だけでは決まりません。細かくすればするほど数字は正確に近づきますが、入力の手間が増えるほど続かなくなり、続かなければ数字自体が死んでしまいます。今日は、どの費目を実測し、どこから標準値で置き、どこは思い切って取らないでいいのか、線引きの考え方をお話しします。

原価の粒度とは:まず1分だけ

原価の粒度とは、受注1件あたりの原価を「どの費目まで・どこまで細かく」分解して把握するかの度合いです。材料費・外注費・加工費(人の作業時間や設備の稼働)・間接費のうち、どこまでを実際の伝票やタイムカードから積み上げ、どこから先はまとめ計算や標準値で済ませるか。この線をどこに引くかが、粒度の決め方です。

細かくするほど正確になる、でも続かない

受注ごとの原価は、理屈のうえでは細かければ細かいほど正確です。材料は品番ごとに実際の購入単価を、加工は工程ごとに実際の作業時間を、外注は案件ごとの請求書を——すべて紐づければ、原価は限りなく実態に近づきます。

ところが現場では、これがそのまま続かないことのほうが多いです。作業者に工程ごとの着手・完了をいちいち打刻させようとすると、忙しい日ほど入力が後回しになり、月末にまとめて“それらしい”数字を埋める運用に変わっていきます。私が生産管理の現場で見てきたのは、まさにこの崩れ方です。精度を上げるための仕組みが、精度そのものを壊してしまいます。

だから原価の粒度は、「理論上どこまで測れるか」ではなく「どこまでなら現場が無理なく続けられるか」を起点に決める必要があります。原価の見える化は、それ自体が目的ではなく、判断に使い続けられて初めて意味を持つからです。

費目ごとに「実測・標準値・取らない」を仕分ける

私が受注ごとの原価設計を手伝うときは、費目をひとつずつ、次の3段階のどれに置くかを仕分けます。すべてを同じ精度で扱おうとしないのが最初のコツです。

費目

扱い方

理由

主要材料費

実測

受注ごとに使用量・単価とも変動が大きく、利益に直結する。伝票や仕入単価から積み上げる価値が高い費目です。

外注加工費

実測

請求書の単位で受注に紐づけやすく、証憑がすでに存在するため追加の入力負担が小さいのが特徴です。

直接加工の作業時間

標準値

工程ごとの標準時間(タイムスタディや実績平均)を単価化して掛けます。毎回打刻させると入力が崩れやすい費目の代表格です。

段取り替え時間

標準値

機種・ロットサイズごとに標準時間を持たせれば十分で、受注のたびに実測すると入力負荷のほうが数字の価値を上回ります。

設備の稼働費・償却

標準値

受注単位での実測はほぼ不可能に近く、時間あたりのチャージレートを設定して按分すれば十分な精度が出ます。

副資材・消耗品

取らない

受注ごとの差が小さく、間接費にまとめて含めても判断への影響がほとんどありません。

本社管理部門の人件費

取らない

受注との対応関係が薄く、無理に配賦すると恣意的な数字になりやすい費目です。全社の間接費率として扱えば十分です。

この仕分けに絶対の正解はありません。ただし共通する基準はあります。

  • 金額の変動幅が大きく、かつ証憑がすでにある費目は実測に。
  • 金額は動くが、証憑を取る手間が重い費目は標準値に。
  • 金額の変動が小さい費目は、思い切って取らないと決めます。

この3つに順番に答えていくと、たいていの費目は自然に3段階のどこかへ落ち着きます。

標準値の精度は「更新される前提」で決める

標準値で置くと決めた費目も、一度決めたら終わりではありません。工程の標準時間は、実際の受注データが積み上がるたびに実績と突き合わせ、乖離が大きくなってきたら更新します。中小製造業の生産管理を見ていると、標準値を作った時点で満足してしまい、何年も同じ数字を使い続けているケースが少なくありません。標準値は“いったん置く仮の値”であって、“決めたら不変の値”ではない、という前提を持っておくことが大切です。

いきなり全受注・全費目を変えなくていい

費目の仕分けができても、次につまずきやすいのが「全受注・全費目を一斉に切り替えよう」とすることです。今の運用を急に変えると現場が混乱し、旧い数字も新しい数字もどちらも信用できなくなってしまいます。

私がすすめているのは、まず利益への影響が大きい受注区分(たとえば新規の大口案件や、繰り返し発生するリピート受注)に絞って、新しい粒度をまず試すやり方です。数か月動かして精度と手間のバランスを確かめ、無理なく回る形が見えてから、他の受注区分にも広げていきます。焦らず範囲を絞ることが、結果的にいちばん早く定着する近道になります。

一段深く:その数字で何を判断するのか

私がコンサルとして原価の粒度を相談されたとき、最初に聞くのは「材料費は何%まで見るか」といった精度の話ではありません。「その原価の数字を、誰が、いつ、何を決めるために見るのか」です。粒度を決める前に、その数字で何を判断するのかを決めないと、細かくしても現場で使われないまま終わってしまう、というのが私の現場感覚です。

見積時の値引き判断に使うなら、受注前に出せる粒度で十分で、実測できない未来の作業時間は最初から標準値でよいはずです。逆に、どの受注が本当に儲かっているかを月次で見極めたいなら、実行後の実績値まで踏み込む価値があります。さらに、取引先との価格改定交渉に使うのであれば、相手が納得できる根拠として、材料費や外注費の実測値を示せることが効いてきます。目的が違えば、必要な粒度も変わります。ここを飛ばして「とにかく細かく」から入ると、使い道の無い数字ばかりが積み上がっていきます。

業務可視化とは、数字を増やすことではなく、判断に効く数字だけを残す作業だと私は捉えています。音の設計でも、すべての音を均等な解像度で拾うのではなく、聴かせたい音に解像度を寄せるのと同じ発想です。原価の粒度も、判断したい論点に解像度を寄せ、それ以外はあえて粗く扱う——その割り切りが、続く仕組みを作ります。

よくある質問

Q. 原価計算システムを導入すれば、粒度の悩みは解決しますか?

A. システムは記録や集計の手間を減らしてくれますが、どの費目を実測しどこを標準値にするかという設計は、導入前に人が決めておく必要があります。設計をしないままシステムだけ入れても、結局は入力されない項目が空欄のまま残ります。

Q. 標準値はどうやって決めればいいですか?

A. まずは直近数か月分の実績(作業時間や消費量)を平均し、仮の標準値として動かし始めるのが現実的です。その後、実績との乖離を定期的に確認し、大きくずれてきた費目から順に見直していく運用にすると、無理なく精度が上がっていきます。

まとめ

受注ごとの原価は、細かくするほど正確になりますが、入力が続かなければ数字自体が死んでしまいます。金額の変動が大きく証憑がある費目は実測、変動はあるが証憑を取る手間が重い費目は標準値、変動が小さい費目は取らない——この3段階で費目を仕分け、その数字で何を判断したいかを先に決めます。まずは自社の主要な費目を、この3つに仕分けるところから始めてみてください。

受注ごとの原価設計や管理会計の仕組みづくりについては、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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