BOM(部品表)はどう整えるのか|設計と製造で別々になる理由

「部品表を整理したはずなのに、また数字が合わない」。棚卸しをするたびに理由の分からない在庫差異が出て、見積を出すたびに実際原価とずれます。Excelの表を整えなおしても、しばらくするとまた同じことが起きる——ものづくりの現場で、この相談を受けることは少なくありません。
物流・生産管理の実務からこの種の相談を見てきた立場で言うと、BOM(部品表)が乱れる最大の理由は、表の作り方が雑だからではありません。設計が描く構成と、実際に作る順序で持つ構成が、そもそも別物だからです。この違いを認めないまま1つの表で済ませようとするところに、乱れの根があります。
BOM(部品表)とは何か:まず1分だけ
BOM(Bill of Materials)とは、製品を構成する部品・材料と、その数量をまとめた一覧です。図面をもとに「何が」「いくつ」要るかを表すもの、というだけであれば話はシンプルに見えます。ところが実務では、この一覧を誰が・何のために使うかによって、必要な形がまったく違ってきます。ここでつまずくと、あとの整理がすべてかみ合わなくなります。
BOMは1つではない:設計BOMと製造BOMの違い
混乱の出発点は、たいてい同じです。設計部門が図面から起こした部品表(設計BOM)と、生産管理・現場が作る順序で使う部品表(製造BOM)を、同じものだと思って扱ってしまいます。両者は目的が違うので、並び方も単位も別物です。
観点 | 設計BOM | 製造BOM |
|---|---|---|
構成の並び方 | 製品の機能・構造で階層化(サブアセンブリ単位) | 作る順番・工程順で並ぶ |
単位の粒度 | 図面・部品単位 | 工程・ロット単位(治具・仕掛品も含む) |
数量の意味 | 製品1台あたりの理論数量 | 歩留まり・ロスを見込んだ引当数量 |
使う部門 | 設計・技術 | 生産管理・現場 |
変更のきっかけ | 仕様変更・図面改訂 | 工程改善・治具変更・仕入先変更 |
この表を見ると、どちらか一方に統一すればいいと思われるかもしれません。でも、設計BOMを製造の順序に合わせて崩すと図面との対応が追えなくなり、製造BOMを設計の階層に合わせると現場が数えにくくなります。2つあることを認めたうえで、どこで対応を取るかを決めるのが、整理の第一歩です。
整える順番:対応・採番・改訂の3段階
私が現場でBOMを整理するときは、順番を守ります。いきなりシステムを入れ替えるのではなく、次の3段階で手を付けます。
- 1. 対応を決める:設計BOMの部品と製造BOMの工程・ロットを、どのキーで結びつけるかを先に決めます。多くの現場では、この対応関係そのものが誰の頭の中にもきちんと書かれていません。
- 2. 品目コードの採番ルールを揃える:対応が取れても、品目コードの付け方が部門ごとにバラバラだと、同じ部品が別のコードで二重登録されます。採番規則(体系・桁数・重複チェックの持ち方)を、設計と製造の両方が読める形で1つに揃えます。
- 3. 改訂履歴の持ち方を決める:設計変更と製造条件の変更は、起きるタイミングがずれます。どの版のBOMが今の現場で使われているかを、日付と理由つきで追える形にしておきます。これがないと、古い部品表のまま発注してしまう事故が起きます。
採番が揃っていないと、原価計算も工程別に追えなくなります。原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃないで書いた通り、原価の精度を上げる作業は、細かい計算式の前に、何をどう数えているかという土台の整理から始まります。
よくある失敗:2つのBOMを無理やり1つにする
整理の現場でよく見かける失敗が、設計BOMと製造BOMを無理やり1本の表にまとめてしまうことです。設計部門の階層構造に、製造の工程情報や治具・仕掛品の情報を書き足していくと、行数はどんどん膨らみ、誰も全体を追えなくなります。逆に、製造現場が使いやすい順序に合わせて設計BOMそのものを崩してしまうと、今度は設計変更のたびに図面との対応を人の手で探す羽目になります。どちらも、2つのBOMがあることを認めないまま1つに寄せようとした結果です。
もう一つよくあるのが、旧品番の使い回しです。廃番になった部品のコードを、形状の似た新しい部品に流用してしまいます。担当者の頭の中では「あの品番はもう別のものを指す」と分かっていても、表にはその経緯が残りません。数年後に別の担当者が同じコードを見たとき、どちらの部品を指しているのか判断できなくなり、発注ミスや在庫の二重持ちにつながります。採番ルールを揃えるときは、こうした過去のコードの再利用を許すかどうかまで、先に決めておく必要があります。
一段深く:乱れは在庫と見積に先に出る
BOMの乱れは、当のBOMの不具合として気づかれることはほとんどありません。最初に表面化するのは、棚卸しの差異や見積のずれという、一見無関係に見える症状です。担当者はそのたびに数え方や積算のやり方を見直しますが、直ったように見えてもしばらくするとまた同じ差異が出ます。見積と実際原価がずれるのはなぜかで書いた通り、この種のズレは在庫の数え方や工数の見積り精度を疑って調べても、たいてい直りません。
私の見立てでは、たどっていくと品目コードが重複している、というところに行き着くことが多くあります。同じ部品が違うコードで2つ登録されていれば、在庫は別々に積み上がり、見積はどちらか一方の数量しか拾えません。表面に出ている症状は在庫と見積なのに、根はもっと手前の採番にあります。ここを見誤ると、在庫管理システムを入れ替えても、見積の計算式を精緻にしても、症状は消えません。
疑わしい重複を見つける手掛かりは、意外と単純です。品目マスタを名称・仕様・仕入先で並べ替え、よく似た行が隣り合っていないかを見てみてください。同じ形状・同じ仕入先なのに単価だけ違う2行が見つかったら、まず疑うべきはそこです。
デザイン思考の言葉を借りれば、これは「何を数えているか」を机の上ではなく現場の動きから問い直す作業です。中小製造業の生産管理|Excelの限界はどこで来るのかでも触れた通り、Excelで部品表と工程を管理している会社は今も多くあります。表計算そのものが悪いわけではありません。問題は、対応・採番・改訂という3つの決め事を誰も明文化しないまま、表だけが増えていくことにあります。
よくある質問
Q. 設計BOMと製造BOMは、どちらか一方だけで十分ではないのですか。
A. 難しいです。設計BOMだけでは工程順序や歩留まりが表せず、製造BOMだけでは図面との対応が追えなくなります。両方を持ったうえで、対応関係を管理する形が現実的な落としどころです。
Q. 品目コードの見直しは、どこから手を付ければいいですか。
A. まず、在庫差異が出ている品目を数点選び、同じ部品に複数のコードが付いていないかを洗ってみてください。1件でも重複が見つかれば、採番ルールの見直しが優先課題だと分かります。
まとめ
BOMが乱れる最大の理由は、設計BOMと製造BOMという性格の違う2つの表を、1つで済ませようとすることにあります。まずは2つあることを認め、対応・採番・改訂の順で整えていきます。全部を一度に作り直す必要はありません。まず、在庫差異が出ている品目のコードを1つ確認するところから始めてみてください。
部品表や原価の整理でお困りの際は、お問い合わせからご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。