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固定費と変動費はどこで線を引くのか|きれいに分かれない費用の扱い方

固定費と変動費はどこで線を引くのか|きれいに分かれない費用の扱い方

「この費用は固定費ですか、変動費ですか」——原価計算の会議で、こう聞かれて答えに詰まったことはないでしょうか。パートさんの人件費は、生産量に応じて増やしている以上は変動費のように見えます。ですが、いったん雇ってしまえばシフトをすぐには減らせず、固定費のようにも見えます。倉庫の賃料も、外注先の受け入れ枠も、似たように宙ぶらりんな費用が机の上に何個も残ります。

物流・生産管理の現場でこの手の費用と何年も向き合ってきた立場から言うと、固定費と変動費をきれいに二分しようとすること自体が、実務では無理な注文です。大事なのは正しい線を1本引くことではなく、何を判断したいかに応じて線の引き方を変えることです。その考え方の道具立てを、2つの軸で順番に見ていきます。

固定費と変動費の基本を1分で

固定費とは、生産量や売上が増減しても一定額かかる費用(地代家賃・正社員の基本給等)、変動費とは生産量に比例して増減する費用(材料費・出来高払いの外注加工費等)を指します。定義そのものは単純です。問題は、現実の費用の多くがこの2つのどちらにもきれいに収まらない、という一点にあります。

教科書には出てこない“3つ目の費用”

判断に迷う費用の大半は、実は「階段状の費用」です。生産量がある水準を超えるまでは動かず、超えた瞬間に一段だけ上がる費用のことです。パートさんの人件費も、外注先の受け入れ枠も、倉庫のスペースも、この形をしています。会計の教科書では準変動費と呼ばれることもありますが、名前より大事なのは動き方です。生産量を横軸、費用を縦軸に取ると、固定費は水平線、変動費は右肩上がりの直線、階段状の費用は文字どおり階段の形を描きます。

3つを並べると、判断での扱い方の違いがはっきりします。

分類

具体例

どの変動幅で増えるか

判断での扱い方

固定費

正社員の基本給、地代家賃、リース料

生産量が2倍になっても、当面は増えない

短期の受注判断では動かない前提でよい

変動費

材料費、出来高払いの外注加工費

生産量が1割増えれば、ほぼ1割増える

1個あたりの限界利益の計算にそのまま使える

階段状の費用

パート・シフト人員、外注の受け入れ枠、倉庫スペース

ある水準までは増えず、超えた瞬間に一段上がる

まず「次の段差がどこにあるか」を把握してから判断する

厄介なのは、多くの会社の予算資料でこの階段状の費用が固定費の欄にひとまとめに計上されていることです。段差を超えるまでは実績と予算がぴったり合うので、担当者は「読みが当たっている」と安心します。ところが段差を超えた月だけ、費用が予算を大きく上回ります。原因を探ると、費用の性質自体は最初から変わっておらず、ただ段差に差しかかっただけだった、ということがよくあります。

変動費の計算に使うのは、いま挙げた1割・2割といった小さな変動幅の話です。この考え方を突き詰めた指標が限界利益で、粗利とは別物として扱う必要があります。両者の違いは限界利益と粗利は何が違うのかで詳しく書きました。階段状の費用を変動費の式にそのまま混ぜると、限界利益の数字はかえって歪みます。

線引きの正解は1つではない

階段状の費用をどちらに寄せて考えるかは、「何を判断するか」と「どのくらいの変動幅を想定するか」の2つで変わります。来月の受注を1件受けるかどうかを判断するなら、パートさんのシフトも倉庫のスペースも、次の段差を超えない範囲では固定費として扱ってかまいません。一方で、半年後に生産量を2倍にする計画を検討しているなら、話は変わります。その規模の変動幅では、ほぼ確実にどこかの段差を越えます。同じ費用でも、判断の対象と期間によって、固定費寄りに見るか変動費寄りに見るかが変わってよい、というのが実務での扱い方です。

たとえば人件費ひとつを取っても、今月の残業をどこまで許容するかという判断では、変動費に近い扱いで十分です。残業は増減させやすく、来月にはすぐ戻せるからです。一方で、恒常的な増員に踏み切るかどうかという判断では、同じ人件費が一気に固定費側の重みを持ちます。いったん雇えば、簡単には減らせないからです。判断の時間軸が変わるだけで、同じ費用の性格が変わって見える、という好例です。

厄介なのは、この段差の位置が資料のどこにも書かれていないことです。会計ソフトの費用区分は決算のための便宜的な分類で、パートさんを何人まで増やせば追加募集が要るか、倉庫を何立米まで詰めれば増床が要るかは、現場の担当者の頭の中にしかありません。管理部門の負担配分のような、そもそも数字として拾いにくい間接費も、同じように見えにくいところに潜んでいます。この“見えない原価”の扱いは、改めて別の記事で取り上げます。まずは、生産量とともにどこかで一段上がる費用があるという前提を持つことが、線引きの出発点になります。

以前原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃないでも書きましたが、原価管理の目的は精密さではなく、判断に使えることです。固定費・変動費の線引きも同じで、教科書どおりの厳密な区分を追うより、自社にとっての段差がどこにあるかを先に押さえるほうが、実務では効きます。

一段深く:段差の位置を先に知っておく

デザイン思考の基本は、今ある区分を疑い、目的に立ち返って設計しなおすことです。固定費・変動費という区分も、本来は「どの費用が生産量とともに動くか」を見るための道具にすぎません。区分そのものを目的にすると、階段状の費用は行き場を失います。

現場で見てきた実感では、倉庫費用や配送費はこの階段構造がとりわけ強く出る費用です。ある量までは、今契約している倉庫スペースと配送ルートの中でまかなえます。ですが、そこを超えた途端に、倉庫の追加契約や配送便の増便が必要になり、単価はなだらかにではなく一段上がります。増産の議論では「1個あたりのコストは今と同じはず」という前提で話が進みがちですが、段差の位置を知らないままその前提に乗ると、想定していなかった水準で原価が急に跳ねる、という構造になりやすいところです。

段差がどこにあるかは契約形態や取引先によって変わるので、一般化した数値は書けません。ただ「この費用はどこかに段差があるはずだ」と疑ってかかる姿勢そのものが、階段状の費用を扱う最初の一歩になります。

よくある質問

Q. 費用の分類は、判断のたびに毎回作り直す必要がありますか?

A. いいえ、毎回作り直す必要はありません。分類が意味を持つのは「何を判断するか」に対してなので、短期の受注判断と半年先の増産計画のように、判断の対象や想定する変動幅が変わったときだけ、階段状の費用の扱いを見直せば十分です。

Q. 会計ソフトが自動で出す固定費・変動費の区分は使えませんか?

A. 決算のための集計としては有効ですが、日々の判断にそのまま使えるとは限りません。会計ソフトの区分は多くの場合、費用の性質ではなく勘定科目で機械的に振り分けられており、階段状の費用がどちらか一方に寄せられて見えなくなっていることがあります。判断に使う前に、パート人件費や外注費のような費用を一度取り出して確認することをおすすめします。

まとめ

固定費と変動費は、教科書のようにきれいに二分できるものではありません。パート人員や外注枠、倉庫スペースのように、ある水準までは動かず、超えた瞬間に一段上がる“階段状の費用”が実務には数多くあります。すべてを厳密に分類しようとしなくてかまいません。まずは、自社の費用の中に段差がある費用がどれかを洗い出し、「次の段差はどこにあるか」を確認するところから始めてみてください。

固定費・変動費の線引きや原価管理の仕組みづくりについては、経営コンサルティングお問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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