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損益分岐点はどう出して、何に使うのか|4ステップと使いどころ

損益分岐点はどう出して、何に使うのか|4ステップと使いどころ

経営会議で損益分岐点の資料が配られ、みんなで「なるほど」とうなずいて終わります。でも会議が終わった翌週、値引きの相談や採用の相談が来ると、また経験と勘で判断してしまう——という会社を、私はいくつも見てきました。損益分岐点は、出すこと自体は割り算で終わるのに、使いどころまで腑に落ちている会社は意外と少ないというのが、そもそもの出発点です。

物流・製造の現場でSCM構築や原価管理の設計に携わってきた立場から言うと、損益分岐点は“計算する作業”ではなく“判断の基準線を引く作業”です。出し方を4ステップで押さえたうえで、その基準線を実際にどこで使うのかを一緒に整理していきます。

損益分岐点とは:まず1分で押さえる

損益分岐点とは、売上高と費用がちょうど釣り合い、利益がゼロになる売上高(または販売数量)のことです。費用を「売上に関わらずかかる固定費」と「売れた分だけ増える変動費」に分け、固定費を回収しきる売上のラインを出します。基本の考え方はこれだけです。ここさえ押さえれば、あとは仕組みの話に入れます。

損益分岐点の出し方:4つのステップ

出し方自体は難しくありません。多くの会社が迷うのは計算式ではなく、その手前の「分け方」です。順番に押さえていきます。

  1. 1. 費用を固定費と変動費に仕分ける:家賃や人件費、保険料のように売上に関わらず出ていく固定費と、原材料費や外注費のように売れた分だけ増える変動費に、勘定科目を1つずつ振り分けます。原価管理は何から手を付けるかでも触れましたが、実務でいちばんつまずくのがこの工程です。水道光熱費や一部の人件費のように性質が混ざる費目は、厳密に一つに決めず、おおよその比率で按分してかまいません。
  2. 2. 限界利益率を出す:売上高から変動費を引いた残り=限界利益を、売上高で割ると限界利益率が出ます。限界利益と粗利は何が違うのかで扱ったとおり、ここでいう限界利益は原価計算上の粗利とは別の概念なので、混ぜて計算すると数字がずれます。
  3. 3. 損益分岐点売上高を計算する:固定費 ÷ 限界利益率、これだけです。たとえば月間の固定費が300万円、限界利益率が40%なら、損益分岐点売上高は300万円 ÷ 0.4=750万円になります。1で仕分けた固定費と、2で出した限界利益率を間違えなければ、この割り算自体は数分で終わります。
  4. 4. 今の売上との差を確認する:実際の売上高が損益分岐点をどれだけ上回っているか(安全余裕率)を見ます。ここまで来て初めて、出した数字が使える数字に変わります。

出した数字の使いどころは3つ

損益分岐点を出したあと、多くの会社はここで止まります。数字は正しいのに、判断には使われないまま資料に埋もれてしまいます。私が現場で意識しているのは、次の3つの場面です。

①値下げに応じられる下限を測る:値引きの相談が来たとき、どこまでなら受けていいかの下限は損益分岐点の考え方の延長線上にあります。値引き後の単価でも限界利益がプラスである限り、固定費の回収には貢献できます。逆に限界利益がゼロを割る値引きは、売れば売るほど固定費の回収から遠ざかるので、感覚ではなくこの線で判断します。粗利ベースで「まだ利益が出ているから大丈夫」と判断してしまう会社が多いのですが、粗利と限界利益は計算に含める費用が違うため、粗利が黒字でも限界利益が赤字の値引き、というケースは実際に起こります。

②設備投資が回収できる販売量を見積もる:設備投資は多くの場合、減価償却費という形で固定費を押し上げます。先ほどの例で言えば、固定費が300万円から340万円に増えれば、損益分岐点売上高は750万円から850万円に上がります。システム投資はいくらまで出していいのかでも触れましたが、投資額そのものより「投資後に損益分岐点がどこまで上がり、その線を越える販売量を現実的に見込めるか」のほうが、判断の核心に近いところにあります。投資の是非を稟議書の投資対効果だけで判断せず、損益分岐点がどれだけ動くかを併せて確認すると、判断の解像度が一段上がります。

③固定費を増やす採用の可否を判断する:人を1人採用するというのは、人件費という固定費を積み増す意思決定です。その人が生む付加価値を見る前に、まず損益分岐点をどれだけ押し上げるかを確認します。「優秀そうだから」「今の人手が足りないから」だけで採用を決めると、固定費が先に増え、それを吸収するだけの売上が後からついてこない、という順番になりがちです。採用の是非を人物評価だけで決めていないか、一度立ち止まる材料になります。

一段深く:数字が現場を動かさない理由

コンサルの現場でよく見る光景があります。損益分岐点の資料が経営会議で共有され、全員が「なるほど」とうなずきます。でも翌週、現場の判断は何も変わっていません。原因は計算の精度ではなく、数字の“単位”にあると私は見ています。

多くの会社の損益分岐点は“全社1本”で出ています。全社の固定費、全社の限界利益率、全社の売上。数字自体は正しいのですが、現場の誰にとっても自分が動かせる変数につながっていません。値引きの相談を受ける営業も、稼働率を見るラインの責任者も、自分の持ち場の数字を持っていないので、結局は勘に戻ってしまいます。全社の損益分岐点が「今期は達成しています」と報告されている裏で、実は主力ラインが赤字で、別のラインの黒字がそれを覆い隠している、というのも珍しい話ではありません。

だから私は損益分岐点を出すとき、全社1本で終わらせず、ラインや製品群の単位まで割ることを勧めています。全社の固定費を配賦し、製品群ごとの限界利益率を出し直します。手間は増えますが、「この製品群の損益分岐点」という単位まで落ちて初めて、現場が自分の判断材料として扱えるようになります。問い直すべきは計算式ではなく、数字がどの単位で設計されているか、そこだと思っています。

よくある質問

Q. 固定費と変動費の分け方に迷う費目はどうすればいいですか?

A. 水道光熱費や一部の人件費のように性質が混ざる費目は、厳密に一つに決めなくてもかまいません。おおよその比率で固定費と変動費に按分し、事業年度が変わるタイミングなどで見直せば実務には十分耐えます。厳密さより、まず出してみることを優先してください。

Q. 損益分岐点は一度出したら使い回していいですか?

A. 固定費や仕入価格が変わるたびに古くなります。特に設備投資や採用で固定費が動いたタイミング、原材料費の高騰で変動費率が変わったタイミングでは、そのつど出し直すのが安全です。年に一度だけ確認するものではなく、値下げや投資の意思決定の前に都度確認する数字だと考えてください。

まとめ

損益分岐点は、出すこと自体は4つのステップの割り算で終わります。難しいのは固定費と変動費の切り分けと、出した数字をどこで使うかの2点です。値下げの下限、設備投資の回収量、採用の可否——この3つの場面で使ってみることから、まず始めてみてください。

損益分岐点の算出や管理会計の設計については、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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