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見えない原価(間接費)はどう扱えばいいのか|配賦する前に決めること

見えない原価(間接費)はどう扱えばいいのか|配賦する前に決めること

月末に決算書と原価計算表を並べて、「この製品、本当に儲かっているのか」が分からなくなる——そんな経験はありませんか。材料費や外注費は伝票をたどればどの製品にいくらかかったかすぐに数えられます。でも電気代や工場の家賃、経理や品質管理といった間接部門の人件費になると、とたんに「どの製品の分か」が分からなくなり、配賦計算のセルをいじる手が止まります。

モノづくりや物流の現場を見てきた側から言うと、この止まり方には理由があります。多くの会社は「配賦の計算式」から考え始めますが、本当に先に決めるべきは計算式ではなく、“この数字を何に使うか”のほうです。

1分の地図:直接費・間接費・配賦

まず言葉だけ短く整理します。材料費や外注費のように、どの製品にいくらかかったかがそのまま分かる原価を直接費といいます。電気代・工場の家賃・間接部門の人件費のように、複数の製品にまたがっていて内訳が直接には分からない原価が間接費です。この間接費を何らかの基準で製品や部門に割り振る作業を配賦と呼びます。原価管理を全体としてどこから手をつけるかは原価管理は何から手を付けるかで書きましたが、多くの会社が最初につまずくのが、まさにこの間接費の扱い方です。

配る前に決めること:この数字は何のために使うのか

配賦でつまずく会社に共通しているのは、計算式の精度ではなく順番です。「間接費をどう配ろうか」から考え始めると、複雑な基準をがんばって作った挙句、現場が運用しきれずに形骸化します。私が最初に必ず聞くのは、「この原価の数字を、何を判断するために使いますか」という一問です。判断の中身が変われば、配るべきかどうかも、配るなら何を基準にするかも変わります。

判断したいこと

間接費を配るべきか

その理由

見積もり・価格改定(いくらで売るか)

配る

間接費を含めた全部原価で見ないと、固定費を回収できない値決めをしてしまいます。値引き交渉の場面で「まだ下げられる」と錯覚する原因にもなります。

受注や製品の継続・撤退の判断

基本は配らない

間接部門の人件費や家賃は、その製品をやめても大半が残ります。配賦後の数字だけを見て撤退すると、固定費だけが残り、かえって会社全体の利益が減ることがあります。

工程改善・ボトルネックの特定

配らない(物量で見る)

金額で配った数字には改善の手触りがありません。作業時間や段取り時間など、現場が動かせる単位で見たほうが、どこを削れば効くかが分かります。

決算のための製造原価計算

配る(会計基準に従う)

これは経営判断ではなく制度上の要請です。社内の意思決定のための数字とは目的が違うので、別物として切り離して考えます。

配ると決めた場合も、基準選びで悩みは終わりません。直接作業時間で配るのか、機械の稼働時間で配るのか、床面積で配るのか。ここで基準を欲張って細かくしすぎると、今度は“受注ごとにどこまで細かく原価を出すか”という別の壁にぶつかります。この線引きは受注ごとの原価はどこまで細かく出すべきかで扱っていますが、要点だけ言うと、判断に効かない桁まで細かくしても、入力の手間が増えるだけで数字の信頼度は上がりません。基準は「その判断を動かせる粗さ」で十分です。

基準の選び方には、大まかな型があります。人手が主役の工程なら作業時間、設備が主役の工程なら機械の稼働時間、複数部門で共有する事務所や倉庫の面積なら床面積、といった具合です。工程の主役が何かを見れば、基準の候補は自然と2〜3個に絞れます。ここで無理にひとつの万能基準を探そうとしないことが、運用を続けるコツです。

配らないという選択:直接原価計算という見方

配賦という言葉を聞くと、間接費は必ず製品に割り振らなければいけない、と思いがちです。でも会計にはもう一つの見方があります。直接原価計算です。材料費や外注費など製品ごとに直接ひもづく原価だけで利益を見て、間接費は“期間の固定費”としてまとめて差し引く考え方です。

先ほどの表の「受注の継続・撤退」の判断が、まさにこれに当たります。配賦した後の数字で見ると赤字に見える受注でも、限界利益(売上から直接費だけを引いた残り)がプラスであれば、その受注を続けたほうが会社全体の利益は増えることが少なくありません。間接費を配らないことは、逃げでも手抜きでもなく、判断の目的に合わせた正しい選択のひとつです。

私がよく見る場面はこうです。少量多品種の受注のうち、ある一つの品目だけ配賦後の原価が売価を上回り、「赤字だから断ろう」という話になります。ところがその品目をやめても、工場の家賃も、経理の人件費も、ほとんど減りません。むしろ売上だけが減った分、他の品目に配る間接費の割合が増え、翌月は別の品目が新たに「赤字」に見えてきます。

配賦後の数字だけを追いかけると、こうして赤字の品目が次々と入れ替わっていく状態に陥りがちです。撤退の判断は、配賦後の数字ではなく限界利益で見る——これだけで、この堂々巡りは止まります。

一段深く:数字は集計でなく入力の現場で壊れる

製造業や物流業のDX支援を重ねてきて、私が繰り返し見てきた構図があります。原価の仕組みが壊れるのは、計算式が高度すぎるときではありません。現場が入力しきれない粒度を、仕組みを作る側が先に決めてしまったときです。

機械ごとの電力メーターが一つも無いのに、機械別に電気代を配ろうとしたり、現場の作業日報を分単位で書かせようとしたりする例です。基準そのものは理論的には正しくても、毎日それを入力する人がその粒度を守り続けられなければ、数字はすぐに形だけのものになります。粗く埋められた入力は、どんなに精緻な計算式を通しても、精緻な原価には戻りません。

数字は、集計の計算式よりも、入力の現場で壊れます。この感覚は原価の見える化は“細かく計算する”ことじゃないでも書きましたが、間接費の配賦でも同じことが起きます。精緻な基準を組む前に、まず「その粒度を、毎月・毎日、誰が入力し続けられるか」を確かめます。ここが持ちこたえて初めて、計算式を検討する意味が出てきます。

よくある質問

Q. 間接費を配らないと、決算書上は問題になりませんか。

A. 決算のための製造原価計算では、一般に間接費を含めた計算が求められます。ここで言う「配らない」は、あくまで社内の値決めや継続・撤退といった経営判断のための見方の話で、決算上の計算とは目的が違います。両方を同じ一つの数字でやろうとすると、かえってどちらにも使いにくい数字になります。

Q. 配賦基準は一度決めたら変えないほうがいいですか。

A. いいえ。事業の中身が変わったのに基準だけ据え置くほうが危険です。たとえば人手中心だった工程が設備中心に変わったのに、いまだに作業時間で配っていると、実態とずれた原価が出ます。判断の目的が変わったとき、または現場の作り方が変わったときは、基準も一緒に見直します。

まとめ

見えない原価をどう扱うかは、配賦の計算式から考える問題ではありません。まず「この数字を何のために使うか」を決め、それに応じて配るか配らないかを選びます。値決めには全部原価、継続・撤退の判断には限界利益、工程改善には物量——使う場面によって、正しい間接費の扱い方は変わります。

全部を精緻に配ろうとしなくて大丈夫です。まずは、いま悩んでいる判断が何なのかを一つ書き出してみてください。原価の仕組みづくりでお困りの際は、お問い合わせからご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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