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配賦基準は何で決めればいいのか|作業時間・機械時間・売上高の使い分け

配賦基準は何で決めればいいのか|作業時間・機械時間・売上高の使い分け

間接費の配賦基準を聞くと、多くの会社で同じ答えが返ってきます。「売上高で按分しています」。理由をさらに聞くと、たいてい「昔からそうしているので」「計算が一番ラクだから」。その気持ちは、よく分かります。でも、それでは製造間接費が実際に何によって増えているかを、原価にまったく映せていないかもしれません。

物流センターや工場の現場を見てきた立場から言うと、配賦基準の選び方を間違えると、原価の高い製品と安い製品の順位が実態と逆転することがあります。基準は会計処理の都合ではなく、その費用が何によって動くかから選ぶべきだと私は考えています。

配賦基準とは何か|まず1分だけ

製造間接費とは、特定の製品や受注に直接ひもづけられない費用のことです。監督者の人件費、設備の減価償却費、電力費、工場家賃などが代表例です。配賦基準は、この間接費を各製品・各受注にどう割り振るかを決める“ものさし”を指します。同じ間接費の総額でも、基準を何にするかによって、製品ごとの原価はまったく違う数字になります。間接費そのものをどう捉えるかという入口の論点は別にありますが、以下では基準の選び方だけを掘り下げていきます。

主な配賦基準を並べて比較する

現場でよく使われる基準を3つ挙げ、それぞれが合う費目・合わない費目・運用の手間を並べてみます。

基準

合う費目

合わない費目

運用の手間

作業時間(工数)

段取り替えの多いラインの監督費、検査要員の人件費など、人が動くほど増える費用

大型設備の減価償却費、電力費など機械が主に消費する費用

工程ごとの実績時間を毎月拾う必要がある。工数管理システムがあれば軽いが、手書き日報の集計だと重い

機械時間(稼働時間)

設備の減価償却費、電力費、保全費など設備が回るほど増える費用

検査や段取りなど、人の手間が主になる費用

稼働ログが取れる設備なら軽い。ログがない設備は目視記録に頼ることになり、精度が落ちやすい

売上高(受注金額)

どの基準にも明確に紐づかない共通費(全社共通の減価償却費など)を、最後の受け皿として按分する場合

ほとんどの製造間接費(発生要因と受注金額の大小は無関係なことが多い)

最も軽い。受注ごとの金額は会計データに既にあり、新たな集計が要らない

この並びを見ると、売上高按分がよく選ばれる理由がはっきりします。正確だからではなく、集計の手間がかからないからです。監督者の人件費まで売上高で配ると、受注金額の大きい仕事ほど人件費を多く負担する計算になりますが、監督者が実際にその仕事にどれだけ手をかけたかとは無関係です。

たとえば、加工に人手のかかる小ロット品と、大型設備で連続生産する量産品が同じ工場にあるとします。間接費を売上高で配ると、受注金額の大きい量産品のほうが間接費を多く負担する計算になりがちです。ところが監督者が実際に時間をかけているのは、段取り替えの多い小ロット品のほうかもしれません。基準を作業時間に切り替えるだけで、どちらの製品が本当に割高かという順位が入れ替わることは珍しくないのです。

費目ごとに基準を変えてよい

ここで大事なのは、全社で基準を1つに統一する必要はないという点です。監督者の人件費は作業時間、設備の減価償却費は機械時間、どちらにも寄らない共通費だけ売上高——というように、費目ごとに基準を変えて構いません。むしろ、無理に1つへそろえようとするほど、実態から遠い数字が積み上がっていきます。

基準を選ぶ順番は、費目の名前ではなく「その間接費は何によって増減するか」を先に見ることです。人が動くほど増える費用か、設備が回るほど増える費用か、それとも受注の規模とはほぼ無関係な固定的な費用か。この見立てさえ立てば、表のどの基準を当てるかは自然に決まります。

たとえば電力費なら、機械の稼働時間に比例して増えるのか、それとも工場全体の照明・空調のように受注量とはあまり関係なく一定でかかるのかを、まず切り分けてみてください。前者なら機械時間、後者は無理に細かく追わず売上高のような一律基準に寄せたほうが、かえって実態に近い数字になります。原価管理そのものをどこから始めるべきか迷う段階であれば、以前原価管理は何から手を付けるかで扱った順番も参考になります。

一段深く|基準は「取れるデータ」から選ぶ

生産管理や物流の現場を見てきた実感として、基準を細かくするほど正確になるように見えて、実際には「その基準の値を毎月どこから取るか」で運用が止まることが多いです。作業時間や機械時間を配賦基準にするなら、工程ごとの実績時間を毎月、誰かが集計しなければなりません。工数管理システムが既にあれば数字はほぼ自動で出ますが、日報を手で拾っている現場では、配賦計算のためだけに新しい集計作業が増えてしまいます。機械時間も同じで、稼働ログを吐く設備なら軽く済みますが、古い設備が混ざっていると、結局は人が現場を回って稼働時間を数えることになりかねません。

私はここで、基準の理論的な正しさよりも先に、いま手元にあるデータは何かを見るべきだと考えています。目的(原価の発生実態を映すこと)から基準を選び直しても、それを支えるだけのデータの取り方が現場になければ、机上の空論で終わります。逆に言えば、既に月次で拾えている数字(作業日報、設備稼働ログ、受注金額)の中から、いちばん発生実態に近いものを選ぶという順序で考えると、基準選びは一気に現実的になります。

これは配賦基準に限った話ではありません。生産管理や物流の現場で工程改善の指標を決めるときにも、同じことが起きます。指標そのものは正しくても、毎月それを拾う手間が現場の負担を超えると、更新がいつの間にか止まり、古い数字のまま使われ続けます。受注ごとの原価をどこまで細かく出すかという粒度の話でも、この「取れるデータの範囲」が実は先に効いてきます。詳しくは受注ごとの原価はどこまで細かく出すべきかで扱いました。

よくある質問

Q. 配賦基準は一度決めたら変えてはいけませんか?

A. 変えても構いません。ただし期の途中で変えると、前年同期との原価比較が崩れてしまいます。決算期の変わり目や原価計算方法を見直すタイミングでまとめて切り替え、切り替えた期とその前後は基準が違うことを社内で共有しておくのが現実的です。

Q. 基準を細かく分けるほど原価は正確になりますか?

A. 理論上は近づきますが、運用が続かなければ意味がありません。まずは金額の大きい間接費を2〜3費目選び、それぞれの発生要因に近い基準を当てるところから始めるほうが、結果として長く続きます。

まとめ|まず、金額の大きい間接費から

配賦基準は、全社で1つに統一しなくていいのです。人が動くほど増える費用は作業時間、設備が回るほど増える費用は機械時間というように、費目ごとに合う基準を選べば十分です。売上高で按分するやり方は、配りやすいという理由だけで選ばれていることが少なくありません。それ自体が悪いわけではなく、共通費の最後の受け皿としては合理的です。問題は、性質の違う費目まで一括りにして同じ基準を当ててしまうことです。

まずは金額の大きい間接費を2〜3つ選び、それぞれが何によって増減しているかを見るところから始めてみてください。あわせて、その基準の値を毎月どこから取れるか——このデータの出どころも、選ぶ前に一度確かめておくことをおすすめします。ご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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