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黒字なのに資金が足りなくなるのはなぜか|利益とキャッシュがずれる4つの入口

黒字なのに資金が足りなくなるのはなぜか|利益とキャッシュがずれる4つの入口

決算は黒字。損益計算書の一番下にはきちんと利益が並んでいます。それなのに、月末の支払を前にすると通帳が心もとない——中小企業の支援に入ると、この相談を本当によく受けます。経理の締め方を疑い、担当者を問い詰めてしまう経営者も見てきました。

結論から言うと、これは誰かの間違いではありません。利益とキャッシュは、そもそも数え方の違う別々の物差しだからです。

まず1分だけ:数え方がどう違うのか

利益は、その期間に「稼いだ」と考える金額から「使った」と考える金額を引いた数字です。売上は、商品を引き渡した時点で計上します。入金があったかどうかは、この計算には出てきません。

一方でキャッシュは、実際に口座を出入りしたお金だけを数えます。入金されていない売上は、まだ一円も増えていません。ここに時間差と対象の違いが生まれます。両者は対立しているのではなく、測っているものが違うだけです。

ですから「黒字なのにお金が足りない」は、異常事態を示す言葉ではありません。どちらの物差しでも正しい数字が出たうえで、両者がずれているという状態です。では、そのずれはどこから入ってくるのか。入口はおおむね四つに整理できます。

利益とキャッシュがずれる4つの入口

入口

なぜ利益には出ないのか

キャッシュにはどう出るか

最初に見る数字

売掛金の回収サイト

売上は引き渡した時点で計上され、入金を待たない

売上が立った月には現金が増えず、入金月まで空く

売掛金の残高と、請求から入金までの平均日数

在庫として寝ている仕入

仕入れた分は売れるまで費用にならず、資産として残る

支払は仕入の条件どおり先に来る

在庫金額と、在庫が動くまでの滞留日数

設備投資などの資産計上

支出した年に全額が費用にはならず、減価償却として期間に分けて費用になる

購入時に現金がまとめて出ていく

当期の投資額と、当期の減価償却費の差

借入金の元本返済

元本の返済は費用にならない(費用になるのは利息の部分)

毎月きまった額の現金が出ていく

年間の約定返済額と、返済予定表

四つを見比べると、方向が二種類あることに気づきます。上の二つは「利益は出たのに現金がまだ来ていない」型。下の二つは「現金は出たのに費用になっていない」型です。減価償却はこの裏返しで、費用にはなるのに現金は出ていきません。だからこそ、利益に減価償却費を足し戻すという調整が資金の話では出てきます。

どの入口が効いているかを特定します

ここからが実務です。四つのうちどれが自社で効いているかは、会社によってまったく違います。にもかかわらず、資金が苦しいと分かった途端に「もっと売ろう」という結論に飛んでしまう会社が少なくありません。売掛金と在庫が原因である場合、売上を伸ばす打ち手は状況を悪化させます。

特定の仕方は素朴で十分です。直近12か月について、売掛金残高・在庫金額・設備投資額・元本返済額の四つを月ごとに並べます。増えている項目があれば、そこが資金の出ていった先です。利益が出ているのに現金が増えていない期間と、どの項目が膨らんだ期間が重なるかを見ます。

ここで効いてくるのが、平時からの予実の見方です。資金の話は、苦しくなってから調べ始めると打ち手の時間が残りません。月次で並べて差を追う習慣があれば、膨らみ始めた時点で気づけます。数字を報告で終わらせず判断に戻す考え方は、予実管理は“差を報告する”ことじゃないで整理したとおりです。

在庫が原因だった場合の打ち手には、注意点があります。在庫を一律に減らせば資金は戻りますが、欠品や段取り増で別の損失が出ることがあります。減らす対象を選ぶ必要があるので、在庫は“減らせばいい”わけじゃないの考え方と合わせて判断してください。

一段深く:成長している会社ほど、ずれは大きくなります

ここが、私が現場でいちばん伝えたい部分です。売上が伸びている会社を思い浮かべてください。受注が増えれば、材料や仕入の支払が先に増えます。作った分を持っておくために在庫も増えます。そして売れた分は売掛金になり、入金は数十日先です。

つまり成長そのものが資金を先に食う構造になっています。売上が倍になれば、売掛金と在庫に置いておかなければならない資金もおおむね比例して増えます。利益は増えているのに、手元の現金は前より薄くなります。この状態は、経営が傾いている証拠ではなく、伸びている会社に起きやすい現象です。

だから資金繰りの悪化を、そのまま業績不振のサインとして読まないでください。まず切り分けるのは、利益が減っているのか、それとも利益は出ていて資金の置き場所が増えているのか、という点です。前者なら収益構造の問題で、限界利益と粗利は何が違うのかの側から製品や取引の採算を見直す話になります。後者であれば、必要なのは稼ぐ力ではなく、成長に見合う運転資金の手当てです。

この切り分けを飛ばすと、打ち手が正反対になります。伸びているのに資金が薄い会社が値下げで売上を追えば、資金はさらに先へ出ていきます。順調に伸びている最中に資金で行き詰まる会社を、私は実際に見てきました。悪いのは成長ではなく、成長に資金の準備が追いついていないことです。

よくある質問

Q. 資金の動きは、どの資料を見れば分かりますか。

A. 上場企業であればキャッシュ・フロー計算書がありますが、作成していない中小企業も多いと思います。その場合でも、月ごとの預金残高の推移に、売掛金残高・在庫金額・借入の返済額を並べるだけで、ずれの入口の見当はつきます。まずは手元の試算表と通帳から始めてかまいません。詳しい作成や会計上の取り扱いについては、顧問の税理士や公認会計士に相談してください。

Q. 回収サイトを短くしてほしいと取引先に言ってもよいものですか。

A. 交渉の余地はあります。ただし条件の見直しは相手にとっても資金繰りの話なので、一方的に求めると関係が痛みます。新規の取引から自社の標準条件を適用する、支払条件と回収条件をセットで見直す、といった進め方のほうが現実的です。既存の大口をいきなり動かすより、新しい取引の条件から整えるほうが摩擦は小さく済みます。

Q. 利益とキャッシュ、経営者はどちらを見るべきですか。

A. 両方です。利益は事業が価値を生んでいるかを示し、キャッシュは会社が続けられるかを示します。利益が出ていない事業は長く続きませんが、利益が出ていても現金が尽きれば、その時点で止まります。同じ画面に並べて、ずれの大きさそのものを毎月見る形をおすすめします。

まとめ

黒字なのに資金が足りない、という状態。これは、経理の間違いでも気のせいでもなく、利益とキャッシュという別々の物差しがずれているだけです。ずれの入口は、売掛金の回収サイト・在庫・資産計上される投資・借入の元本返済の四つです。自社でどれが効いているかを先に特定すれば、打ち手は自然に絞れます。

まずは直近12か月の、売掛金残高・在庫金額・設備投資額・元本返済額を月ごとに並べてみてください。資金の出ていった先の特定や、成長に見合う運転資金の考え方を整理したい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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