KGIとKPIはどう使い分けるのか|現場が動く指標の条件

毎月の経営会議で、ダッシュボードに並ぶ指標の数が、四半期ごとに増えていきます。そんな会社を何社も見てきました。たとえば今期は12個、来期は15個、というように。会議室では立派なグラフが映し出されるのに、終わって現場に戻ると、誰も「今日から何をどう変えるか」を答えられません。指標は増えているのに、現場の行動は少しも増えていないのです。
物流・製造の現場でDX支援に入ってきた立場から見ると、これは珍しい光景ではありません。むしろ、指標が多い会社ほど、現場の迷いも多いとさえ感じます。多くの場合、原因はKGIとKPIの区別が曖昧なまま、両方を「達成すべき数字」として同列に並べてしまっていることにあります。
KGIとKPIの違い:まず1分だけ
KGI(Key Goal Indicator)は、最終的に到達したい結果です。年間売上、顧客満足度、事故ゼロといった「ゴールそのもの」を表す数字だと考えてください。一方KPI(Key Performance Indicator)は、そのゴールにたどり着くまでの過程で、現場の行動によって動かせる要因です。KGIが「山頂」だとすれば、KPIは「今日どのルートをどう登るか」を示す道具にあたります。
KGIとKPIを並べて見る
言葉で説明されると分かった気になりますが、実際の現場ではこの二つが混同されがちです。まず観点ごとに並べて、性質の違いを確認してみます。
観点 | KGI | KPI |
|---|---|---|
位置づけ | 最終的に到達したい結果 | 結果に向かう過程で動かす要因 |
時間軸 | 年度・半期など長め | 週次・日次など短め |
動かす主体 | 会社全体・複数部門の合算 | 現場の担当者・チーム単位 |
変化の理由 | 市場や外部要因も絡む | 今日の行動で説明できる |
典型例 | 年間売上、顧客満足度 | 商談件数、初回応答時間 |
ここで見えてくるのは、KGIとKPIは「大きさ」の違いではなく「動かせるかどうか」の違いだということです。売上を10億円から12億円にする、というのはKGIの言い換えであって、誰かが今日の仕事でどう動けばいいかは、まだ何も語っていません。
KPIが「結果の細切れ」になっている問題
多くの現場を見てきて、いちばん多いつまずきはここにあります。KGIである全社売上を、そのまま細かく割っただけの数字を、KPIと呼んでしまうケースです。全社売上がKGI、部門別売上がKPI、さらに担当者別売上がKPI——一見きれいなツリーに見えますが、これは結果を細かく分けただけで、行動の要因には触れていません。
担当者別売上が未達だったとして、その担当者は明日から何をすればいいのでしょうか。数字を渡されただけでは、答えが出ません。原価の管理でも同じ構図がよく起きます。原価管理は何から手を付けるかで書いたとおり、原価を細かく集計すること自体は目的ではなく、どの数字を見れば次の一手が決まるかを先に決めておく必要があります。指標づくりも順番はまったく同じで、「分解する」ことと「動かせる要因を見つける」ことは、似ているようで別の作業です。
製造現場でも起きる話です。生産数量というKGIを、そのまま部門別・ライン別に割ったものをKPIに据えている工場を、何度も見てきました。ライン別生産数量が未達でも、担当者にできることは限られています。
本当に手を伸ばせるのは、段取り替えにかかる時間や、不良の発生率、設備が止まっている時間といった、行動で直接短縮・削減できる数字のほうです。生産数量は結果であり、段取り替え時間や不良率はその結果を作る要因です。指標を選ぶときは、この二つを同じ棚に並べないことが出発点になります。
現場が動かせる指標かどうかの判定
では、どうすれば「結果の細切れ」に陥らずに済むのでしょうか。私が支援先で必ず確認するのは、次の3段階です。数字を1つ思い浮かべながら、順番に当ててみてください。
- ①今日の行動で動くか:その数字は、担当者が今日・今週の仕事のやり方を変えれば、実際に増減しますか。月末の集計を待たないと分からない数字は、この時点でKPIの候補から外れます。
- ②動かす主体が現場にいるか:数字の増減を決めているのは、その担当者自身の行動ですか、それとも景気・為替・取引先の都合といった、担当者の手の届かない外側の要因ですか。主体が現場の外にあるなら、それはKPIではなくただの観測値です。
- ③増減の理由を現場が言葉で説明できるか:先月より数字が動いたとき、「なぜ動いたか」を担当者本人が具体的に説明できますか。「たまたま」「景気が良かったから」としか言えない数字は、行動と結びついていません。
受注件数と売上を比べると分かりやすくなります。受注件数は、営業担当が今日の電話や訪問の量・質を変えれば、翌週にも動く可能性がある数字です。一方売上は、受注後の入金タイミングや値引き交渉、在庫の有無など、担当者の行動だけでは決まらない要素が挟まります。売上はKGIに近く、受注件数はKPIに近い——この距離感を、指標を選ぶたびに測る必要があります。
一段深く:指標が増える本当の理由
デザイン思考で物事を見るとき、私はいつも「この指標は、誰の目的のために置かれているのか」を確かめます。DX支援の現場でよく出会う構図があります。管理する側が「もっと状況を把握したい」という不安を抱えるほど、ダッシュボードに指標が追加されていく、という構図です。DXとは?“ただのIT化”じゃないで触れたように、道具を入れても目的が定まっていなければ、道具は不安を埋めるための飾りになりがちです。指標も同じで、増やすこと自体が安心につながってしまう場面が、実際にあります。
ここで見落とされがちなのは、指標が増えても、現場の行動が同じ数だけ増えるわけではないという点です。人が一日のうちに本気で意識できる数字は、そう多くありません。指標を10個並べれば、現場は10個の行動を取るのではなく、どれを優先すべきか分からなくなり、結局いちばん叱られそうな数字にだけ反応するようになります。業務可視化とは?“見えればいい”じゃないでも書きましたが、見えるようにすることと、見た人が動けるようにすることは別の設計です。指標を増やすほど現場が安心するのではなく、優先順位を失っていく——この逆説を、管理する側は意外と見落としています。
だからといって、指標を減らすこと自体を管理する側が怖がるのも無理はありません。減らした指標のなかに、実は重要な兆候が隠れていたらどうしよう、という不安がついて回るからです。ここで効くのは、一度にすべてを削る発想ではなく、四半期に一度、KPIを棚卸しする小さな習慣です。「今日の行動で動くか」の判定に通らなかった数字を、資料の脇に控えとして残すだけで十分です。ダッシュボードの主役から外すことと、記録をやめることは、別の話だからです。
よくある質問
Q. KGIとKPIは、それぞれいくつ設定すればいいですか?
A. 決まった正解の数はありません。目安になるのは、担当者が資料を見返さずに口頭で言える数、です。KGIは1〜2個、KPIも部署ごとに数個にとどめると、現場の意識から抜け落ちにくくなります。
Q. KPIが未達のとき、KGIも見直すべきですか?
A. まずKPIの選び方を疑ってください。KPIが未達でもKGIに近づいているなら、そのKPIは行動の要因になっていなかった可能性があります。KGIそのものを動かすのは、正しく選ばれたKPIが積み上がった結果であるべきです。
まとめ
KGIは到達したい結果、KPIはその手前で現場が動かせる要因です。この二つを混同すると、KPIが「結果の細切れ」になり、現場は数字を渡されるだけで、何をすればいいのか分からなくなります。今お使いのダッシュボードにある数字を一つずつ、「今日の行動で動くか」「動かす主体は現場か」「理由を現場が説明できるか」の3段階に当ててみてください。それだけで、本当に必要な指標とそうでない指標が見えてきます。
指標設計や現場が動ける仕組みづくりについては、経営コンサルティングのご支援やお問い合わせからお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。