LF&L株式会社
コラム中小企業のシステム選び

情シスがいない会社はITをどう回すのか|担当を置く前に決めること

情シスがいない会社はITをどう回すのか|担当を置く前に決めること

「パソコンのことは、とりあえず○○さんに聞いて」——気づけば経理担当や営業事務の誰か一人が、社内のIT全般を一手に引き受けています。契約更新もパスワードの再発行も、バックアップが取れているかどうかも、その人の頭の中にしかありません。心当たりのある方は、少なくないはずです。

中小企業のDX支援に入ると、こういう会社によく出会います。専任の情シス担当がいない会社で実際に起きているのは、「担当者不在」ではなく「一人に全部集まっている」状態です。私はこれを、業務改善の現場を見てきた立場から、担当者の話ではなく範囲の話として捉え直しています。

情シスがいない、とは情報システム部門や専任のIT担当者がいない状態を指します。中小企業では珍しくなく、総務や経理、あるいは「詳しい社員」が兼任するのが実情です。問題は兼任そのものではありません。何を任され、何を任されていないかが、誰にも決まっていないことです。

情シスがいない会社で起きていること

パソコンが動かない日も、Wi-Fiルーターが落ちた日も、新入社員のメールアカウントを作る日も、見積を比較してほしいという依頼も、全部が同じ一人のところに来ます。本人は本業を持っていて、IT対応はあくまで片手間です。それでも頼られ続けるうちに、いつの間にか「その人にしか分からない」状態が完成していきます。

多くの場合、その人はIT専門ではありません。単に機械に強い、頼まれたら嫌と言えない、というだけで役割が固まっていきます。頼られること自体はやりがいにもなりますが、本業の合間に対応が挟まるぶん、本人の生産性は静かに削られていきます。

本当に困るのは、その人が休んだ日ではなく、辞めた後です。契約書がどこにあるか、どのアカウントが誰の権限か、バックアップは本当に取れていたのか——誰も答えられません。これは能力の問題ではなく、最初から「何を任せるか」を決めずに任せてしまった結果です。

先に決めるべきは「誰か」ではなく「範囲」

この状態に気づくと、多くの会社は「専任を採用しよう」と考えます。ですが中小企業がIT専任を一人雇うのは、コストの面でも採用市場の面でも簡単ではありません。私が支援先でまず一緒にやるのは、担当者を探すことではなく、「何を社内に残し、何を外に出すか」の線引きです。ここを決めずに採用しても、新しい担当者にまた全部が乗るだけで、同じことが繰り返されます。

逆に、全部を外部に丸投げするのも危険です。何にいくら払っているか、誰が何のデータを持っているか——判断の材料になる情報まで外部任せにすると、今度は社内の誰も状況を把握できなくなります。外に出してよいのは「作業」であって、「状況の把握」ではありません。

社内に残すもの・外に出すもの

現実的な線引きは、契約・アカウント・バックアップの3つだけは社内に残し、構築と保守は外に出す、という形に落ち着くことが多いです。

領域

区分

理由

最低限やること

契約・ライセンス

社内に残す

支払いと契約の当事者は会社であり、担当者個人ではありません。担当者が辞めれば契約の存在自体が分からなくなります。

契約書と更新日を一覧にし、複数人が見られる場所に置く

アカウント・権限

社内に残す

退職・異動時に誰の権限を止めるかは、社内でしか判断できません。

管理者アカウントは会社名義で作り、個人のメールアドレスに紐付けない

バックアップの所在

社内に残す

どこに何のデータがあるかを把握していないと、事故のときに復旧できるかどうかも分かりません。

バックアップの取得先と復元手順を、年に一度は担当者以外も確認する

構築・開発

外に出す

専任がいない状態で作り込むと、その人にしか触れないシステムになりがちです。

要件を書面にしてから発注する(RFP(提案依頼書)の書き方を参照)

保守・運用

外に出す

障害対応やアップデートには専門知識と即応できる体制が要ります。

対応時間・対応範囲を保守契約に明文化する

「外に出す」と聞くと、システムを丸ごと買ってくることだと思われがちです。でも中小企業のDXは“何かを買う”ことじゃないで書いた通り、外に出すのは作業と保守であって、判断そのものまで外に出すわけではありません。何を導入するか、どこまで投資するかは、社内に残しておくべき判断です。

兼任者を守る決め方

表の線引きだけでは、兼任者の負荷はあまり減りません。日々の判断をどう渡すか、決め方そのものにルールが要ります。

  • 金額基準を渡す:いくらまでは本人の判断で発注してよいか、先に金額を決めておきます。システム投資はいくらまで出していいのかで書いた基準があるだけで、兼任者は「毎回聞かなくていい範囲」を持てるようになります。
  • 選択肢を絞って渡す:「どうしましょう」ではなく「AかBか、決めてください」という形に、相談の出し方自体を変えます。
  • 定例で棚卸しする:月に一度、契約とアカウントの一覧を見直す時間を決めておきます。担当者の記憶だけに頼らない仕組みです。
  • マニュアルと権限は別物と考える:手順書は「やり方」は残せますが、「決めてよいかどうか」までは残せません。マニュアル化を進めても兼任者の負荷が減らないのは、たいてい権限の線引きが手つかずのままだからです。

一段深く|なぜ兼任者は疲弊するのか

中小企業の支援で繰り返し見てきた構図があります。兼任の担当者が潰れる原因は、作業量そのものよりも、「決めてよい範囲」が決まっていないことにあります。範囲が曖昧だと、小さな判断までいちいち相談に回ってしまい、本人の業務時間の多くが、返事待ちで埋まっていきます。忙しいというより、止まっている時間が長いのです。

これは、権限をどこまで渡すかという話ではなく、判断そのものの総量をどう減らすか、という設計の話です。属人化を悪者にして担当者を増やすより、判断の範囲を先に区切っておくほうが、多くの中小企業の規模には合っています。

この見立てに立つと、最初の一手は求人でも外注先探しでもありません。今、誰か一人に集まっている判断を洗い出し、「相談不要」「要相談」「経営判断」の三段階に仕分けることです。仕分けが終わってはじめて、どこを採用で埋め、どこを外部に任せるかが見えてきます。

よくある質問

Q. 情シスがいなくても本当に大丈夫ですか。

A. 契約・アカウント・バックアップの3つを社内で把握できていれば、構築や保守は外部に任せても大きな支障は出ません。危ういのは、この3つまで丸ごと外部任せにしている、もしくは一人の頭の中だけに閉じている状態です。

Q. 何人くらいの規模になったら専任を置くべきですか。

A. 人数より、判断の量で考えるほうが現実的です。相談待ちの案件が常に溜まっている、契約の把握が追いつかない、という状態が続くなら、専任を検討する時期です。そこまで達していないなら、範囲を決め直すほうが先です。

まとめ

情シスがいない会社にまず必要なのは、担当者ではなく範囲の線引きです。契約・アカウント・バックアップは社内に残し、構築と保守は外に出します。そのうえで、兼任者が自分の判断で動いてよい範囲を、先に渡しておきます。全部を一人に背負わせない仕組みは、大がかりな採用より先に作れます。まずは今、誰か一人のところに集まっているものを、紙に書き出すところから始めてみてください。

体制づくりやシステム選定の相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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