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コラム中小企業のシステム選び

データ移行でつまずくのはどこか|見落とされる5つの落とし穴

データ移行でつまずくのはどこか|見落とされる5つの落とし穴

「データ移行は無事に終わりました」と報告を受けた翌週になって、新しいシステムに同じ取引先が二つの顔で並んでいたり、とうに取引の終わった品目が在庫一覧に平然と残っていたりする——そんな連絡を受けたことはありませんか。移行の当日は何も起きなかったのに、数日たってから小さな不具合が次々に出てきます。基幹システムの入れ替えを支援する現場では、驚くほどよく見る光景です。

私は基幹システムの入れ替えを支援する立場から、いつも思うことがあります。データ移行でつまずく原因の多くは、移行そのものの作業ではなく、その手前の準備段階に埋まっています。「今のデータを新しい箱に入れる」作業だと考えていると、箱の性能や移行ツールの精度に目が向きがちです。でも実際に時間を食い、当日トラブルの種になるのは、箱ではなく中身のほうです。

1分でわかるデータ移行の本当の意味

データ移行とは、現行システムに蓄積された取引先・品目・在庫・履歴などのデータを、新しいシステムの構造やコード体系に合わせて作り替え、移し替える作業です。単純なコピーではなく、新システムのルールに合わせて「整える」作業だと捉えると実態に近づきます。整える対象がきれいであれば移行は淡々と進みますが、対象そのものが崩れていれば、どれだけ精緻な手順書を用意しても崩れたまま運ばれます。

見落とされる5つの落とし穴

これまで入れ替えの支援に関わってきたなかで、移行の当日ではなく後になって表面化する落とし穴は、だいたい次の5つに絞られます。どれも移行の技術の問題ではなく、移行前に決めておくべきことの問題です。

1. 同じ取引先が別コードで重複している

本社と拠点、営業担当ごとに別々のタイミングでマスタ登録された結果、同じ取引先が2つ3つのコードで存在しています。現行システムを長く運用している会社ほど、この状態が起きています。気づくのはたいてい移行が終わった直後、取引先別の集計や請求が二重に出てきたときです。先にやっておきたいのは、移行の作業に入る前に取引先マスタを名寄せし、どのコードを正とするかを誰が決めるかまで決めておくことです。移行ツールに任せれば自動で名寄せできると考えるのは危険で、最終的な判断はいつも人が行います。

2. 終了した品目が「現役」のまま残っている

もう販売していない品目、廃番になった資材が、ステータスを更新されないまま現行システムに残り続けているケースも珍しくありません。気づくのは新システムの検索や発注画面に、使わない品目がずらりと並んで現場が戸惑ったときです。先にやっておきたいのは、品目マスタを棚卸しし、生きているか終了しているかを、業務側の担当者が実際に確認して仕分けることです。システム上のフラグだけを信じると、現場感覚とずれたまま移行してしまいます。

3. 必須項目なのに、現場は空欄のまま運用してきた

新システムでは入力必須の項目が、現行システムでは長年空欄のまま運用されてきた、という食い違いもよくあります。単価区分や与信情報、担当部門コードなどが典型です。気づくのは移行のテスト段階で、エラーが大量に出て初めて気づく会社が多いところです。先にやっておきたいのは、新システム側の必須項目一覧を早い段階で洗い出し、現行データで実際に埋まっているかを確認しておくことです。ERPは“高機能が正解”じゃないでも触れたとおり、機能を積み増すほど必須項目も増えていく構造があるので、これは移行の直前ではなく機能選定の段階から意識しておきたい話でもあります。

4. 履歴をどこまで持ち込むか、誰も決めていない

過去の取引履歴や在庫の変動履歴を、新システムにどこまで持ち込むかは、意外にも誰も決めないまま移行の直前まで進んでしまう項目です。気づくのは移行の直前、担当者間で「何年分持っていくんでしたっけ」という会話が初めて交わされたときです。先にやっておきたいのは、履歴の要不要を業務要件として文書に残しておくことです。選定段階のRFP(提案依頼書)の書き方に持ち込み範囲を明記しておくと、後になって現場と情シスの間で揉めずに済みます。

5. 移行後にデータを見比べる手順が存在しない

移行の計画書には、たいてい移行スケジュールは書かれていても、移行が正しく行われたかをどう確認するかまでは書かれていないことがあります。気づくのは移行が終わって数週間たち、どこかの数字が合わないと現場から声が上がったときです。その頃にはもう、旧システムの参照権限が閉じられている、ということも起きます。先にやっておきたいのは、移行後の突合手順そのものを、移行計画の一部として先に決めておくことです。具体的には次の節で見ていきます。

移行後の突合手順

移行が終わった直後の数週間は、新システムが正しくデータを引き継げているかを確かめる時間です。ここを省略すると、5つの落とし穴のほとんどが、数字の不一致という形で後から静かに現れます。私が支援に入る際は、次の順で確認をお願いしています。

  1. 件数を項目ごとに突き合わせる:取引先・品目・在庫それぞれの件数が、旧システムと新システムで一致するかをまず確認します。件数が合わない時点で、どこかの絞り込み条件やエラーで弾かれたデータがあります。
  2. サンプルを抽出し、人の目で内容を見比べる:件数が合っていても、中身がずれていることがあります。取引額の大きい取引先や、動きの多い品目を優先してサンプル抽出し、金額・履歴・ステータスを見比べます。
  3. 旧システムを一定期間は参照できる状態にしておく:突合の過程で、どちらのデータが正しいか判断に迷う場面は必ず出てきます。移行直後に旧システムを閉じてしまうと、確認のしようがなくなります。
  4. 誰が・いつ・何件確認したかを記録に残す:突合を担当者の記憶だけに頼ると、次に同じような入れ替えをするときに手順が引き継がれません。確認した範囲と結果は、簡単な記録でよいので残しておきます。

一段深く:捨てる判断は誰が持つか

これまで多くの入れ替え支援に関わってきて、この5つの落とし穴に共通する構造がひとつあると感じています。移行で最も時間を食うのは、データの変換作業そのものではありません。どれを新システムに持ち込み、どれを捨てるかを、誰も決められないことです。

重複した取引先コードも、終了した品目も、要不要が曖昧な履歴も、突き詰めれば“捨てる判断”の問題です。捨てる判断には責任が伴います。担当者の一存で古い取引先データを消して、後になって必要だったと言われたら困ります。だから誰も決めないまま、念のため全部持っていこう、という結論に流れ着きます。

結果として、新システムは稼働初日から、重複した取引先と終了した品目を抱えたまま走り出すことになります。基幹システム刷新は“新しくすれば解決”じゃないという話をよくするのは、まさにこの理由からです。箱を変えても、捨てる判断を先送りにしたままでは、同じ課題を新しい画面の上でもう一度抱えることになります。

だからこそ、移行の支援に入るときは、最初に「何を捨てるかを、誰が決めるか」を決めていただくところから始めます。決める人が決まっていれば、あとの作業は淡々と進みます。決まっていなければ、どれだけ移行ツールが優秀でも、判断待ちの荷物を抱えたまま止まってしまいます。

よくある質問

Q. データ移行の準備は、いつから始めればいいですか。

A. 新システムの選定と並行して始めるのが理想です。マスタの重複確認や履歴の要不要の判断は、選定が固まってから着手すると時間が足りなくなりがちです。少なくとも移行作業に着手する数か月前には、マスタの棚卸しに手をつけておきたいところです。

Q. 移行のトラブルは、どのくらいの会社で起きるものですか。

A. 具体的な件数を示す公的な統計は把握していませんが、支援の現場では、事前にマスタを整理せずに移行に入った案件ほど、後になってトラブルが出やすいという印象があります。当日のシステム的な不具合よりも、数日から数週間後にデータの中身の不一致で気づくケースのほうが多い、というのが実感です。

まとめ

データ移行は、移行当日の作業だけを指す言葉ではありません。本当に差が出るのは、移行の何か月も前、マスタを整理し、履歴の要不要を決め、捨てる判断の責任者を決めておく段階です。全部を移行の当日にまとめて解決しようとしなくても大丈夫です。まずは、今のマスタに重複や空欄がどれだけあるかを確認するところから始めてみてください。

データ移行の進め方や、移行前のマスタ整理については、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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