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間接費の配賦は“正確に配る”ことじゃない|納得できる基準の作り方

間接費の配賦は“正確に配る”ことじゃない|納得できる基準の作り方

「なぜうちの部署だけこんなに間接費を負担するんですか」——工場や本社の会議で、こういう質問を受けたことが何度もあります。配賦の計算式を見せて、係数の根拠を説明しても、相手の顔は晴れません。担当者が悪いわけでも、計算が間違っているわけでもないのに、です。

製造業・物流業のコスト構造を見てきた立場から言うと、この場面で起きているのは「計算の誤り」ではなく、「そもそも正確に配れないものを、正確に配ろうとしている」というすれ違いです。中小企業の現場を見てきた中で、業種を問わず何度も出会ってきたテーマでもあります。今日はここを整理します。

間接費と配賦:まず1分だけ

間接費とは、原材料費や直接作業時間のように、特定の製品・部門にひもづけて数えられない費用のことです。工場長の給与、電気代、本社の総務コスト……これらは「どの製品がいくら使ったか」を直接には数えられません。配賦は、この間接費を何らかの基準(作業時間・機械時間など)で各製品・部門に割り振る作業を指します。ここまでは教科書どおりです。

「正確に配る」は最初から成立していない

間接費が間接費と呼ばれるのは、製品ごとの使用量を直接測れないからです。つまり配賦の出発点に、「唯一の正確な答え」は存在しません。工場長の給与を製品Aと製品Bにどう配れば正確なのか——その問い自体に、決まった正解がないのです。

この事実に気づかないまま、配賦基準をどんどん細かくして「もっと正確に」を追いかける現場をよく見ます。工程を10に分け、係数を工程ごとに変え、月次で見直す……。手間は倍増しますが、出てくる数字が正確になるわけではありません。測れないものを測ろうとしているので、精緻化は正確さではなく複雑さを増やすだけです。

たとえば、ある工場が機械時間を基準に間接費を配ったとします。設備を集中的に使う量産品には間接費が重く乗り、手作業中心の小ロット品には軽く乗ります。感覚的には妥当に見えますが、実際は設備の減価償却費と工場長の巡回にかかる人件費という、性質の違う費用を一本の基準で束ねているだけです。基準を作業時間に変えれば、この二つの製品の損益は入れ替わります——基準が変われば答えも変わる、それが「唯一の正解がない」ことの具体的な姿です。

代表的な配賦基準を並べてみる

実務で使われる基準は、そう多くありません。それぞれ向く現場と、歪みが出る場面が違います。原価の見える化に取り組むときは、まずこの一覧で自社の実態に近い基準を絞り込むところから始めます。

配賦基準

向く現場

歪みが出る場面

直接作業時間

手作業中心で、人の関与が大きい工程

自動化が進んだ工程では、人手をかけない製品ほど間接費が軽く出て実態とずれる

機械時間

設備投資が大きく、自動化が進んだ工程

手作業中心の製品は逆に負担が過小になり、機械の稼働待ち時間の扱いで揉める

材料費

製品間で材料費の比率が近い、量産型の工程

高額な材料を使う製品に間接費が過大に乗り、実際の手間とかけ離れる

人数

総務・情報システムなど、部門間接費の配賦

部門規模と業務量が比例しない組織では、大部門が一方的に損をする

どの基準にも一長一短があります。ここで大事なのは、「どれが正しいか」を延々と議論することではありません。自社の現場でいちばん実態に近い一つを選び、そこで止めることです。

製品ラインが複数ある工場では、「主力ラインは機械時間、少量多品種のラインは直接作業時間」というように基準を使い分けたくなる場面もあります。それ自体は間違いではありませんが、増やすほど全体の説明はしにくくなります。使い分けるとしても2種類までにとどめ、なぜその2つを選んだかを一言で言えるようにしておきます。基準の数が増えるほど、次に説明を求められる部門も増えていきます。

基準は3条件で選ぶ

配賦の設計に入るとき、私が判断軸にしているのは正確さではなく、次の3つです。

  • 少数であること:基準は多くても2〜3種類まで。工程ごとに違う基準を積み上げると、誰も全体を説明できなくなります。
  • 説明可能であること:現場の担当者に「なぜこの数字になるのか」を1分で説明できるか。説明しきれない基準は、どれだけ精緻でも現場に信じてもらえません。
  • 変えないこと:一度決めたら、少なくとも決算期をまたいで固定します。基準を頻繁に変えると前年との比較ができなくなり、「都合よく数字を動かしているのでは」という疑いすら生みます。

この3条件は、限界利益と粗利は何が違うのかという問いとも根っこが同じです。会計上の数字は、突き詰めれば「意思決定のために現場と経営が共有できる約束事」であって、物理的な事実の再現ではありません。

一段深く:精緻さと納得感はトレードオフになる

コンサルの現場で繰り返し見てきた構造があります。配賦基準を細かくすればするほど、現場の納得感はむしろ下がっていくという逆説です。基準を工程ごと・製品ごとに分ければ分けるほど、計算の中に「なぜここだけこの係数なのか」を説明しきれない部分が増えます。説明しきれない数字を渡された担当者は、それを自部門の数字として受け止められなくなります。誰も自部門の数字を信じなくなれば、その数字は経営判断の材料としても機能しません。

配賦の目的を「製品原価を1円単位で言い当てること」に置くと、基準は際限なく複雑になっていきます。目的を「現場と経営が同じ土俵で意思決定できること」に置き直すと、基準は自然と少数・説明可能な形に収束します。物流・製造の現場支援を通じて実感してきたのも同じことで、数字が複雑になるほど現場の足はその数字から遠のき、単純な基準のほうがかえって現場を動かす力を持っていました。

よくある質問

Q. 配賦基準を変えたら、過去の数字と比較できなくなりませんか。

A. その通りです。だからこそ「変えないこと」が3条件の一つに入っています。どうしても変える必要がある場合は、切り替えた期の数字に注記を残し、可能なら旧基準でも1期分並行して計算しておくと、比較の断絶を最小限にできます。基準を変える判断そのものも、頻度を決めて(たとえば3年ごとの見直しなど)あらかじめ運用に組み込んでおくと、場当たり的な変更を防げます。

Q. 部門ごとに配賦への不満が出ます。どう収めればいいですか。

A. 不満の多くは「基準が見えない」ことから生まれます。業務可視化とは何かを考えるときと同じで、計算式そのものより、誰が見ても同じ結論にたどり着ける説明の道筋があるかどうかが効きます。基準を公開し、選んだ理由を1枚で示すだけで、現場の受け止め方は変わります。月次の配賦結果を担当者向けに1枚の表で共有する運用に変えるだけでも、「見えない配賦」への不満はかなり和らぎます。

まとめ

間接費の配賦は、正確に配ることを目指す作業ではありません。もともと正確に配れないものを、現場と経営が同じ基準で見られるようにする作業です。基準は少数に絞り、説明できる形にし、決めたら変えないことです。まずは自社で使っている配賦基準が、この3条件を満たしているかを確認するところから始めてみてください。

配賦基準の見直しは、単独では決めにくいテーマでもあります。自社の工程構成や製品構成に合わせた設計については、お問い合わせからお気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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