効率化は“早くやる”ことじゃない|手を付ける順番の決め方

「もっと早く」と言われる工程は、だいたい決まっています。承認が遅い、見積もりが出るまで待たされる、出荷指示が来ない——現場のどこかで「ここを速くしてくれ」という声が上がります。私も似た相談を何度も受けてきましたが、実際に工程ごとの所要時間を洗い出してみると、驚くほど高い頻度で気づくことがあります。指定された工程を倍速にしても、全体の所要日数はほとんど変わらないのです。
物流・生産管理の現場でSCM構築に携わってきた立場から見ると、これは珍しい話ではありません。むしろ効率化の相談でいちばん多い取り違えが、「速くしてほしいと言われた工程」と「実際のボトルネック」を同じものだと思い込むことです。速くする前に、手を付けるべき順番があります。
業務効率化とは:まず1分だけ
業務効率化とは、同じ成果をより少ない時間・人手・手戻りで生み出せるように、業務の進め方を組み替えることです。多くの方が真っ先に思い浮かべるのは「作業のスピードを上げること」ですが、それは効率化を構成する要素のひとつに過ぎません。業務改善の進め方を辿ると、実は速くする前に済ませておくべき手順が3つあります。
効率化は“速くする”から始めない:手を付ける4段階
私が現場で業務を見直すときは、必ず次の順番で手を付けます。やめる → 減らす → つなぎ直す → 速くするの順です。この順番を逆にすると、なくてもよい作業を高速化するという、いちばん効果の薄い投資から着手することになります。
第1段階:やめる|その作業は、まだ必要ですか
最初に問うのは「速くできるか」ではなく「なくせるか」です。判断材料は次の3つです。
- その成果物を実際に受け取り、使っている人が今も存在するか
- 過去のトラブル対応でできた“念のため”の作業が、目的を終えたまま残っていないか
- やめた場合に困る人を、具体的に名指しできるか(名指しできなければ、それは惰性で続いている作業です)
ここで消せる作業は、速くする必要そのものがなくなります。私が最初にここを見るのは、いちばん効果が大きく、いちばんお金がかからない段階だからです。
第2段階:減らす|頻度・範囲・対象を絞れないか
やめられない作業について、次に見るのは量です。判断材料は次の3つです。
- 今の頻度(毎日・毎回)は、業務上の必要から来ているか、単なる習慣から来ているか
- 全件に同じ手間をかけているが、重要度や金額で対象を絞れないか
- 個別対応をやめて、まとめて一括処理に切り替えられないか
よくあるのが、“毎日”の報告や確認を、実際には週次で十分だったと気づく場面です。頻度を5分の1に減らせば、作業時間もおおよそ5分の1に近づきます。速くする前に、量そのものを削れないかを疑う段階です。
第3段階:つなぎ直す|待ちと手戻りはどこで生まれているか
やめる・減らすを済ませたら、残った作業同士のつながりを見ます。判断材料は次の3つです。
- ある工程の成果物を、次の工程が受け取るまでに“待ち”が発生していないか
- 同じ情報を、部門をまたいで二重に入力・確認していないか
- 情報が伝わるタイミングと、次の判断が必要になるタイミングがずれていないか
この段階で効くのが、業務を要素に分解して並べ替える発想です。ECRSの原則もこの発想に近く、排除・結合・交換・簡素化という順番で見直しを進めます。私が現場で使う4段階も骨格は同じで、“どこにつなぎ目があり、どこで止まっているか”を先に地図にしてから、つなぎ方を設計しなおします。ここまで済ませて初めて、個々の作業を速くする土台が整います。
第4段階:速くする|ここまで来て、ようやく着手する
やめて、減らして、つなぎ直した後に残るのが、本当に速くする価値のある作業です。判断材料は次の3つです。
- その工程が止まっている間、後工程が実際に待たされているか(データで確認できるか)
- 前の3段階を済ませた上でも、まだ遅いと言えるか
- 速くする投資(自動化・システム化)のコストは、短縮できる待ち時間に見合うか
順番を守ると、速くする対象は自然と絞り込まれます。最初から“速くする”に飛びつくと、全体の流れを止めていない工程にまで投資してしまい、体感は変わらないのに費用だけがかさんでいきます。
一段深く:ボトルネックは、指定された場所にあるとは限らない
デザイン思考の基本は、目の前にある作業や道具を前提にせず、まず目的から設計しなおすことです。「この工程を速くしてほしい」という依頼も同じで、私はまず依頼された工程そのものではなく、その前後の流れごと見直すところから始めます。
コンサルの現場視点で言うと、速くしてほしいと言われた工程が、実際に全体のボトルネックだったことはあまり多くありません。多くの場合、その工程が遅く見えるのは、前の工程からの受け渡しが遅れて到着し、担当者が着手できる時間そのものが削られているからです。工程自体の作業速度は変わっていないのに、開始が遅れた分だけ、終わりも遅く見えます。依頼どおりにその工程だけを速くしても、前工程の遅れはそのまま残り、次の工程はやはり待たされ続けます。
本当のボトルネックがどこにあるかを見極めるには、「遅い」という現象の奥にある原因を、一段ずつたどる作業が要ります。なぜなぜ分析のように、表面の遅さから原因を掘り下げる手法は、この見極めに向いています。目的から設計しなおすとは、依頼された作業をそのまま受け止めるのではなく、その作業が全体のどこに位置しているかを、いったん俯瞰して確かめることだと私は考えています。
私が実際に確かめる方法はシンプルです。「承認が遅い」と言われた工程なら、承認者の手元に書類が届いてから判子を押すまでの時間と、承認依頼が出されてから承認者の手元に届くまでの時間を、分けて計測します。多くの場合、判子そのものにかかる時間はごくわずかで、大半は前工程からの到着待ちです。ここが見えると、速くすべきは承認作業ではなく、その手前の受け渡しだったと分かります。
よくある質問
Q. 全部の工程を今すぐ見直す時間がありません。何から着手すればいいですか?
A. 全工程を一度に見直す必要はありません。まずは日々「待たされている」と感じる工程を1つ選び、その前工程からの受け渡しがどうなっているかだけを確認してみてください。多くの場合、そこに“やめる”か“つなぎ直す”の余地が見つかります。
Q. どの段階から手を付けても効果は同じですか?
A. 同じではありません。やめる・減らすで作業量そのものを削ると、投資をかけずに時間が減ります。先に速くする段階から着手すると、なくてもよい作業や、つながっていない工程にまで投資することになり、費用のわりに体感が変わらない結果になりがちです。
まとめ
効率化は“早くやる”ことではありません。やめる、減らす、つなぎ直す、そして最後に速くする——この順番を守るだけで、同じ投資でも効果の出方は変わります。全部の作業を一度に見直す必要はありません。まず、いちばん待たされていると感じる工程を1つ選び、その前後のつながりから見てみてください。
自社の業務プロセスの見直しについては、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。