なぜなぜ分析 徹底解説|5回問えばいいわけではない

「原因を突き止めるには、なぜを5回繰り返せばいい」——そう聞いたことはありませんか。ホワイトボードに「なぜ」を五段書き並べ、五段目に着いたところで「よし、これが根本原因だ」と締めくくります。手順どおりにやったはずなのに、翌月また似たトラブルが起きます。そんな経験がある方も多いはずです。
物流・生産管理の現場で改善活動に関わってきた立場から言うと、なぜなぜ分析がうまく回らない現場には共通点があります。回数を数えることに気を取られて、問いの“向き先”を間違えているのです。
なぜなぜ分析とは:まず1分だけ
なぜなぜ分析とは、ある問題に対して「なぜ」を繰り返し問い、表面に見えている事象の奥にある原因へさかのぼっていく手法です。トヨタ生産方式に由来するとされ、「なぜを5回繰り返す」という紹介のされ方をよくします。ですが、5という数字はあくまで目安です。3回で本質的な原因に届くこともあれば、7回かかることもあります。回数を守ること自体は目的ではありません。
“5回”という数字が独り歩きする
会議室でよく見る光景があります。進行役が「なぜ」を機械的に5回繰り返し、五段目の答えをそのまま根本原因として板書して終わります。回数さえ満たせば分析は完了、という空気です。でも「なぜ」を5回問うこと自体には何の力もありません。力を持つのは、その問いがどこに向いているかです。
始める前に効くのは「事実を1文で書く」こと
回数より前に、もっと効くコツがあります。最初の問題文を、憶測を混ぜずに1文で書くことです。「品質が悪い」ではなく「〇月〇日、出荷前検品で不良品が3個見つかった」まで具体化します。ここが曖昧なままだと、1問目の「なぜ」からすでに方向がずれます。私が現場で必ず確認するのは次の3点です。
- いつ・どこで起きたか:時間と工程を特定します。「最近よくある」ではなく、直近の1件に絞ります。
- 何が起きたか:測れる事実で書きます。「悪い」「遅い」といった感覚語を、数字か状態に置き換えます。
- 誰が見ても同じ答えになるか:問いに対する答えが、担当者ごとに変わるようなら、まだ事実になっていません。
この3点が揃って初めて、1問目の「なぜ」が意味を持ちます。曖昧な問題文のまま「なぜ」を重ねると、5回問い終えたころには最初の問題とはまるで別の話をしていた、ということが珍しくありません。
良い例と悪い例:何が分かれ目か
なぜなぜ分析は業務改善の進め方の中でもよく使われる道具ですが、使い方を誤ると逆効果になります。良い例と悪い例を並べると、分かれ目がはっきり見えてきます。
観点 | 良い例 | 悪い例 |
|---|---|---|
問いの対象 | 起きた事象・仕組み | 特定の人 |
典型的な問い方 | 「なぜこの工程で検知できなかったのか」 | 「なぜ〇〇さんは気づかなかったのか」 |
止める基準 | 対策が打てる層に着いたら止める | 回数(5回)を数えたら止める |
出てくる対策 | 手順・チェックの仕組みを直す | 個人への注意喚起で終わる |
会議の空気 | 事実が出やすく、次も本音で話せる | 委縮して次から情報が出てこなくなる |
表でいちばん効いてくるのは「問いの対象」です。事象・仕組みに向けた問いは、進めるほど手順や設計の穴が見えてきます。人に向けた問いは、進めるほど責任の所在を探す作業になり、誰かが「すみません、私の確認不足でした」と答えた瞬間に分析は止まります。原因を追う手が止まるだけでなく、次の機会に本当のことを言ってくれる人がいなくなる——これがいちばんの損失です。
止めどころは「対策が打てる層」
では、何回問えば終わりなのか。答えは回数ではなく、対策が打てる層に着いたかどうかです。「なぜ検品で不良を見逃したのか」から「検品項目にその不良のチェックが入っていなかったから」まで来れば、チェック項目を追加するという具体的な打ち手が見えます。ここが止めどころです。逆に「なぜ〇〇さんは確認を怠ったのか」で止まると、残る対策は「今度から気をつける」という精神論だけになります。精神論は対策として機能しないので、同じ不良は形を変えてまた起きます。そのたびに手直しの工数と部材費が積み上がり、原価の見える化に取り組んで初めて、こうした“見えない再発コスト”の大きさに気づく会社を何社も見てきました。
一段深く:なぜなぜが犯人捜しに変わる瞬間
デザイン思考の基本は、今あるやり方を前提にせず、目的から設計しなおすことです。なぜなぜ分析も、目的は「次に同じことを起こさない仕組みを作る」ことのはずなのに、現場では気づかないうちに「誰が悪かったかを確定する」作業にすり替わっていることがあります。
物流・生産管理の現場で改善活動に立ち会ってきた実感として、この分かれ目はいつも同じあたりに現れます。三問目か四問目、ちょうど「なぜ気づけなかったのか」という問いにさしかかったところです。ここで問いの矛先が仕組みではなく人に向くと、答える側は防御に回ります。防御に回った人は、次からその場で本当のことを言わなくなります。すると分析の材料そのものが痩せていき、なぜなぜ分析は形だけの儀式になります。表面上は5回問えているのに、実際には何も掘れていない——これが現場でいちばんよく見る失敗の形です。
私はこれを、問いの主語を意識的に入れ替える作業だと捉えています。「〇〇さんはなぜ」ではなく「この工程はなぜ」に言い換えます。それだけで、同じ「なぜ」でも向かう先がまったく変わります。進行役がこの入れ替えを最初に一度やって見せるだけで、参加者の答え方が変わり始めるのを何度も見てきました。
なぜなぜ分析で見えてきた原因が、一つの工程の手直しでは済まず、業務の流れそのものの設計に手を入れる必要がある場合は、BPRの領域に踏み込む話になります。工程の中の1点を直すのがなぜなぜ分析の範囲で、工程と工程のつなぎ方そのものを設計しなおすのがBPRの範囲です。両者は地続きですが、扱う対象の大きさが違います。なぜなぜ分析は原因を掘る道具で、掘った後どこまで手を入れるかは、また別の判断です。
よくある質問
Q. なぜなぜ分析は必ず5回やらないといけませんか?
A. いいえ。回数はあくまで目安です。対策が打てる具体的な層に届いた時点で止めてよく、3回で足りることもあれば、5回でも足りないことがあります。回数を数えるより、問いが事象・仕組みに向いているかを確認してください。
Q. 参加者が委縮してしまいます。どうすればいいですか?
A. 問いの主語を人からいったん外し、「その工程・その手順はなぜ〇〇だったのか」という形に言い換えてみてください。人を主語にした問いを一度でも使うと、その場の空気は一気に硬くなります。進行役が意識して言葉を選ぶことが、事実を集めるための最初の一歩です。
まとめ
なぜなぜ分析は、5回問えばいいわけではありません。回数ではなく、問いを事象・仕組みに向け続けられるか、そして対策が打てる層まで届いたかどうかが分かれ目です。次に「なぜ」を口にするときは、まず主語を確かめてみてください。それが、犯人捜しと原因究明を分ける最初の一歩です。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。