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DX人材は“採用する”ものじゃない|社内で育てる方法

DX人材は“採用する”ものじゃない|社内で育てる方法

「DX人材さえ採用できれば、うちの会社も変わるはずだ」——求人票にそう書いて、半年から1年、応募がほとんど来ないまま様子を見ている中小企業を何社も見てきました。DX人材とは、デジタル技術を使って業務や事業を変えていける人のことですが、そんな人材は今、大手からベンチャーまでが奪い合っている希少な存在です。中小企業の採用条件で来てくれるのを待つのは、正直、分の悪い賭けです。

物流の現場からITスタートアップの事業開発まで渡り歩いてきた立場から言うと、DX人材は外から採るものではなく、社内で育てるものです。

DX人材とは? ― まず1分だけ

DX人材とは、デジタル技術と自社の業務・事業の両方を理解し、「何を・どう変えるか」を設計して実行できる人のことです。プログラミングができるだけの人でも、業界知識だけがある人でもありません。経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が2022年に策定した「デジタルスキル標準」でも、DX推進に必要な人材は特定の技術職種だけでなく、事業側で変革を主導する「ビジネスアーキテクト」を含む複数の類型で定義されています。つまり最初から、技術者ひとりに閉じる話ではないという前提で設計されているのです。

“外から採ればいい”という思い込み

DX人材の採用がうまくいかない理由は、単純です。数が絶対的に足りていません。IPAの調査でも、DX推進上の課題として人材不足は毎年上位に挙がり続けています。数少ない候補者は当然、待遇や知名度で選べる大手やIT企業に流れます。中小企業がそこに好条件で勝つのは難しい。

それでも「採用できれば解決する」と考えてしまうのは、DXを「魔法の杖を持った専門家が来て変えてくれるもの」だとイメージしているからです。でも、現場で実際に変化を起こしているのは、たいてい外から来た専門家ではありません。もともとその現場を知っていた人です。

私が物流センターで在庫管理の仕組みを見直していたときも、いちばん役に立ったのは外部コンサルの分析ではなく、毎日棚を数えている担当者の「この棚、実は月に一度しか動かないのに毎回数えてるんですよね」という一言でした。業務のクセや矛盾は、そこにいる人にしか見えません。デジタル技術は、その気づきを実行に移すための道具にすぎない。道具の使い方は、後からいくらでも学べます。現場の勘所は、外から来た人が短期間で身につけられるものではありません。

採用と育成、何が違うか

採用と育成、どちらが早いかは会社の状況によります。ただ、中小企業が置かれた条件で比べると、見えてくる違いがあります。

外部から採用する

社内で育てる

着手までの期間

候補者の母集団が薄く、採用自体に時間がかかる

候補はすでに社内にいる。着手はすぐ始められる

業務理解

入社後、現場を一から覚える必要がある

すでに現場の勘所と人間関係を持っている

定着のリスク

より良い条件で他社に引き抜かれやすい

キャリアの伸びしろとして社内に残りやすい

周囲の巻き込み

「外から来た人」への警戒感が生まれやすい

もともとの信頼関係の中で進めやすい

並べてみると分かるのは、育成は「時間がかかって遅い」わけではないということです。むしろ、採用の方が母集団の薄さゆえに時間を要し、入社後の立ち上がりにもさらに時間がかかります。育成は最初の学習にこそ時間を使いますが、業務理解という一番重い工程をすでに済ませた状態から始められます。

社内で育てる=“現場を知る人”にデジタルを持たせる

社内育成というと、大がかりな研修制度をイメージするかもしれません。でも、私が中小企業に勧めているのは、もっと小さな一歩です。

  • 1. 候補は「困りごとを一番言語化できる人」から選ぶ:ITスキルの有無よりも、「この業務、非効率だと思う」と具体的に指摘できる人を選びます。属人化した業務を一番よく分かっている人ほど、変える力を持っています。
  • 2. 小さな一件を任せる:いきなり全社DXを背負わせない。Excelの手入力をなくす、紙の帳票を1つデジタル化する——効果が目に見える小さな案件から始めます。成功体験が、次の学習意欲につながります。
  • 3. 外部は“伴走”に使う:外部コンサルやベンダーは、正社員として採用するのではなく、育成の伴走役として使います。答えを渡すだけの関係ではなく、考え方を一緒に組み立てる関係です。

ラクスルなどのITスタートアップで事業開発をしていた頃、非エンジニアの担当者がSQLの初歩を覚えて自分でデータを見られるようになるだけで、意思決定のスピードがまったく変わるのを何度も見ました。専門性の高い部分を全部自分でやる必要はありません。「自分の業務のどこにデジタルを当てるべきか」が分かる人を増やすことが、内製化の実体です。

一段深く=“ジョブディスクリプションから採る”発想を疑う

ここでいったん、目的から設計しなおしてみます。そもそも「DX人材」という求人票の職種名は、誰かがすでに決めた役割の器です。器から先に用意して、そこに合う人を探そうとするから、市場にいない人を探し続けることになる。

デザイン思考の基本は、既存の枠組みを前提にせず、解決したい目的から設計しなおすことです。DXで本当に達成したいのは「デジタル人材の採用」ではなく、「業務や事業を、今よりもよい形に変え続けられる状態」のはずです。だとしたら、問うべきは「どんな肩書の人を採るか」ではなく、「誰が、どこまで、何を変えられるようになれば目的に届くか」です。この問いに立つと、答えは一人の万能な人材ではなく、小さく変える力を持った人が、現場のあちこちにいる状態だと分かります。属人化していた業務改善のノウハウを、一人ではなく複数人で分散して持てるようにする——それ自体がDXの土台になります。会社全体のシステムまでの全体最適も、まずはこの現場の1歩から積み上がっていくものです。

よくある質問

Q. 社内でDX人材を育てるには、どれくらい時間がかかりますか?

A. 「一人前の専門家」を目指すなら年単位ですが、「小さな業務改善を自分で回せる」段階なら数ヶ月で十分に届きます。最初の一件を成功させることを目標にすれば、想像より早く手応えが出ます。

Q. ITが苦手な社員でも育成できますか?

A. できます。むしろ大事なのはITスキルより「業務のどこが非効率かを言語化できるか」です。ツールの使い方は、その気づきの後からで十分間に合います。

まとめ

DX人材は、外から「採用してくる」ものだと思わなくていい。むしろ、現場を一番知っている人にデジタルの道具を持たせるほうが、確実で早い道です。まずは、社内で一番「ここ、非効率だと思う」と言える人を一人思い浮かべてみてください。そこから、小さな一件を任せてみる。それが内製化の最初の一歩です。まだ何から手をつけるか自体が固まっていない場合は、中小企業のDXは“何かを買う”ことじゃない|何から始める4段階もあわせてご覧ください。

自社に合った育成の進め方やDX推進の設計については、システム・DX支援お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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