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コラムその常識、ちょっと待った

業務フロー図の作り方は“きれいに描く”ことじゃない|可視化の第一歩

業務フロー図の作り方は“きれいに描く”ことじゃない|可視化の第一歩

業務フロー図というと、四角と矢印できれいに整えた、コンサルが納品書に載せるような“あの図”を思い浮かべませんか。ソフトを使って線をきちんと引き、記号を正しく揃えて、初めて人に見せられる——そう思って、着手する前から身構えてしまう。

でも、物流の現場や生産管理に携わってきた立場から見ると、この順番は逆です。フロー図は“見せるための完成品”である前に、“詰まりを見つけるための道具”です。きれいさを最初に求めると、むしろ大事な発見を見逃します。

業務フロー図とは? ― まず1分だけ

業務フロー図とは、ある業務の開始から完了までを、「作業」「判断」「担当者」の順に並べて描いた図です。四角は作業、ひし形は判断、矢印は流れ、といった記号の使い方には一定の型がありますが、社内で共有するだけなら、BPMN(Business Process Model and Notation)のような厳密な記法を最初から覚える必要はありません。担当部門ごとに横一列(レーン)を分けて描く「スイムレーン図」にすると、どこで部門をまたぐかが一目で分かります。

“きれいに描く”という思い込み

私が最初に驚いたのは、ラクスルで事業開発をしていたときのことです。ある業務フローの整理を頼んだメンバーが、時間をかけて美しい図を仕上げてきました。矢印の角度も記号もそろっていて、見た目には申し分ない。ところが、それを現場の担当者に見せると、「あれ、この承認、実際は飛ばしてますよ」と言われてしまいました。図は美しかったけれど、現実を映していなかったのです。

きれいな図を先に目指すと、人は無意識に「きれいに収まる流れ」を描いてしまいます。実際には分岐だらけで、同じ確認を二度している、担当者が休みだと止まる、そんな凸凹を、見た目のために均してしまう。フロー図の価値は、その凸凹(詰まっている場所)を見つけることにあるのに、完成度を優先すると、いちばん見たいはずのものが消えてしまいます。

まず手書きから始める、私がやっている順番

だから私は、最初の一枚は必ず手書きにしてもらいます。模造紙とペン、あるいは付箋。ソフトはその後で構いません。

  • 1. 実際にやっている人に描いてもらう:管理者や設計担当ではなく、その作業を毎日している本人にペンを持たせます。マニュアル通りではなく、「実際にやっていること」を描いてもらうのが肝心です。
  • 2. 一つの作業を一枚の付箋にする:工程を頭の中で並べず、手を動かしながら付箋を貼っていく。途中で「あ、これも実はやってる」と描き足しが増えるほど、良い兆候です。
  • 3. 止まる・戻る・待つ、を赤ペンで囲む:矢印が一本道でなく、途中で戻ったり、誰かの承認待ちで止まったりする場所を目立たせます。ここが“詰まり”の候補です。

ある製造業の現場でこの手順を試したところ、出荷前の検品を同じ内容で二人が別々に行っていることが分かりました。誰も指示していないのに、なぜか二重になっていた。きれいな図から作っていたら、こういう「重複」はきっと均されて、一本の線に整理されてしまっていたはずです。手書きの粗さが、粗さのまま残っていたから見つかった発見でした。

描いてみると、必ず出てくる三つの詰まり方

手書きのフロー図を何十枚も見てきて気づいたのは、詰まりの形にはだいたい三つの型がある、ということです。

詰まりの型

よくある症状

問い直す手がかり

承認待ち

担当者が不在だと、そこで数日止まる

承認の目的に立ち戻り、代理承認や事後報告に変えられないか

二重の作業

同じ確認・同じ入力を、別の人がもう一度行っている

目的が同じなら一本化、目的が違うなら観点を分担する

口頭・記憶頼み

「あの件は、あの人に聞かないと分からない」

紙一枚・チャット一言でいいので、必ず記録が残る形に置き換える

三つに共通するのは、どれも“人”に依存している点です。承認する人、確認する人、覚えている人。矢印を一本引くだけで、この依存関係が線としてはっきり見えてきます。

一段深く ― なぜフロー図が「設計のやり直し」のきっかけになるのか

ここでもう一段、視点を変えてみます。フロー図を描く本当の目的は、現状を正確に写し取ることではありません。デザイン思考——今あるやり方を前提にせず、目的に立ち戻って設計しなおす発想の入口として使うことです。

詰まりを見つけたら、次に問うのは「この作業は、何のためにあるのか」です。二重検品の例で言えば、目的は「不良品を出荷しないこと」。それなら、二人が同じ観点で見るのではなく、一人が数量、もう一人が外観というように観点を分ければ、時間は半分になり、見落としはむしろ減ります。作業の“やり方”を疑う前に、作業の“目的”に戻る。これが、現状(As-Is)の図から、あるべき姿(To-Be)の図へ進む唯一の道筋です。

承認待ちの詰まりも同じです。目的を「不正な支出を防ぐこと」まで絞り込むと、金額の小さな経費精算まで、部長・役員と何段階もの承認ルートに乗せる必要はないと分かります。金額で線引きをするだけで、承認待ちの詰まりの多くはその場で消えます。詰まりを見つけたら、詰まりそのものを取り除こうとする前に、なぜそこに関門があるのかへ一度戻ってみてください。

物流センターでも工場でも、現場の小さな一歩から、それを束ねる経営の仕組みまでを、同じ「目的は何か」という問いで貫いて見る。これが、私がフロー図を使うときにいちばん大事にしている視点です。属人化は“全部なくそう”としないで書いたように、まず見える形にすることは、標準化より先にくる一歩でもあります。

よくある質問

Q. 業務フロー図はどんなソフトで作ればいい?

A. 最初の一枚は紙とペンで十分です。詰まりを見つけたあと、社内で共有・更新しやすい形にする段階になって初めて、表計算ソフトの図形機能や、Lucidchart・draw.ioのような作図ツールに清書すれば足ります。ソフト選びを先に悩む必要はありません。

Q. どの業務から描き始めればいい?

A. いちばん「揉めている」「時間がかかっている」と現場で言われている業務からで構いません。詰まりの自覚がある業務ほど、描いた瞬間に発見があります。

まとめ

業務フロー図は、きれいに描くための作文ではありません。全部を美しく仕上げようとしなくていい。詰まりを見つけ、目的に立ち戻って設計しなおすための道具です。まずは今日の作業を、紙に手書きしてみてください。

業務フローの可視化から先の進め方は、BPRの進め方は“システムを入れる”ことじゃない|6ステップでも扱っています。自社のフロー整理やBPRのご相談は、業務改善・BPRのご支援お問い合わせからお気軽にどうぞ。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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