BPRの進め方は“システムを入れる”ことじゃない|6ステップ

「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)をやろう」と言うと、真っ先に出てくるのが「じゃあ、どのシステムを入れますか」という話——これ、よくある光景ではないでしょうか。予算をつけ、ベンダーを呼び、要件定義から始めます。でも、それでうまくいった話を、私はあまり聞いたことがありません。
物流の現場で生産管理に携わり、ITスタートアップで事業開発とSCM構築をしてきた立場から言うと、BPRの失敗はほぼ例外なく「順番」が原因です。システムが悪いのではなく、システムを入れる前にやることを飛ばしています。
BPR(業務プロセス改革)とは? ― まず1分だけ
BPRとは、既存の業務のやり方を部分的に改善するのではなく、目的に立ち返って業務プロセスそのものを設計し直すことです。1990年代に米国で提唱された考え方ですが、本質は古びていません。「今のやり方を効率化する」のではなく、「そもそも何のためにその作業があるのか」から問い直す点が、通常の業務改善と違うところです。
“システムを入れる”ことから始めると、たいてい失敗する
じつは、私自身も最初はこの順番を間違えていました。物流センターで生産管理をしていたころ、在庫管理システムを入れ替えれば欠品も過剰在庫も減る、と考えていた時期があります。でも実際にやってみると、システムは新しくなっても、現場の担当者は結局これまで使っていたExcelに数字を転記し直していました。理由は簡単で、新システムの入力項目が、現場の実際の作業手順と合っていなかったからです。
システムというのは、決めたルールを速く・正確に回すための道具にすぎません。ルールそのものが古いまま、あるいは誰も合意していないまま道具だけ変えても、現場は結局、自分たちのやり方でシステムを迂回します。私はこれを何度も見てきました。BPRの本題は、システムの前にある「業務の設計図」の方にあります。
BPRの進め方 ― 6つのステップ
私が支援に入るときに必ず踏む順番は、決まっています。飛ばしていい工程はひとつもありません。
- 1. 現状分析(可視化):誰が・いつ・何を・どういう手順でやっているかを、実際に現場で見て書き出します。担当者に聞くと「たぶんこうです」と答えが返ってくることが多いですが、実際の動きは違っていることがほとんどです。
- 2. 課題の特定:可視化した流れの中から、時間がかかっている箇所、二重入力になっている箇所、属人化している箇所を洗い出します。全部を一度に直そうとせず、影響の大きい詰まりを絞り込みます。
- 3. あるべき姿の設計:「今のやり方をどう楽にするか」ではなく、「この業務は、そもそも何のためにあるのか」から考え、目的に合う新しい流れを描きます。ここが最も時間をかけるべき工程です。
- 4. 業務再設計:あるべき姿を、実際の手順・役割分担・承認のルールに落とし込みます。誰が何を判断し、どこで情報が渡るかを具体的に決め直します。
- 5. システム化:ここで初めて、ツールの検討に入ります。決まった業務ルールを速く正確に回すために、必要な機能だけを備えたシステムを選ぶか、既存のものを使い方から見直します。
- 6. 定着化:現場に運用を任せ、実際に回るかを見ます。新しい流れが定着するまでは、必ず揺り戻しが起きます。ここで手を離さず、数字で効果を確認しながら微調整します。
順番を守ると、システム化にかける費用も工数も、結果的に小さくなります。何を求めているかが先に決まっているので、ベンダーへの要件も具体的に出せるからです。
順番を飛ばすと、どこでつまずくか
支援の相談を受けていると、つまずき方には決まったパターンがあります。
- 現状分析を飛ばして「あるべき姿」から入る:経営層や外部のコンサルタントだけで理想形を描き、現場に降ろします。現場は「今の困りごと」を誰にも聞かれていないので、新しい流れに納得できず、結局は元のやり方に戻ります。
- いきなり全社の全プロセスを対象にする:受注から出荷、経理、人事まで一度に手をつけようとして、途中で息切れします。私が現場で見てきた中で、最後まで走り切れたのは、対象範囲を一つの部門・一つの流れに絞ったケースだけでした。
- 業務ルールを決める前にシステムを選定してしまう:先にパッケージソフトを契約し、後から「うちの業務に合わせてカスタマイズしてほしい」と依頼します。要件が後追いになるため、追加開発費がかさみ、当初の見積もりを大きく超えます。
共通しているのは、どれも「システム化」や「あるべき姿」を先に決め、現状分析という地味な工程を省いている点です。地味に見える工程ほど、後工程の費用と手戻りを左右します。
一段深く ― “目的から設計しなおす”という視点
この6ステップの背骨にあるのは、デザイン思考です。デザイン思考とは、今あるものを前提にせず、使う人の目的からもう一度組み立て直す考え方を指します。BPRも同じで、「今の業務フロー」を前提に効率化するのではなく、「この業務は誰のために、何を実現するためにあるのか」に立ち戻って設計し直します。だからこそ、部門をまたいだ分断や、長年誰も疑わなかった手順にもメスを入れられます。
現場の1歩の動きから、それを管理する経営の仕組みまで——全体を見て初めて、どこを変えれば効くかが見えてきます。システムはその最後の一手であって、最初の一手ではありません。
ITスタートアップで事業開発をしていたときも、これは同じでした。新しいサービスの立ち上げでは、既存のやり方が存在しないぶん、逆に「何のためにこの業務が要るのか」を最初から問える強みがあります。中小企業のBPRでは、長年の慣習がその問いを見えにくくしています。だからこそ、あえて現状分析という工程を一度差し込み、慣習を可視化してから目的に立ち返る手順が要るのです。
よくある質問
Q. BPRとDX(デジタルトランスフォーメーション)はどう違いますか?
A. BPRは業務プロセスそのものの設計変更を指し、DXはデジタル技術を使って事業や組織のあり方を変えることを指します。BPRで業務を設計し直したうえでデジタル化するのが、順序としては自然です。DXから入ると、古い業務フローをそのままデジタル化するだけになりがちです。
Q. どのくらいの期間・体制で進めればいいですか?
A. 対象範囲によりますが、現状分析からあるべき姿の設計までに、最低でも数週間はかけるべきです。ここを急いで飛ばした案件ほど、システム導入後にやり直しが発生しています。現場の担当者を巻き込まずに設計だけ外部に任せるのも、定着が進まない典型的な原因です。
まとめ
BPRは、システムを入れることではありません。現状分析→あるべき姿→業務再設計→システム化→定着、という順番を守ることそのものが、BPRの本体です。すべての工程を一気に進めなくていいのです。まずは、自社の業務を実際に見て、書き出してみることから始めてみてください。
自社の業務プロセスをどこから見直せばいいか整理したい方は、業務改善・BPRのご支援や私たちの支援の考え方、お問い合わせからご相談ください。
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この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。