LF&L株式会社
コラム

属人化は“全部なくそう”としない|標準化の前に知りたい順番

属人化は“全部なくそう”としない|標準化の前に知りたい順番

「あの人に何かあったら、うちは終わる」。中小企業の経営者や管理職と話していると、驚くほど頻繁にこの言葉を聞きます。そしてその直後に、決まってこう続きます。「だから早くマニュアル化して、属人化をなくさないと」。

物流・製造の現場を見てきた立場から言うと、この「なくす」という発想こそが、標準化がうまくいかない一番の原因だと感じています。属人化を敵として全部消そうとした会社ほど、途中で頓挫し、結局「あの人に聞く」に戻っていきます。

属人化とは? ― まず1分だけ

属人化とは、特定の業務のやり方や判断が特定の担当者個人に依存し、その人がいないと業務が回らなくなる状態を指します。手順が本人の頭の中にしかない、例外対応をその場の勘でさばいている、取引先との関係を個人が抱えています。これらはすべて属人化です。品質が担当者によってばらつき、退職・休職・異動が即座に事業リスクへ直結する点が、経営として問題視される理由です。

「なくす」ではなく「観察する」対象

属人化がリスクであること自体は事実です。しかし、ここで一度立ち止まってほしいのです。属人化は“起きてしまった”のではなく、“起きるだけの理由があって起きている”のです。

私が支援先の物流センターで実際に見た場面があります。出荷の締め時刻直前に、急な数量変更の電話が入ります。担当のベテランは、荷姿・積み順・トラックの空き状況を頭の中で組み替え、数分で答えを出します。マニュアルには載っていない判断です。彼を「属人化の元凶」として排除すれば、その日の出荷は止まります。属人化している業務の多くは、その人が優秀だからこそ、複雑さを吸収して現場が成り立っているという側面を持っています。ここを見ずに「悪だから無くせ」と迫れば、現場は静かに反発し、標準化は形だけで終わります。

営業の現場でも似た構図に出会います。長年の担当者が、顧客の値引きの機微や納期の融通が利く担当者を、契約書には書かれない形で個人の記憶と関係性の中に抱えています。これも属人化ですが、同時に「その人にしか作れない信頼」でもあります。危険なのは属人化そのものより、それが誰にも見えていないことです。見えていれば手を打てますが、見えていなければ、退職の挨拶を聞いた日に初めて事の重大さに気づくことになります。

起きる理由は、たいてい3つに整理できる

表面的な「マニュアルがない」で終わらせず、その奥にある構造を見ます。

① 業務が複雑で、標準化のコストが高い

例外分岐が多い業務を律儀にマニュアル化しようとすると、条件分岐だらけの分厚い文書ができ、誰も読まなくなります。だから誰も手をつけません。これは怠慢ではなく、割に合わないという合理的な判断の結果です。

② 標準化する“動機”が現場側にない

自分の仕事を誰でもできるようにすれば、自分の代わりがきく人材になる、と感じる人は少なくありません。製造業の現場でよく使われる多能工化(一人が複数の工程をこなせるように育てる考え方)も、評価制度が伴わなければ「損な役回り」としか映らないのです。仕組み(評価・役割)側の設計不足が動機を奪っています。

③ 経営が“見える化”を本気で求めていない

回っているうちは誰も問題にしません。属人化が顕在化するのは、たいてい担当者が辞めたあとです。優先順位が上がらないまま、静かに先送りされ続けます。

だから“いきなり標準化”は失敗する

3つの原因を放置したままマニュアルだけ作っても、①複雑さは消えず、②現場に動機はなく、③経営の本気度は伝わりません。マニュアルは完成した瞬間から更新が止まり、数か月後には「念のため、あの人に確認して」に戻ります。属人化の解消は、ツールやマニュアルの精度の問題ではなく、手を付ける順番の問題なのです。

一段深く:デザイン思考で見ると「設計不足」の結果

ここで私が持ち込むのは、音響設計や事業開発で使ってきたデザイン思考——「今あるものを前提にせず、目的から設計しなおす」姿勢です。属人化対策の目的は「属人化をゼロにすること」ではありません。担当者が変わっても事業が止まらないことが目的であり、属人化はその目的に対する手段の選び方の話にすぎません。

目的から設計しなおすと、打ち手の順番は自然とこう変わります。

  • 1. 可視化する:まず「誰が・何を・どう判断しているか」を洗い出します。標準化より前に、現状を見えるようにする工程です。
  • 2. 切り分ける:業務を「標準化すべきもの」と「その人の裁量に任せてよいもの」に分けます。すべてを標準化しようとしないのが要点です。
  • 3. 標準化する所“だけ”標準化する:定型的で発生頻度の高い業務から着手します。例外対応や高度な判断は無理に引き剥がさず、知識を引き継ぐ設計に切り替えます。

③は経営学で言うSECIモデル(一橋大学の野中郁次郎らが提唱した知識創造の枠組み。個人の暗黙知を、対話や言語化を通じて組織の形式知に変えていく考え方)に近い発想です。マニュアルという「形式知の器」を先に用意するのではなく、まず本人の頭の中にある勘所を、対話を通じて周囲に染み出させます。器は後からで構いません。ポイントは、「残してよい属人化」を認めることです。すべてを平準化するのが目的ではなく、“止まらない会社”を設計するのが目的だからです。

経営者が最初にやるべき一手

全社マニュアル化を号令するのではなく、まず「この業務が止まったら一番困る」という1点を選び、そこだけ可視化してみてください。属人化は、全部を一気に解こうとすると失敗し、“困る順”に一つずつほどくと着実に進みます。小さく始めて効いた実感を現場に持たせることが、次の一歩の燃料になります。

よくある質問

Q. マニュアル化と属人化の解消は同じこと?

A. 違います。マニュアル化は解決手段の一つにすぎず、複雑さ・動機・経営の本気度という3つの原因を放置したままマニュアルだけ作っても定着しません。可視化と切り分けが先、マニュアルは後です。

Q. 属人化はゼロにすべきですか?

A. いいえ。目的は担当者が変わっても事業が止まらないことであり、属人化そのものをゼロにすることではありません。頻度が高く定型的な業務は標準化し、高度な例外判断は「任せてよい属人化」として知識の引き継ぎ設計に回す——この切り分けが要点です。

まとめ

属人化とは、業務が特定個人に依存する状態のこと。しかし「悪だから無くす」ではなく、なぜ起きているのかを見て、順番を守って解く——これが失敗しないための勘所です。可視化 → 切り分け → 部分的な標準化。そして、残してよい属人化は残します。全部を一度になくそうとしなくていいのです。まずは「止まったら一番困る1点」から始めてみてください。

属人化の可視化や業務の切り分けについては、業務改善・BPRのご支援お問い合わせからお気軽にご相談ください。

あわせて読みたい

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

この記事に関するご相談

業務改善・DX推進について、まずはお気軽にご相談ください。

お問い合わせ
← コラム一覧に戻る