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BPRはどの業務から手を付けるのか|対象を選ぶ4つの物差し

BPRはどの業務から手を付けるのか|対象を選ぶ4つの物差し

「よし、BPRをやろう」と決めた翌日、経営会議で誰もが固まる場面を、私は何度も見てきました。号令はかかったのに、翌週の月曜に何から手をつけるかが決まりません。結局「まずは意識改革から」という、誰も反対しないけれど誰も動かない結論に落ち着き、そのまま立ち消えになっていきます。そんな進み方です。

物流・製造の現場でBPRの設計に携わってきた立場から言うと、迷いの原因ははっきりしています。全社の業務をいっぺんに組み直すことは、現実には誰にもできません。BPRは必ず「どこから」を選ぶ作業から始まります。だから最初に必要なのは意気込みではなく、対象を選ぶための物差しです。

BPRとは?:まず1分だけ

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは、今のやり方を前提にせず、業務の目的から手順・役割・情報の流れを組み直す取り組みです。似た言葉に“業務改善”がありますが、スコープが違います。業務改善は今のやり方を少しずつ良くする発想、BPRは目的から作り直す発想です。この違いは別記事のBPRとは?“ただの業務改善”じゃないで詳しく書きました。この記事で扱うのは、その先の話——BPRをやると決めたあと、どの業務から手をつけるか、です。

対象を選ぶ4つの物差し

私が対象業務を選ぶときに見ているのは、次の4つです。どれも「感覚」ではなく、現場を見れば確認できる状態を指します。思いつきで並べたものではなく、複数の現場で「これに当てはまる業務から着手すると、効果が周囲にも波及しやすい」と確認してきた順です。

  1. 部門をまたいで滞留しているか:ある部門の仕事が終わっても、次の部門に渡るまでに待ち時間が生じている業務です。情報や書類が部門の壁で止まり、誰も急かさないため、日単位・週単位の滞留が当たり前になっています。該当する業務の例:営業が受けた注文情報が、紙の伝票やメールの転記を経て、数日がかりでようやく生産計画に反映される受注処理。滞留の場所を洗い出す出発点は、まず流れを一枚の図にして可視化することです(詳しくは業務可視化とは?“見えればいい”じゃない)。
  2. 同じ情報を何度も入力しているか:同一のデータを、部門ごとに違うシステムや帳票へ、その都度手で打ち直している業務です。入力のたびに転記ミスの芽が生まれ、しかも入力した本人以外は原本の正しさを確認できません。該当する業務の例:受注をExcelに入力し、生産管理担当がそれを見ながら生産管理システムへ再入力し、出荷担当がさらに紙の伝票へ書き写す、といった三重入力の業務。
  3. 人が辞めると止まるか:特定の担当者の頭の中や、その人しか触れないExcelマクロに手順が閉じ込められている業務です。休職・異動・退職のたびに、その業務だけが止まったり、判断の質がぶれたりします。該当する業務の例:発注量の判断を、マニュアルのないまま長年の勘に依存している、ベテラン一人がかりの発注業務。
  4. 件数が多いか:1件あたりの無駄はわずかでも、月間で数百件・数千件と発生していれば、積み重なった損失は小さくありません。逆に件数が少なければ、根本から作り直すコストに見合わないことのほうが多くなります。該当する業務の例:月に数百件動く受発注処理や、日常的に繰り返される検品記録の起票業務。

BPRではなく業務改善で足りる業務

4つの物差しのどれにも強く当てはまらない業務は、無理にBPRの対象にする必要はありません。具体的には、1つの部門・1人の担当者で完結し、発生件数も月に数件程度の業務です。こうした業務は、根本から設計をやり直すコストのほうが、得られる効果より大きくなりがちです。整理すると、次のようになります。

視点

BPRの対象になりやすい状態

業務改善で足りる状態

部門をまたぐか

2つ以上の部門を情報や書類が行き来する

1つの部門・1人の担当者で完結する

入力の重複

同じ情報を複数のシステムや帳票に入力し直している

入力は一度で、転記や二重チェックがない

属人化

担当者が不在だと業務が止まる

手順書があれば誰でも代われる

件数・頻度

月間で数百件以上、日常的に発生する

月に数件程度で、例外対応に近い

この場合に効くのは、根本から作り直すBPRではなく、手順書の整備や小さな改善の積み重ねです。当てはまらない業務まで無理にBPRの土俵に乗せると、対象が広がりすぎて、どこも中途半端なまま息切れします。

一段深く:なぜ“声が大きい業務”を最初に選ぶと外すのか

対象業務を選ぶ場面で、最初に候補に挙がるのはたいてい「困っている人の声が大きい業務」です。現場から悲鳴が上がっている業務、担当者が疲弊している業務は、経営会議でも真っ先に名前が挙がります。ですが、声の大きさと、全体最適への効き目は、必ずしも一致しません。

製造業・物流業の支援で共通して見てきた構図があります。声が大きい業務は、実はすでに周囲が無理をしてフォローする体制ができていて、苦しいなりに持ちこたえていることが多いのです。一方、部門の境目で情報が積み替えられている場所は、当事者の誰から見ても「自分の担当外」に映るため、声が上がりにくいまま静かに損失を出し続けます。

たとえば、生産管理と物流の境目にある出荷指示のやり取りです。生産側は「作り終えたら報告している」つもりで、物流側は「指示が来るまで動けない」と思っています。双方に悪気はなく、それぞれ自分の仕事はきちんとこなしているのに、境目だけがすり抜けているのです。転記のたびに数字が微妙にずれる、締め日直前に必ず問い合わせが集中する——そうした違和感は、誰か一人の悲鳴にはならず、関係者全員の“ちょっとした我慢”として分散してしまうからです。

デザイン思考の言葉で言えば、これは「誰の声が大きいか」ではなく「どこで目的が途切れているか」を見る視点の転換です。4つの物差しのうち、私が最初に確認するのが1つ目の“部門をまたいで滞留しているか”であるのも、この構図があるからです。声の大きさではなく、境目で選びます。それだけで、対象業務の選び方は大きく変わります。

よくある質問

Q. 対象業務は一度に複数選んでもいいですか?

A. まずは1つに絞ることをお勧めします。4つの物差しに複数当てはまる業務があると、あれもこれも直したくなりますが、対象を広げるほど関係部門も増え、合意形成に時間がかかります。最初の1件で「流れを変えると何がどう楽になるか」を社内で共有できてから、次の対象に広げるほうが、結果として早く進みます。

Q. 対象を決めたあと、何から進めればいいですか?

A. 対象が決まったら、次は進め方です。BPRは“システムを導入すること”だと思われがちですが、実際にはそうではありません。順番の詳しい話は別記事のBPRの進め方は“システムを入れる”ことじゃないにまとめていますので、あわせてご覧ください。

まとめ

全社をいっぺんに組み直すことはできません。だからBPRは、必ず「どこから」を選ぶ作業から始まります。部門をまたいで滞留していないか、同じ情報を何度も入力していないか、人に依存していないか、件数は多いか——この4つの物差しに強く当てはまる業務を、まず1つだけ選んでみてください。対象を欲張って広げないことが、遠回りに見えて実は一番の近道です。対象の選び方に迷うときや、選んだあとの進め方については、お問い合わせからご相談いただけます。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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