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コラムその常識、ちょっと待った

BPRはどの業務から手を付けるか|対象の選び方5つの物差し

BPRはどの業務から手を付けるか|対象の選び方5つの物差し

「まずは全社の業務をすべて棚卸ししましょう」。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の号令がかかると、こんな一声から始まることがよくあります。各部署に一斉に声をかけ、ヒアリングを並行して走らせます。半年後、資料は分厚くなったのに、実際に変わった業務はほとんどありません。そんな場面を何度も見てきました。

コンサルの立場から言うと、失敗の芯は「どの業務から手を付けるか」を決めずに走り出したことにあります。効果が一番大きそうな業務、経営者が気にしている業務から着手したくなる気持ちはよく分かります。ただ、選び方を間違えると、BPRという取り組みそのものに“やっても変わらない”という空気がついてしまいます。

BPRとは:まず1分だけ

BPR(Business Process Reengineering)とは、既存の業務の流れを前提にせず、目的に立ち返って業務プロセスをゼロから設計し直す取り組みです。BPRの進め方そのものは別記事で手順としてまとめているので、ここでは対象業務の選び方に絞ってお話しします。

「全社一斉」はなぜ破綻するのか

全社一斉のBPRが崩れる理由は単純です。並行して走る業務が多いほど、経営陣も現場も注意が分散し、どこにも十分な検討時間を割けなくなります。ヒアリングだけ終えて設計は後回し、という業務が積み上がっていきます。

業務改善は“気合いで頑張る”ことじゃないと以前書きましたが、全社一斉も同じ構図です。気合いで範囲を広げるほど、1つ1つの業務にかける検討の密度は薄くなります。密度の薄いBPRは、現場から見れば「またヒアリングだけで終わった」という記憶しか残りません。

対象を選ぶ5つの物差し

私が最初の対象を選ぶときに見ているのは、件数・手戻り・部門またぎ・人依存・納期影響の5つです。どれも数字や事実で確認できる項目で、感覚で選ばないための物差しになります。

物差し

高いとどうなるか

最初の対象に向くか

件数(月間の処理件数)

改善の効果が数字で見えやすくなる

向く。効果を示すには一定の母数が要る

手戻り(やり直し・差し戻しの発生率)

ムダが可視化しやすく、改善余地が明確になる

向く。手戻りが多いほど「直した効果」を語りやすい

部門またぎ(関わる部署の数)

合意形成に時間がかかり、決めるまでが長引く

向かない。最初の1本は関わる部署を絞りたい

人依存(特定の担当者しか回せない度合い)

設計を変えるほど当人の抵抗が強くなる

向かない。属人化が強い業務は後回しにする

納期影響(遅延が顧客・売上に直結するか)

試行錯誤の余地が狭くなる

向かない。失敗できない業務で最初の実験はしない

5つとも、感覚ではなく手元の記録から数えられます。件数は受発注や申請の一覧を数えるだけで分かりますし、手戻りは差し戻し・やり直しの履歴が残っていれば集計できます。部門またぎは承認や確認のために回るハンコの数、人依存は「その人が休んだら止まる工程かどうか」、納期影響は契約や取引条件で遅延がどこまで許容されるかを見れば、それぞれ答えが出ます。

5つを重ねて見る:最初の1つの選び方

表を単独で見ると、5つとも「高い方がやりがいがありそう」に見えます。でも最初の対象に向くのは、件数と手戻りは十分にありながら、部門またぎ・人依存・納期影響は低めの業務です。効果を示せて、決めるまでが早く、失敗しても被害を小さく抑えられます。この組み合わせが、最初の1本にふさわしい理由です。

実際に選ぶときは、勘ではなく業務フロー図を書いて、件数と手戻りの発生箇所を洗い出すところから始めます。フローに書き起こすと、どこで差し戻しが起きているか、誰か1人にしか処理できない工程がどこにあるかが、驚くほどはっきり見えてきます。

候補が複数挙がったときの絞り込み方は、私の場合は決まっています。まず部門またぎと人依存が最も低い候補まで足切りし、そのうえで件数と手戻りが最大のものを選びます。納期影響は最後の確認に使い、少しでも顧客対応に響く懸念があれば、その時点で候補から外します。順番を逆にして「効果の大きさ」から絞り込むと、結局は部門またぎが多く人依存も強い、重い業務ばかりが残ってしまいます。

避けたい最初の対象

逆に最初の対象として避けたいのは、基幹システムに直結する業務、特定のベテランしか回せない業務、納期遅延がそのまま顧客対応に響く業務です。たとえば月次の決算や締め処理は、関わる部署が多く、特定の担当者しか全体像を把握していないことが多く、納期を1日でも動かすと影響が大きい業務の典型です。効果が大きい分、失敗したときの反動も大きく、最初の1本には重すぎます。順番をあとに回すだけで、対象から外すという意味ではありません。

一段深く:最初に選ぶべきは「効果」でなく「型」

デザイン思考の軸で見ると、この選び方は「何を目的に置くか」という話に行き着きます。BPRの目的を“最大の効果を出すこと”に置くと、自然と一番重たい業務を最初に選びたくなります。でも私がコンサルの現場で見てきたのは、最初に選ぶべきは効果が最大の業務ではなく、型を作れて成功を見せられる業務だということです。

最初の1本で「決めて、変えて、効果が出た」という一連の型を社内に見せられれば、2本目・3本目は現場側から手が挙がるようになります。逆に最初の1本を最重量級の業務にぶつけて時間切れになると、以降の全部の業務が「またあの二の舞」という目で見られてしまいます。全社一斉の落とし穴は、この“型を見せる”という順番を飛ばしてしまうことにあります。

ここでいう型とは、業務の中身そのものではなく、決め方の手順です。誰にヒアリングし、どの単位で現状を書き出し、誰が最終判断を下し、変更後をどう周知するか。この手順が1本目で固まれば、2本目からは検討の速度が目に見えて上がります。逆に手順が固まらないまま複数の業務を並行させると、1本ごとに毎回やり方を試行錯誤することになり、結局どれも時間切れで止まってしまいます。

よくある質問

Q. 最初の対象は1つに絞るべきですか、複数並行してもいいですか。

A. 最初は1つに絞ることをおすすめします。並行させると、経営陣も現場も注意が分散し、どの業務にも十分な検討時間を割けなくなります。1本で型を作ってから対象を広げるほうが、結果的に早く進みます。

Q. 5つの物差しで数字が出せない業務はどうしますか。

A. 数字が無いこと自体が、その業務が属人化していたり、記録が残っていなかったりする証拠です。まず件数と手戻りだけでも1〜2週間記録を取り始め、数字が見える状態にしてから対象として検討します。記録すら取れない業務は、それだけで人依存が高いという判定材料になります。

まとめ

BPRの対象を選ぶときは、効果の大きさだけで飛びつかないことです。件数・手戻り・部門またぎ・人依存・納期影響の5つを並べ、まず部門またぎと人依存と納期影響が低い業務から、型を作ることを目指してみてください。全部の業務を一気に変えなくていいのです。まずは1つ、確実に変わる業務からで十分です。

対象業務の選び方や進め方の設計でお悩みでしたら、お問い合わせからご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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