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現場がDXに抵抗する本当の理由|反対ではなく合理的な警戒

現場がDXに抵抗する本当の理由|反対ではなく合理的な警戒

DXがなかなか前に進まない現場を見ると、「うちは保守的だから」「新しいものへの拒否反応が強いから」と結論づけたくなりませんか。会議では誰も反対しないのに、いざ始めると現場の手が止まります。よくある光景です。

物流・製造の現場で生産管理の実務に携わり、いまはDXコンサルタントとして複数の現場に入ってきた立場から言うと、この結論は半分しか当たっていません。現場が抵抗するのは、変化そのものが嫌だからではなく、これまで自分たちが工夫して回してきた仕組みを壊されるかもしれない、という合理的な警戒からです。その警戒の中身は、性質の違う3つの段階に分けられます。

「抵抗」とは何か:まず1分だけ

「抵抗」という言葉は、面と向かっての反対意見から、質問攻めにする、指示どおりに動いたふりをして元のやり方にそっと戻す、といった行動まで、性質の違う現象をひとまとめにした呼び方です。ひとつの感情ではなく、複数の異なる不安が重なってできています。ここを切り分けずに「抵抗されている」とだけ捉えると、対応も一律の説得や号令になり、かえって警戒を強めてしまいます。

抵抗は3段階に分けられる

私が現場でDX導入に関わるとき、抵抗の中身はだいたい次の3段階のどれか、あるいはいくつかの重なりです。段階が違えば、効く対応もまるで違います。

段階

現場が実際に警戒していること

効く対応

過去の失敗経験

前の取り組みが現場に定着せず、二重運用や尻拭いだけが残った記憶がある

いつ・何が起きたかを具体的に聞き取り、同じ轍を踏まない設計をあらかじめ示す

評価への不安

業務が可視化されることで自分のやり方や成果が査定にさらされる、長年の勘や経験の値打ちが下がる

何を評価基準にするかを先に握り、個人ではなく業務のプロセスを可視化する枠組みだと明示する

負荷増

今の忙しさに、入力作業や二重運用期間の手間がそのまま上乗せされる

移行期間の負荷をあらかじめ見積もり、誰がその負荷を巻き取るかを決めておく

段階1:過去の失敗経験

「前にもシステムを入れたが、結局現場が紙とExcelに戻った」——こういう記憶を持つ現場は、新しい提案を聞いた瞬間に身構えます。反対の理由を尋ねても「よく分からないが不安」としか返ってこないことが多いのですが、掘り下げると、たいてい具体的な失敗の記憶が出てきます。入力項目が多すぎて現場の手が回らなかった、システムと現場の実態がずれていて結局二重で記録していた、といった話です。ここで効くのは、抽象的な安心材料ではなく、その失敗と同じ構造をどう避けるかを具体的に示すことです。「今回は入力項目をここまで絞ります」「二重運用の期間はこれだけに区切ります」と、前回のどこがまずかったかに正面から答えます。過去の記憶を上書きするには、過去を無視するのではなく、過去を踏まえて設計し直したと分かる説明が要ります。

段階2:評価への不安

業務を可視化するというのは、裏を返せば、これまで見えていなかった仕事のやり方が見えるようになる、ということです。処理にかかっている時間、判断のばらつき、担当者ごとの手順の違い——これが数字や記録として残ると、自分の仕事ぶりが査定される材料になるのでは、という不安が生まれます。とくにベテランほど、長年培った勘や独自のやり方に自負があり、それが標準化の対象になることを、自分の価値が薄まることのように感じやすいです。属人化の解消を掲げる取り組みほど、この不安が強く出ます。属人化そのものは業務リスクとして解消したいものですが、それを担ってきた人の視点では「自分の経験を否定される」話に映りかねません。だからこそ、可視化の目的を「個人の評価」ではなく「業務のプロセス改善」だと、最初にはっきり言葉で線引きすることが要ります。

段階3:負荷増

移行期間は、たいてい旧システムと新システムを並行して動かします。入力は二度手間になり、覚えることも増えます。ただでさえ人手が足りない現場に、この負荷がそのまま乗ると、「言っていることは分かるが、今それをやる余裕がない」という、いちばん率直な抵抗が返ってきます。ここで大事なのは、負荷を精神論で乗り越えさせないことです。移行期間の長さと、その間の負荷がどれくらい増えるかをあらかじめ見積もり、誰がその負荷を巻き取るかを役割として決めておきます。巻き取り役を現場の誰か一人に押し付けると、その人がまた新たな抵抗の起点になります。DX人材の育成で書いたように、外から採用した専任者に丸投げするのではなく、現場を知る人を巻き込みながら育てる形にすると、負荷の分担そのものが現場の理解を深める機会になります。

一段深く:抵抗は設計のヒントである

デザイン思考の軸は、目の前にあるものを前提にせず、目的から設計しなおすことです。この軸で見ると、抵抗は「乗り越えるべき障害」ではなく、「設計の抜け漏れを教えてくれる情報」に見え方が変わります。

私がこれまで支援に入った現場で、最初に強く異を唱えるのは、決まってその業務をいちばん長く、いちばん深く担当してきた人でした。新しいやり方の説明会で、真っ先に手を挙げて「それだと、こういうときに困る」と指摘してきます。最初は身構えます。でも指摘の中身を辿ると、その人が挙げる懸念は、たいてい実際の業務でいちばん際どい部分を突いていました。例外処理、取引先ごとの細かな違い、繁忙期だけの特別な段取り。設計する側が見落としていた条件を、いちばんよく知っているのが、いちばん強く反対する人だった、ということが何度もありました。

だから私は今、DX導入の設計に入るとき、最初に反対した人を「説得する相手」ではなく「設計に足りない情報を持っている人」として扱うようにしています。反対の声を黙らせる方向に力を使うのではなく、その声が指している具体的な業務の条件を拾いにいきます。抵抗の強さは、しばしばその人が握っている業務理解の深さに比例します。そう捉え直すと、抵抗の強い現場ほど、実は設計の精度を上げる材料を多く持っている、ということでもあるのです。

よくある質問

Q. 抵抗が強い現場ほどDXは諦めるべきですか

A. いいえ。抵抗の強さは、むしろその人の業務理解の深さの表れであることが多く、丁寧に段階を切り分ければ進められます。反対する人を避けるのではなく、懸念の中身を具体的に聞きにいくところから始めてください。

Q. 経営者は現場の抵抗にどう向き合えばいいですか

A. 一律に説得しようとせず、段階ごとに聞き方を変えてください。過去の失敗は「いつ・何が起きたか」を具体的に。評価への不安は「何を基準にするか」を先に握ります。負荷増は「移行期間の見積もり」と「誰が巻き取るか」を役割として決めます。段階を混同すると、答えるべき不安に答えられません。

まとめ

現場がDXに抵抗するのは、保守的だからではありません。過去の失敗経験、評価への不安、負荷増——それぞれ性質の違う警戒が重なっているだけです。全部を一度に解消しようとしなくていいのです。まずは目の前の抵抗がどの段階のものかを切り分けることから始めてみてください。中小企業のDXは何から始めるかでも触れましたが、進め方の順番を間違えなければ、抵抗は乗り越える壁ではなく、設計を磨く手がかりに変わります。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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