LF&L株式会社
コラムいまさら聞けない経営・DX用語

EDIは何を解決する仕組みなのか|FAXと受注入力が消える理屈

EDIは何を解決する仕組みなのか|FAXと受注入力が消える理屈

受注のFAXが届きます。担当者がそれを見ながら、自社の受発注システムに数字を打ち込み直す――そんな流れが、まだ日常にある会社は少なくありません。届いた紙は正しいのに、打ち込んだ数字だけが違います。締め処理の前に誰かが気づいて、電話で確認し直す――これが月に何度も起きているとしたら、原因は担当者の注意力ではありません。

物流・生産管理の現場で受発注のやり取りを見てきた立場から言うと、この光景の犯人はいつも同じです。同じ情報を、人が二度入力しています。EDIという言葉は通信規格の話に聞こえますが、実際に解決しているのはここです。

EDIとは:1分でわかる仕組み

EDI(Electronic Data Interchange・電子データ交換)とは、受発注や請求のデータを、企業間でシステムからシステムへ直接やり取りする仕組みです。取引先が発注した内容が、そのまま自社のシステムに数値として届きます。人が読んで打ち直す工程が、そこから消えます。まずはこれだけ覚えれば十分です。

EDIはDXの文脈で語られることもありますが、DXそのものではありません。DXは業務や事業の仕組みを作り直す取り組み全体を指し、EDIはその中の「データのやり取り方法」を変える一つの技術です。混同すると、EDIを入れただけで満足してしまい、肝心の業務設計が置き去りになります。

FAXと二重入力、何が消耗しているか

FAXやメールでの受注は、紙やPDFという「絵」でデータが届きます。絵は人間には読めても、システムにはそのまま流し込めません。だから誰かが目で読み、指で打ち直します。

この工程には、二つの負債が乗ります。一つは誤入力、もう一つは遅れです。桁を打ち間違える、単位を読み違える、締め時間に間に合わず翌日回しになる――どれも担当者の能力の問題ではなく、「人が変換する」という工程そのものが持つ確率的な欠陥です。

この負債は取引先の数に比例して増えます。5社なら誤差の範囲でも、50社になれば毎日どこかで突合が合わなくなります。担当者を増やしても、二重入力という工程自体は消えません。

しかも、この工程に貼り付いている時間は、本来は受注内容の確認や取引先とのやり取りに使えたはずの時間です。打ち直す量が増えるほど、担当者は「確かめる人」ではなく「入力する人」になっていきます。負債は誤入力や遅れだけでなく、その人の時間の使い道そのものにも及んでいます。

EDIの有無で、業務はどう変わるか

同じ受注業務を、工程ごとに比べてみます。

工程

EDIが無い場合

ある場合

受注データの受け取り

FAX・メール・電話で「絵」として届く

取引先システムから数値データで直接届く

自社システムへの反映

担当者が画面を見ながら手入力する

自動で受発注システムに取り込まれる

数量・単価の確認

目視で照合し、思い込みでの見落としが起きる

データ同士の突合なので不一致は機械的に検出される

出荷指示までの時間

入力担当者の手が空くまで待つ

受信と同時に処理を始められる

締め処理・請求

紙の伝票と入力履歴を人が突き合わせる

データが一貫しているので突合作業がほぼ不要になる

表にすると分かりますが、EDIが変えているのは「通信の速さ」ではありません。人が変換する工程そのものを、業務フローから抜いているということです。受発注のつながりを整えるという意味では、これはSCM(サプライチェーンマネジメント)の発想そのものでもあります。調達から物流までの流れを情報でつなぐ、その一区間をEDIが担っている、と捉えると分かりやすくなります。

導入を判断する材料

ここでよく聞かれるのが、「うちの規模でEDIは要るのか」という質問です。私の答えはいつも同じで、取引先の数でも、業界標準の有無でもありません。「同じ情報を何件、二度入力しているか」で決めます。

  • まず数える:受注1件あたり、FAXやメールを見て自社システムに打ち直している項目数と件数を、1週間だけ数えます。
  • 次に掛け算する:その件数に、誤入力の手戻り時間と、締め遅れによる特急対応のコストを掛けます。
  • 最後に比べる:EDI導入・維持のコストと、その数字を比較します。取引先ごとにフォーマットが違えば、変換の設計コストも乗せて考えます。

この二重入力を、人手で埋めている会社もあれば、RPAで自動転記して急場をしのいでいる会社もあります。RPAは「画面の操作を代わりにやる」対症療法として有効ですが、元の紙・PDFという形式そのものは変わっていません。EDIは、そのやり取りの形式自体を変える選択です。どちらが正解というより、二重入力の件数と、取引先との関係の長さで選ぶべきものだと考えています。

ここでもう一つ注意したいのは、検討の入口です。EDIの相談を受けると、真っ先に規格や接続方式の話になりがちです。専用回線か、Web-EDIか、取引先はどの方式に対応しているか。

技術の入口から入ると、検討そのものが止まってしまうことがあります。方式の選定は、専門の業者やシステム部門と詰めれば済む話です。まず明らかにすべきは、規格の名前ではなく「今、何が二重に入力されているか」。そこが分かって初めて、どの方式が自社と取引先の組み合わせに合うかを選べます。

一段深く:つながっても、変わらない会社がある

物流の現場でシステム化に携わっていたとき、気づいたことがあります。EDIを導入したはずなのに、現場の作業がほとんど変わらない会社があるのです。理由は単純で、取引先ごとに送られてくるデータの形式がばらばらだからです。結局、誰かがその違いを毎回手で吸収し、変換しています。通信の手段はデジタルになったのに、「人が変換する」という工程だけが生き残っている状態です。

ここから見えてくるのは、EDIの効き目を決めるのは「何社とつながっているか」ではなく「フォーマットを揃えられた取引先が何割あるか」だという構造です。目的は接続の本数を増やすことではなく、二度入力そのものをなくすことにあります。今ある通信手段を前提に「つなげば終わり」と考えるのではなく、何のためにつなぐのかから設計をやり直すと、優先すべき取引先の順番も、システムに求める要件も変わってきます。

実務でまずやるのは、主要な取引先から届くデータを並べて見比べることです。項目の名前も並び順も違うのが普通です。近い形式にまとめられる相手と、個別対応が避けられない相手が分かれてくれば、どこにEDIを効かせるべきかの優先順位も自然と決まります。

よくある質問

Q. FAXでの受注を一部残したまま、EDIを併用してもいい?

A. 問題ありません。取引先ごとにデジタル化への対応力は違います。二重入力の件数が多い取引先から優先的にEDIへ移し、残りはFAXのまま運用する、という段階的な進め方が現実的です。

Q. 小さな会社でもEDIは検討すべき?

A. 規模ではなく、取引先の数と受注頻度で考えます。少数の取引先と月に数件のやり取りなら、無理に導入せず今の運用で十分なこともあります。判断材料は前述の「二度入力の件数」です。

まとめ

EDIが解決しているのは、通信手段の古さではありません。同じ情報を人が二度入力しているという、業務フローの構造です。導入するかどうかは、取引先の数や業界標準ではなく、その二重入力が何件あるかで決めてください。まずは1週間、数えてみることから始めてみてください。

受発注のつながりを見直したい方は、お問い合わせからご相談ください。

この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

この記事に関するご相談

業務改善・DX推進について、まずはお気軽にご相談ください。

お問い合わせ
← コラム一覧に戻る