倉庫レイアウトとピッキング動線|歩く距離を減らす5つの手順

倉庫のレイアウトは、荷物が増えるたびに空いた場所へ棚を足していった結果——という会社を、私はいくつも見てきました。ピッキングが遅いと聞くと、担当者の手際やシステムの古さを疑いたくなりますよね。
物流の現場で生産管理に携わってきた立場から言うと、疑う順番が逆です。まず押さえておきたいのは、ピッキング効率を左右する一番大きな変数は「歩く距離」だという一点です。棚の並びを見た目のきれいさで決めていないか、まずそこから疑ってみてください。
倉庫の中で本当に時間を使っているのは「歩くこと」
ピッキング作業の内訳を洗い出すと、商品を手に取る時間よりも、棚から棚へ移動する時間の方が長いというのはよくある光景です。物流の現場では、ピッキング全体の作業時間のうち移動が占める割合が大きいと一般に言われます。数字は倉庫ごとに違いますが、傾向としては共通しています。効率化の的は、手さばきの速さではなく、歩く距離そのものにあるということです。
歩く距離を減らす5つの手順
やることは特別ではありません。順番を守ることが肝心です。まず現状を測り、出荷の実態に合わせて置き場所を決め、動線と管理の仕組みを整え、最後にまた測り直します。5つの手順を、効果と手間の目安と一緒に並べます。
最初の「歩数を測る」は、大がかりな道具がなくても始められます。歩数計を1週間だけ担当者に付けてもらう、ハンディターミナルに残っているピッキングの完了時刻から移動時間を逆算する、あるいは自分でストップウォッチを持って1件のピッキングに同行します。どれも数日で終わる小さな調査ですが、ここで出てくる「一番歩いている品目」「一番待たされる棚」が、次のABC分析の材料になります。順番を飛ばして2番目から始めると、勘に頼った配置替えになりがちです。
手順 | やること | 効果 | 手間 |
|---|---|---|---|
1. 歩数を測る | ピッキング担当に付いて実際に歩く、またはハンディの移動ログを見る | 「感覚」でなく「事実」で問題箇所が分かる | 小(数日の観察で足りる) |
2. 出荷頻度で並べ替える | 直近の出庫実績を頻度順にABCランク分けし、Aランクを入口や作業台の近くに寄せる | 移動距離の多くを占める「よく出る」品目の往復が減る | 中(在庫データがあれば集計だけで済む) |
3. 通路を一方通行に近づける | 行って戻るジグザグ動線を、ぐるっと回って戻る一方向の動線に変える | 同じ通路を二度歩く「戻り」の無駄が減る | 中〜大(棚の向きや通路幅の見直しが要ることがある) |
4. ロケーション管理を整える | 置き場所を台帳や記憶任せにせず、ロケーション番号をシステムやラベルで管理する | 「探す」時間がなくなり、指示と現物のズレが減る | 大(運用ルールの定着に時間がかかる) |
5. 定期的に測り直す | 半年〜1年に一度、手順1に戻って歩数と出荷傾向を測り直す | 季節変動や新商品でズレたレイアウトを早めに直せる | 小(一度仕組みを作れば繰り返すだけ) |
表の2番目、出荷頻度でのABCランク分けは物流の基本中の基本です。直近の出庫実績を多い順に並べ、上位からA・B・Cとランク分けする、それだけの作業ですが効果は大きいものです。Aランクの品目を入口やピッキング担当の定位置に近い「ゴールデンゾーン」に集め、動きの少ないCランクは奥や高い棚に回します。出荷頻度で置き場所を決めるこの発想は、在庫最適化の基本方針と根っこが同じです。倉庫のレイアウトと在庫の持ち方は、切り離して考えるものではありません。
表の3番目と4番目は、動線と置き場所の管理を仕組みにする段階です。ジグザグに行って戻る通路は、同じ棚の前を二度通ることが多く、そのぶん距離を余計に歩きます。棚の向きを整え、入口から奥へ進んで別の通路から戻るという一方向の動線に近づけるだけで、往復の無駄はかなり減ります。ロケーション管理も同じ発想です。「あの棚のあたり」という記憶頼みの置き場所を、番号で管理された固定ロケーションに変えます。さらに出荷量の変化に合わせて置き場所そのものを動かせる、フリーロケーションという考え方もあります。どちらも、探す時間をなくすための仕組みです。
ただし、倉庫の中だけで完結させようとすると、レイアウト改善はどうしても手詰まりになります。入荷のタイミングが読めなければ置き場所も固定しづらいですし、出荷の波が急に変われば、せっかく作った動線もすぐに崩れます。倉庫は調達から販売までの一本の流れの中の一区画にすぎません。SCM構築の視点で全体のつながりを整えるほど、倉庫のレイアウトも安定します。
歩く距離を減らすことは、単なる効率化の話にとどまりません。人手が思うように確保できない今、同じ人数でどれだけ多くの出荷をこなせるかが現場の生命線になっています。物流2024年問題で運べる荷物の総量自体が制約を受けるようになった以上、倉庫内の一歩一歩を削ることは、後回しにできる改善ではなくなっています。
一段深く:レイアウトは「今の棚」を前提にしない
デザイン思考の基本は、今あるものを前提にしないことです。倉庫のレイアウトも同じで、多くの現場は「今の棚の並び」を動かせないものとして、そこに合わせて作業を組み立てています。でも本来の順番は逆です。どの品目がどれだけ動くかという目的、つまり出荷の実態が先にあり、棚の並びはそれを実現するための手段にすぎません。
物流・生産管理の現場に立ってきた実感として、台帳に書かれた置き場所と、担当者が実際にたどる足取りは、必ずしも一致していないことが多くあります。よく出る部材が奥の棚に置かれ、ほとんど動かない部材が通路の入口近くを占領しています。現場では珍しくない光景です。棚の配置は、多くの場合「最初にどこが空いていたか」で決まり、「何がよく出るか」では決まっていません。歩数を数えながら歩くと、レイアウトの理屈と現場の実態のズレが、数字になって見えてきます。
この見立てが大事なのは、レイアウトを一度整えて終わりにしないためです。出荷の傾向は季節や商品構成で変わり続けるので、手順5の「定期的に測り直す」を繰り返すことが欠かせません。
よくある質問
Q. ピッキング効率を上げる一番手軽な方法は?
A. まず歩数を測ることです。設備投資をする前に、今どれだけ歩いているかを事実として把握するだけで、優先して手を付けるべき場所が見えてきます。
Q. 倉庫が狭く、通路の形を大きく変えられない場合はどうすればいいですか?
A. 通路そのものを動かせなくても、出荷頻度で置き場所の中身を入れ替えるだけで効果は出ます。棚の位置は動かさず、棚に載せる品目を出荷頻度順に並べ替えます。これだけでも歩く距離は縮まります。
まとめ
倉庫レイアウトの改善は、大きな設備投資から始める必要はありません。まず歩数を測り、出荷頻度でAランクを近くに寄せ、通路の往復を減らし、置き場所をシステムで管理し、定期的に測り直します。この5つの手順は、どれも「今の棚」を疑うところから始まります。全部を一度にやらなくて構いません。まずは自分の倉庫で、ピッキング担当がどれだけ歩いているかを数えてみてください。
倉庫の動線設計や在庫の持ち方の見直しについては、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。