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在庫は“減らせばいい”わけじゃない|在庫最適化の本当の意味

在庫は“減らせばいい”わけじゃない|在庫最適化の本当の意味

「在庫はとにかく減らすべきだ」——多くの現場でそう信じられています。在庫を減らせば資金は寝かさずに済むし、倉庫の坪単価も浮きます。経営会議で「在庫削減」の号令が飛ぶたび、現場は在庫金額という一つの数字を削りにかかります。物流センターの立ち上げや在庫管理の現場を見てきた立場から言わせてください。在庫は「減らせばいい」わけではありません。減らしすぎれば今度は欠品が起き、売れるはずだった商品を逃し、現場は特急便の手配に追われます。

在庫削減のプロジェクトに一度でも関わったことがあるなら、思い当たる場面があるはずです。

在庫最適化とは:まず1分だけ

在庫最適化とは、在庫を「多すぎず・少なすぎず」の水準に保つことです。ゴールは在庫ゼロではありません。過剰在庫による資金の固定化と、欠品による機会損失。この二つのコストを足し合わせた総和がいちばん小さくなる点を探すのが、最適化という作業の中身です。

“減らせばいい”の落とし穴:現場で起きていること

在庫削減を号令にすると、現場は在庫金額という数字だけを見て動きます。私が物流センターで実際に見てきたのは、こういう流れです。棚卸のたびに在庫金額を絞り込む指示が出ます。担当者は発注のロットを小さくし、発注のタイミングを遅らせます。数字上の在庫は確かに減ります。ところがその数週間後、需要が少し跳ねただけで欠品が起き、営業から「なんとかならないか」と特急便の依頼が飛び込みます。倉庫では朝いちばんに棚を数え直し、足りない分をかき集めて緊急出荷の段取りを組む——この対応にかかる送料と人件費は、削った在庫の金額をあっさり上回ることがあります。

ここで見落とされがちなのは、在庫は「悪」ではなく、需要の不確実性に備える“クッション”でもあるという点です。在庫をゼロに近づけるほど、需要のわずかな変動がそのまま欠品として表に出てきます。減らすこと自体を目的にすると、必ずどこかで痛い目にあいます。過剰在庫と欠品は、効いてくるコストの種類がそもそも違います。

何が起きるか

効いてくるコスト

過剰在庫

資金が商品の形で寝てしまい動かない

保管費・金利負担・廃棄ロス

欠品

売れるはずだった注文を逃す

機会損失・特急輸送費・取引先の信用の毀損

片方だけを見て号令をかけると、もう片方のコストが静かに膨らみます。両方を同じ土俵に載せて見ることが、最適化の出発点です。

まずは“数える”ところから

とはいえ、闇雲に在庫を積み増せばいいわけでもありません。理論より先に、まず自社の在庫を性質で分けて数えてみることをお勧めします。

  • ABC分析:出荷金額や出荷頻度で在庫をA(重要)・B・C(少額低頻度)に分類する手法です。多くの現場で、品目数の2割程度にあたるA区分が、在庫金額の大半を占めます。すべての品目を同じ厳しさで管理しようとすると、担当者が疲弊するだけで効果は薄くなります。
  • 在庫回転率:ある期間に在庫が何回入れ替わったかを示す指標です。回転率が極端に低い品目は、資金が商品の形のまま眠り続ける“死蔵在庫”の候補で、まずここから手を付けると効果が見えやすくなります。

一段深く:在庫は“結果”。上流を設計しなおす

ここが本題です。在庫は単独で生まれるものではなく、需要予測の精度、発注のルール、調達のリードタイムという“上流”の結果として積み上がります。だから在庫の数字だけをいじっても、しばらくすればまた元の状態に戻ります。

私はこれを、デザイン思考(「今あるやり方を前提にせず、目的から設計しなおす」姿勢)で見ています。在庫が生まれている場所をひとつずつさかのぼります。発注点(在庫がどこまで減ったら次を発注するか)は適切か。安全在庫(需要のばらつきや欠品の許容度に応じて積む予備の在庫)は、根拠のある数字に基づいているか、それとも「なんとなく多め」で積まれた惰性の数字か。仕入先までのリードタイムは、短縮の余地がないまま所与の前提にされていないか。この三つを目的から問い直すと、在庫は「削る対象」から「設計しなおす対象」に変わります。

発注量そのものにも、勘や慣習に頼らない設計の余地があります。経済的発注量(EOQ)という古典的な考え方は、1回あたりの発注コストと、在庫を持ち続ける保管コストの合計がいちばん小さくなる発注量を、需要量・発注コスト・保管コストの三つから逆算します。式そのものを丸暗記する必要はありません。大事なのは、「発注のロットも、担当者の経験則ではなくコストのトレードオフから導ける」という発想です。安全在庫・発注点・発注量の三つが目的から筋の通った数字になっているか。ここまで踏み込んで初めて、在庫は上流から整った状態になります。

上流でもうひとつ効くのが、需要予測の精度です。過去の実績を単純に平均する移動平均法でも、直近の実績ほど重みを大きくする指数平滑法でも構いません。大切なのは方法をひとつに決めることより、予測と実績の差を毎月見直す仕組みを持つことです。季節性の強い商材ほど、この見直しを惜しむと、ずれを埋め合わせるための安全在庫だけがじわじわ積み上がっていきます。在庫を減らすのではなく、在庫が生まれる仕組みを整える——この順番を逆にすると、たいてい失敗します。

よくある質問

Q. 適正在庫の水準はどうやって決めますか?

A. 需要のばらつき、調達リードタイム、欠品をどこまで許容するか(サービスレベル)の三つから逆算します。品目ごとに事情が異なるため、まずはABC分析でA区分の重要品目から設計するのが現実的な進め方です。全品目を一度に見直そうとすると途中で息切れするので、対象は絞ってください。

Q. 在庫回転率はどのくらいが目安ですか?

A. 業種や商材によって大きく異なり、一律の正解はありません。他社との比較よりも、自社の品目間・時系列で比べ、極端に低い品目を見つけるために使うのがおすすめです。回転率が下がり続けている品目は、需要予測が実態とずれ始めているサインでもあります。

まとめ

在庫は「減らせばいい」わけではありません。過剰在庫のムダと欠品の機会損失、その両方がいちばん小さくなる点を探すのが在庫最適化です。まずは在庫をABC分析で数え、そのうえで在庫が生まれる上流(需要予測・発注のルール・リードタイム)を目的から設計しなおします。在庫金額という一つの数字だけを追いかけるのをやめ、コストと機会損失の両方を同じ土俵に載せて見ます。遠回りに見えて、これがいちばんの近道です。

在庫や需要予測、発注ルールの設計については、SCM構築のご支援お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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