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コラム

中小企業のDXは“何かを買う”ことじゃない|何から始める4段階

中小企業のDXは“何かを買う”ことじゃない|何から始める4段階

「DXを進めましょう」と言われて、頭に浮かぶのはRPAや基幹システムのパンフレットではありませんか。とりあえず何かITツールを入れれば前に進める気がする——そう思っていませんか。

物流の現場からITスタートアップの事業開発まで渡り歩き、いま製造業・物流業のDXを支援する立場から言わせてください。DXは「何かを買う」ことでは始まりません。むしろ、何も買わない期間こそが一番大事です。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?(まず1分だけ)

DXとは、デジタル技術を使って業務や事業のあり方そのものを変えていくことです。よく引かれる整理では、紙をデータに置き換える「デジタイゼーション」→ 個々の業務プロセスをデジタルで作り変える「デジタライゼーション」→ 事業モデルや組織文化まで変える「DX」という順で段階が深くなります。ツール導入は、この一番手前の話にすぎません。

“ツールを入れれば変わる”という思い込み

多くの調査で、中小企業がDXに取り組めない理由の最上位にくるのは「何から手をつけていいか分からない」です。分からないから、営業されるがままにパッケージを導入します。私はこの順番で、何度も同じ結末を見てきました。

たとえば、こんな場面。従業員数十名の工場が、受注管理システムを数百万円かけて刷新します。担当営業は喜んで説明会を開き、画面は確かにきれいになります。ところが半年後、現場では相変わらず紙の日報とExcelが併用されています。理由を聞くと、「システムに入れる項目が、現場の実際の作業順と合っていない」。買ったのはシステムであって、業務の設計図ではなかった——それだけのことです。

ここで抜け落ちているのは、「何のためにこの業務があるのか」を一度棚卸しする工程です。道具を選ぶ前に、まず目的から業務を見直します。私はこれを「現場の1歩の動きから経営システムまでの全体最適」と呼んでいます。ツールはその設計が固まってから選ぶもので、最初に選ぶものではありません。

何から始めるか:4段階で考える

私が支援に入るとき、順番はいつも決まっています。目的から設計しなおす、デザイン思考の型に沿った4段階です。

  1. 1. 可視化:受注から出荷、あるいは問い合わせから契約までの流れを、誰が・何を・どこで扱っているか一枚の紙に書き出します。ツールはまだ使いません。ここで「実は誰も把握していない工程」が必ず見つかります。
  2. 2. デジタイゼーション:紙・口頭・個人のメモをデータに置き換えます。Excelでも構いません。目的は「消える情報」をなくすことで、システムの高機能さは要りません。
  3. 3. デジタライゼーション:個々の業務プロセスをデジタル前提で作り変えます。承認をチャットで済ませ、在庫をリアルタイムで共有します。ここで初めて、業務に合ったツールを選ぶ意味が出てきます。
  4. 4. DX:積み上がったデータと仕組みをもとに、事業のやり方そのものを見直します。新しいサービスの形、組織の役割分担まで踏み込む段階です。

いきなり4に手を伸ばして失敗する会社を、私はいくつも見てきました。1と2を飛ばして3から入るから、現場に合わないシステムが浮くのです。従業員数十名規模なら、1と2だけで景色が変わり始めるのに、数か月とかからないことも珍しくありません。大掛かりな投資は、そこから先の話です。

もう一つの罠:部門ごとにバラバラに始める

ツールから入る失敗には、もう一つの型があります。営業部はCRM(顧客管理システム)を、倉庫はWMS(倉庫管理システム)を、経理は会計ソフトを、それぞれの部門が良かれと思って個別に選ぶという進め方です。各部門は真面目に、自分たちに最適な道具を選んでいます。ところがデータの形式も入力タイミングもバラバラで、結局は誰かが月末にExcelへ手で写し直す羽目になります。物流の現場で何度も見てきた「部分最適の積み上げが、全体ではかえって非効率を生む」構図と、これはまったく同じです。

4段階の1番目「可視化」を部門横断でやる意味は、ここにあります。自部門の業務だけでなく、前工程・後工程が何のデータを必要としているかまで一緒に書き出します。そうして初めて、バラバラに買ってしまう事故を防げます。ツール選定は、部門をまたいだ設計図ができてからでも遅くありません。

一段深く:順番より、目的を疑う

この4段階は、順番そのものより「今のやり方を前提にしない」という姿勢が本質です。デザイン思考の考え方で、私は音響設計と音楽マネジメントを学んだ延長でこの視点を持つようになりました。楽器の配置ひとつでも、「昔からこうだから」ではなく「何を届けたいか」から組み直します。業務も同じです。

可視化の段階で経営者がよく驚くのは、「この承認、実は誰も見ていなかった」「このExcel、もう更新している人がいない」という発見です。DXの一歩目は投資判断ではなく、こうした“見えていなかったものが見える”体験から始まります。ここに一円もかかりません。

「同業他社もDXで成果を出しているから、うちも同じシステムを入れよう」という発想も、実はここでつまずきます。デザイン思考の要は、他社の答えを写すことではなく、同じ問い方を自社に向けることです。扱う商品も、働く人も、顧客との距離も会社ごとに違えば、可視化して出てくる詰まり所も変わります。他社事例は視点の参考にはなっても、自社の設計図の代わりにはなりません。

よくある質問

Q. DXと業務改善は何が違う?

A. 業務改善は既存の業務を「早く・正確に」する取り組みです。DXはそれを土台にしつつ、事業のやり方や組織のあり方まで見直す、より広い変革を指します。業務改善はDXの入口であり、ゴールではありません。

Q. DX担当者がいない会社でも始められる?

A. 始められます。1段階目の可視化は専門知識より「現場を書き出す時間」が要るだけです。専任者がいない会社ほど、まずここから始めて、詰まる工程が見えてから外部の力を借りるのが無理のない順番です。

まとめ

DXは、何かを買うことでは始まりません。まず現状を一枚の紙に書き出し、紙をデータに変え、業務プロセスを作り変え、その先に事業のあり方を見直す——順番を守れば、決して大掛かりな話ではありません。全部を一度に変えようとしなくていい。まずは可視化から始めてみてください。

基幹システムの刷新や業務のデジタル化については、システム・DX支援お問い合わせからお気軽にご相談ください。

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この記事を書いた人

小林悠真(こばやし・ゆうま)/LF&L株式会社 代表取締役。九州大学で音響設計・音楽マネジメントを学びデザイン思考を培った後、ヤマトシステム開発・バンテックで物流/生産管理、ラクスル等のITスタートアップで事業開発・SCM構築を経験。製造業・物流業のDXコンサルタントとして、現場の1歩から経営システムまでの全体最適を支援する。テューバ奏者・LFコンサート代表理事も兼務。

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